平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

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1-1 第二の人生

第3話 冒険者として生きていく 1

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 目が覚めると、快晴の空の下に草原が。後方には、果てがまるで予想できないどこか不気味を感じる森が広がっていた。

 そして自分の格好を検めてみると、上は白い丸首の長袖シャツに下はデニムズボン。

 どうやら転移直前の格好でこの惑星レシレンに降り立ったようだ。

 あの妙にノリの軽い神様の言っていた事は本当で、どうやら俺は本当にこの"レシレン"なる世界で新たな人生を送ることになったようだ。

 だが俺には他の選択肢が無い訳だ。

 この現実を受け入れるより他に道は無いので、不思議と後悔や動揺といったものは湧き出てこない。

(自然豊かな景色……これが地球なら観光気分で安らぎもするけど……)

 神様がなにやら不穏な事を言っていたことを思い出し、ここに留まって居ては危険だと歩き出す。

 ともかく見晴らしの良い草原のに向かい進んでみることにする。

 広がる下草はくるぶし程度のもので、歩きにくいということはなさそうだ。



 歩き始めてしばらく経ったころ。進む先に半透明の水色が丸を形成した物体に遭遇した。

 ゆったりと動いているところを見るに、所謂スライムと呼ばれるモンスターの可能性がある。

 どうしたものかと観察を始めたその時だった。

 自身の中に思念とも感情ともつかない、不思議な情報が流れ込んできた。

『テキ』 『タベモノ』

 途端に緊張が走る。

 丸腰。戦闘はおろか格闘技の経験も一切なし。

 そのほのぼのとした姿から侮っていたが、ただのサラリーマンだった俺には最弱モンスターと呼ばれるスライムですら厳しい相手だろう。

 咄嗟に転がっていた何かの骨らしきものを拾い上げる。

 対するスライムも俺を目指し前進しつつある。

 転移直後。数十分でゲームオーバー死亡なんて結末はあまりにもお粗末なので、意を決し殴りかかってみる。

「このーッ!」

 自分を鼓舞する言葉を発しながら、拾い上げた骨らしきものをスライムめがけ振り下ろす。

 水気を含んだ鈍い打撃音が響く。

 一撃を受けたスライムは、人が座って沈んだビーズクッションのような形に変形し動かなくなった。

(うわ……殺生って初めての経験だな……)

 まだ興奮冷めやらぬ俺の頭の中は、意外と冷静にそんな事を考えていた。

 伝わり来た感情から、スライムが俺を食べようとしていたのは事実だろうが、初めてのことに少し罪悪感を覚えるので合掌しておく。

 ふとスライムの中心に、何か光るものを発見する。

 深い黒色をしている、綺麗な石のような物だ。

 着の身着のまま、金も持たない俺には価値がありそうなものは何であれ重要だ。
 
 
 ふと背筋を伸ばした視線の先、草原を割る道らしきものを発見する。

 これを森とは反対にに進めば、人の気配のする所へ辿り着けるはずだ。

 そう信じ、スライムの石と骨を手に再び歩き出す。


(……何でスライムの考え? 気持ち? が分かったんだろうか)

 先程の戦闘が思い起こされる。

 神様は俺に加護とスキルをくれると言っていたので、その関係なのは間違いないだろう。

 スキルは確か"アイテムBOX"。名称から察するに、恐らく収納に関することだ。

 では、加護の方に意思疎通が出来る能力が備わっているとみるのが自然だろうか。

 だが考えるだけでは結論は出ない。

 神様曰く『体験してみて』とのことだったので検証あるのみだろう。
 
 そんな事を考えながら歩を進めていると、視線の先に大きな城門のようなものが見えてきた。

 どうやら街があるようだ。

 道の先に人の気配を確信し、胸を撫でおろす。



 脇に門番と思われる男性が一人立っている。

 年の頃は四十代後半といったところで、焦げ茶色の短髪で歴戦の戦士然とした雰囲気を纏っている。

「──そこのお前! いったいどうした、なんだその恰好は! どこから来た、身分証は!」
 
 門番らしき男性が矢継ぎ早に声を荒げている。

「どうもこんにちは。すみません、怪しい者では無いんです。旅人……になります」
 
「あのぉ……宿や食事を取りたいのですが、入れてもらえませんか?」

 努めて不快を買わないよう、両手を広げ抵抗の意思が無い事を示しながら答える。

「商人でも冒険者でもなく旅人だぁ? 怪しいなお前、武器は持ってるか」

「御覧の通り骨と石しか持ってません。お金もないです」

「裏門側に来たってことは、あの森から来たってことだ。だがあんな危ない所から骨と石だけ持ってここまで来れるはずがねぇ……なにもんだお前!」

 到底信用は得られないだろうが、仕方がないのでありのままを説明することにした。

「……という訳でして。ここに辿り着いたんです」

「なっ……くぅ~、そうか。よ~っくわかった!」

「大変だったなぁ……何もかも忘れちまってそんな妄想まで……よっぽど酷い目にあったんだなぁ」

 何故か男性が我が事を憂うかのように涙ぐんでいる。

 どうやら盛大な勘違いを引き起こしているようだ。

「──よっしわかった! そういうことならこの俺が面倒見てやる。大船に乗ったつもりで安心しろ!」

「あ、はぁ……」

「俺はビンスって名前だ、お前は?」

 勘違いを正した方がいい気はするが、このチャンスを逃すまいと話に乗る事にする。

「俺は大和希と言います。二十六歳の日本じ──じゃなくて、ごくごく普通の平凡な男です」

「ヤマト・ノゾム? 変わった名だなぁ……」

「──まあいい。じゃあヤマト、早速だがお前の持ってるその骨、それは"コカトリス"って魔物の骨だ。そこそこの値がつくからそれを換金しろ」

(魔物の骨だったのかこれ……えらく丈夫だとは思ったけど。貴重な物なのかな)

「換金するには冒険者ギルドで買い取ってもらう必要がある。その辺は全部俺が教えてやるから安心しろ」

「はい。ありがとうございます」

「俺はあと一刻程で交代の時間だから、暇つぶしがてら話し相手になってくれ。色々話してやる」
 
「わかりました、お世話になります」

 門の脇に二人で腰を下ろし、話を聞かせてもらう事にした。


 ビンスの話によると、"冒険者"とは、魔物を狩ったり素材を採集したりする仕事を生業にしている者のことを言うらしい。

 どうやらこの門番の仕事も、この街の冒険者が希望者の中から当番制で担当するようだ。

 交代までの時間。ビンスと話し込んでいる間にも、冒険者と思われる面々が門をくぐって街へ入る姿を観察していた。

 皆それぞれ剣や弓などの武器を携帯し、迫力ある鉄製の鎧や身軽に動けそうな皮の服を身につけていた。

「よ~。今日は目立った事は無しか?」

 どうやら交代の者がやってきたようだ。

「おう、平和そのものだったぜ。後はよろしくな。俺はこいつの面倒を見なくちゃならねえんでな」

「ま~たお得意のお節介かよ。ほどほどにしとけよ~」

「うっせ! そんなんじゃねえよ。詳しくは後日ってことで、じゃあな」

 仲の良さが窺える会話を交わす二人。

「そんじゃ、行くかヤマト」

 そう言ってビンスは俺を街に招き入れてくれた。
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