平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ

文字の大きさ
4 / 190
1-1 第二の人生

第3話 冒険者として生きていく 2

しおりを挟む

 この世界に転移してきて初めて出会った人間がとても親切な男──名をビンスという──だったのは、俺にとってかなり幸運だった。

 なにせ俺には金も情報も伝手も、何も無い。

 妙な勘違いをされていることには少々後ろめたさも覚えるが、言ってもそう信じてもらえる話ではないし、こちらからビンスを謀るつもりもないので好意に甘えておくことにする。

 交代時間までこの世界の事を色々と教わり、時は夕暮れ。

 裏門から見て北東の方角に街中を歩いて行くと、【冒険者ギルド・サウド支部】と書かれた看板が掲げられた建物に到着した。

 普通の一軒家を横に並べて二軒分ほどの、二階建ての歴史ある雰囲気の建物で、ビンスは勝手知ったる様子で中に入っていく。

「よっキャシー。こいつの冒険者登録と骨の買取査定を頼むぜ」

 ビンスが女性に話しかけている。

「ご新規さんですね。この辺では見ない顔立ちですが……ふふ、ビンスさん。またお節介焼いちゃって」

「うっせ。こいつどうやら酷い目にあったらしくてよ、記憶がなんもねえんだ」

「裏門とこで保護したんだが、しまいにゃわけのわからん、転移がどうのって妄言まで話し出す始末だ。ほっとけねえよ」

「ほほぉ、そうなんですね。ということは、危なそうな人では無いんですよね? ビンスさんが連れてくるのは、大抵訳ありですけど人間性に問題は無い人達ですもんね」

「おう。誰彼構わず世話焼いてるわけじゃねえよ」

 女性とのやり取りを観察していて確信する。

 どうやらビンスは冒険者ギルドから信頼厚い人物のようだ。

「初めまして、ヤマトといいます。ビンスさんの勧めで冒険者として仕事をしたいと思ってます」

「お名前はヤマトさんですね~。少々お待ちください」

 そう言いながら女性が顔写真の部分が空いている運転免許証のようなカードを取り出した。

 そして俺の顔に手をかざすと、カメラのフラッシュのようなまぶしい光が放たれた。

「これでヤマトさんの冒険者証ギルドカードの発行は完了です」

 一瞬のうちにカードに俺の顔が映し出され冒険者証ギルドカードが出来あがる。

 ビンスの説明によると、"フォト"と呼ばれるユニーク魔法らしい。

「それから買取も希望されてましたね? お預かりしますね」

「はい。お願いします」

 スライムの石と骨を手渡す。

「これでお前も"冒険者"ってわけだ。これから一週間ほど、仕事のイロハを教えてやるから任せとけ。とりあえず今日は宿をとってやるからゆっくり休め」

「──お待たせ致しました。スライムの魔石が銅貨一枚、コカトリスの骨が銀貨十枚の買取となります。拝見したところ、お金を入れる袋すら持ってないご様子なので、この袋はサービスしときますね」

 誰もが好感を覚える満面の笑みをこちらに向け、女性が袋を差し出してくれている。

(たまたま拾った骨が一万円程に……)

「明日からこいつも冒険者としてやってくから、よろしく頼むよキャシーちゃん」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ。冒険者さんは多い方が街の安全に繋がりますからね~」

「んじゃ、飯食ってゆっくり休め。宿まで案内するぞ~」

 冒険者ギルドで諸々の予定を終えた俺は、ビンスに続き宿へと向かった。



 当初は一週間程度という話だったのだが、余程面倒見がいい人物らしく、ビンスは一か月ほど俺に付き合ってくれた。

 この一か月の間、ビンスから冒険者としてのイロハを零から教わった俺は、ビンスの事を師匠と呼びすっかり師弟のような関係になった。

『俺の使い古しだが何も無いよりよっぽどいい、使え』

 そう言って短剣や弓、皮の防具など一式を譲ってくれたのも有難い出来事だった。

 街を裏門から出て、草原と森までの範囲限定ではあるが、今では一人でも簡単なクエストならこなせるようになっている。

 転移初日から比べれば収入を得て定宿も決まり、魔法に興味が湧いたり、街の野良達にエサをやれるほどの余裕も。
 
 そして自身の加護やスキルの事についても把握が進んでいる。

 どうやらアイテムBOXとは、異空間を操り物を出し入れ出来る能力のようで、とある採集クエストの最中、両手が塞がるほどの薬草の群生地を発見した際に、突如体の傍に発生した異空間の存在をきっかけに操れるように。

 加護の効能についてだが、初日に出くわしたスライムの意思が伝わり来たあの現象は、やはり偶然では無かったのだ。

 具体的には、俺が意思疎通を図りたいと思った相手が抱えている”意思”が朧げに流れ込んでくるというもの。

 そして身体にも変化が起きており、明らかに日本に居た頃より腕力も脚力も強くなっている事から、どうやら身体能力を強化する力が働いているようなのだ。

 それでもこの世界の人々と比べ、恐らく平均未満の状態なので油断は出来ないままだ。


 
「師匠はもっと実入りの良いクエスト受けないんですか? 師匠は明らかに強いのに、危険の少ない依頼ばかり選んでますよね」

 とある日、ふと気になったので何気なく尋ねてみた。

「ヤマト、お前は何の為に金を稼ぐ? 贅沢はしたいか?」

「生活の為ですね。贅沢は……まあ多少は思います」

「そうか……」

 影を落とす小さな呟きでビンスが答える。

「知っての通り、冒険者って仕事は金を稼ごうと思えばリスクと等価で稼げる仕事だ」

「俺みたいなベテランなら、報酬の高いクエストもこなそうと思えばこなせる。だがやらない。そう決めた」

「え……?」

「お前は命を第一に考えろ。ヤマトよ、記憶を失ってまで折角生き残ったんだ。金より命だぞ」

 いつにも増して真剣なビンスの話は印象深かいものだった。

 真剣な表情やその語り口から『金より命』その言葉を心に刻み、冒険者としてこの世界で生きていこうと背筋を伸ばした。
しおりを挟む
感想 237

あなたにおすすめの小説

転生女神さまは異世界に現代を持ち込みたいようです。 〜ポンコツ女神の現代布教活動〜

れおぽん
ファンタジー
いつも現代人を異世界に連れていく女神さまはついに現代の道具を直接異世界に投じて文明の発展を試みるが… 勘違いから生まれる異世界物語を毎日更新ですので隙間時間にどうぞ

異世界に迷い込んだ盾職おっさんは『使えない』といわれ町ぐるみで追放されましたが、現在女の子の保護者になってます。

古嶺こいし
ファンタジー
異世界に神隠しに遭い、そのまま10年以上過ごした主人公、北城辰也はある日突然パーティーメンバーから『盾しか能がないおっさんは使えない』という理由で突然解雇されてしまう。勝手に冒険者資格も剥奪され、しかも家まで壊されて居場所を完全に失ってしまった。 頼りもない孤独な主人公はこれからどうしようと海辺で黄昏ていると、海に女の子が浮かんでいるのを発見する。 「うおおおおお!!??」 慌てて救助したことによって、北城辰也の物語が幕を開けたのだった。 基本出来上がり投稿となります!

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

yukataka
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

処理中です...