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俺たちが望むもの
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もうすぐ梨夢くんの誕生日。
その日に向けて、俺たちは誕生日プレゼントを考えるのに余念がなかった。
そんな日々の中、梨夢くんに対する周りの反応が前とは少しずつ変わってきていることに、俺らは気付いていた。
もともとそのかわいらしい容姿で目立つ存在ではあったんだけど、ここのところそれに拍車をかけているというか・・・
「なあ周、お前の弟ってなんか綺麗になってない?」
と、今日もクラスメイトに言われた。
「前から可愛い顔してるなあと思ってたけどさ、最近それよりもきれいっつーか、美人?俺の姉ちゃんも言ってたんだけど、なんか色気があるって」
「あ、バレー部の先輩も言ってた。バスケ部の練習中に汗拭いたり水分補給してる姿が妙に色っぽくて見てるとドキドキするって」
「だよな。前からあんなにきれいだったっけ?なんかあった?」
勝手に盛り上がるクラスメイト2人に、俺は冷たい視線を投げる。
「何もないよ。変な目で見るんじゃないよ、俺の大事な弟を」
「だってさー、ついつい見ちゃうじゃん、あんなにきれいだと。前はお前ら兄弟のブラコンっぷりって気持ちわりいって思ってたけど、あんな弟がいたらしょうがないかもなんて思うもん」
「だよなあ。俺の弟と全然違う」
「一緒にすんなよ」
「何だよ!」
けらけらと笑うクラスメイト達を横目で見ながら。
これはやばいと思い始める。
今まで『かわいい』とは言われてても『きれい』と言われることはなかったと思う。
大きな瞳で伏目がちに視線を落とす姿とか、長い睫毛が汗で濡れてる表情とか、赤く上気してる頬とか、白い肌を伝う汗とか―――
とにかく、色気があるんだ。
その瞬間、息をのむほどきれいで・・・・
そんな姿を他のヤロウどもに見せたくなくて、俺はちょっとイライラしていた。
ぷに
突然、俺のほっぺたに梨夢くんの指先が・・・
「周、何怒ってるの?」
部活からの帰り道、梨夢くんが不思議そうに俺を見つめる。
「お、怒ってないよ」
「そう?眉間にしわ寄ってるから」
「別に・・・怒ってるわけじゃないから」
「そうなの?どっか具合悪いとか?」
「全然、違うよ、大丈夫」
心配そうに俺を見つめる梨夢くんにそう言って笑って見せると、ちょっと前を歩いていた慎が俺を振り返ってにやりと笑った。
「周は、すねてるんだよね」
「すねてる?」
「慎!余計なこと言うなよ!」
「ホントのことじゃん」
「何ですねてるの?」
「梨夢くん、いいから!」
「え~、知りたい」
口をとがらせる梨夢くんはかわいいけど、にやにやしてる慎が俺の心を見透かしているようでむかつく!
「梨夢が、最近注目されてるのが気に入らないんだよな?」
「慎!」
「注目?俺が?」
きょとんと、梨夢くんが首を傾げる。
「梨夢くんは・・・・気付いてないでしょ」
「え・・・なにそれ。俺、なんかした?」
「そうじゃないよ、梨夢」
慎が苦笑して梨夢くんの頭を撫でた。
「梨夢が、大人っぽくなったからさ、周りのやつらがどきどきしてるの」
「大人っぽく・・・・?俺が?」
まったくわかってない感じの梨夢くん。
これだから困っちゃうんだ。
「・・・梨夢くんが、きれいになったって俺のクラスメイトも言ってたよ」
「うん、俺の友達も言ってた」
「そうなの?でも・・・周だって背え伸びたし大人っぽくなったじゃん」
「まあね、周も成長はしてるけどさ。そういう、成長期の成長とまたちょっと違うって言うか・・・なあ?周」
「慎の言い方じゃ全くわかんないよ。・・・とにかく、梨夢くんのこと見てるやつらがいっぱいいるの。だから、今まで以上に気をつけないとまた変なやつに目えつけられると困るじゃん」
そう俺が言うと、それでも梨夢くんはわかってないような顔で俺を見た。
「ふうん・・・?でも、それは俺が気をつければ・・・・周、俺のことばっかり気にしないでいいからね?」
「梨夢くん、そういうことじゃないんだ」
「え?」
「梨夢、いいんだよ」
そう言って、慎が梨夢くんの肩を抱く。
「でも、変なやつが近づいてきたときはちゃんと俺らに言ってね。俺らが知らないとこで梨夢が傷ついたりするのだけは、いやだから、ね」
「ん・・・・わかった」
梨夢くんはちょっと笑って・・・。
でも、その時の梨夢くんの表情は何かを言いたげで・・・・
まだ、俺らの知らないことがあるんだなと、俺も慎も思っていた。
『Happy Birthday!梨夢!!』
4人の声がきれいに揃い、梨夢くんがケーキのろうそくの火を一気に吹き消した。
「これで、梨夢も13歳。周とまた同じ年になったな」
廉くんの言葉に、梨夢くんも嬉しそうに笑う。
「うん。これでまた末っ子2人だね」
「え、梨夢くん、もしかしてそれ気にしてんの?」
俺が笑って言うと、梨夢くんが口をとがらせる。
「ちょっとね。だって3ヵ月しか違わないのに、1歳上の間の周、すごい偉そうなんだもん」
「そんなことないでしょ!俺偉そうにしてないよ!」
「偉そうだよ」
「確かに、偉そうだよなあ、周は」
護の言葉に廉くんも慎も頷く。
「うわ、みんなひでえ!俺のことそんな風に思ってたの?俺は梨夢くんのお兄ちゃんとして頑張ってたのに!」
大袈裟にがっかりすると、みんなが笑う。
まったく・・・。
梨夢くんへの誕生日プレゼントは、4人で相談し梨夢くんが好きな紺色のバッグにした。
たまにどこかへ遊びに行こうとなった時に一番荷物の多い梨夢くん。
俺なんかはほとんど手ぶらでスマホくらいしか持たないことが多いけど、梨夢くんは飲み物やハンカチ、ティッシュの他にも目薬や飴、ガムなどなど、とにかくいろいろ持って行きたがるからいつもバッグがパンパンに膨らんでる。
なので、そういうものが全部入り、中にポケットがたくさんついているバッグを選んだのだ。
何をあげても梨夢くんは喜んでくれるけど、これは本当に目をキラキラさせて喜んでくれて、俺たちも心の中でガッツポーズを決めていた。
いや兄貴たちがどうかわからないけど、きっと同じ気持ちだったはず。
ケーキは今回は隣駅のちょっと有名なケーキ屋さんに前もって予約しておいたやつで、梨夢くんの写真を使った特注ケーキだった。
料理も今日は4人で作り、梨夢くんに喜んでもらうことができた。
キラキラの笑顔が見れて、俺たちはそれだけで幸せだった。
とにかく、梨夢くんが笑っていてくれればいいんだ。
それ以上のものなんて――――
何を望む・・・・・?
「今日は、本当にありがとう。料理もケーキもおいしかったし、プレゼントも最高だったよ!」
そろそろ誕生日パーティーもお開き、というところで梨夢くんが言った。
「そう?梨夢が喜んでくれたならよかったよ」
廉くんも満足そうだった。
「うん。でね・・・・。俺から、みんなに言いたいことがあるんだ」
そう言って、梨夢くんはおもむろに立ち上がった。
「何、改まって」
慎が笑ってそう言ったけれど。
でもなんとなく、みんなに緊張が走ったのがわかった。
梨夢くんが、俺たち4人の顔を見渡す。
俺たちは、黙って梨夢くんの言葉を待った。
「・・・・これを言ったら・・・・もしかしたら、皆に嫌われるんじゃないかって、思ってた。今までと同じように一緒にいられないんじゃないかって」
「梨夢くん、そんなわけ・・・・」
「うん。たぶん、そんなことないと思う。4人は俺のこと嫌ったりしないし、何があっても俺と一緒にいてくれる・・・・よね?」
『もちろん!』
「ふふ。ありがと。だから・・・・思い切って言うよ。でも一つ、約束して。今から俺が言うことに対して、何を思ったとしても、今日は何も言わないでほしい。言い逃げになっちゃうけど・・・・。俺、言いたいこと言ったら部屋に行って寝るから。いい?」
その言葉に、さすがに俺たちもちょっと不安になって顔を見合わせたけれど。
「・・・わかった。梨夢がしたいようにしな」
護がそう言って、俺たち3人も頷いた。
「ありがと。じゃあ・・・・言うね」
何となく、俺たちはごくりとつばを飲み込む。
「・・・・俺の好きな人の、こと」
どくんと、胸が鳴る。
梨夢くんの誕生日に、俺らそれを聞くのか・・・・?
「俺が好きなのは―――」
「今、目の前にいる、4人だよ」
そう言って梨夢くんは、極上の笑みを浮かべたのだった・・・・。
その日に向けて、俺たちは誕生日プレゼントを考えるのに余念がなかった。
そんな日々の中、梨夢くんに対する周りの反応が前とは少しずつ変わってきていることに、俺らは気付いていた。
もともとそのかわいらしい容姿で目立つ存在ではあったんだけど、ここのところそれに拍車をかけているというか・・・
「なあ周、お前の弟ってなんか綺麗になってない?」
と、今日もクラスメイトに言われた。
「前から可愛い顔してるなあと思ってたけどさ、最近それよりもきれいっつーか、美人?俺の姉ちゃんも言ってたんだけど、なんか色気があるって」
「あ、バレー部の先輩も言ってた。バスケ部の練習中に汗拭いたり水分補給してる姿が妙に色っぽくて見てるとドキドキするって」
「だよな。前からあんなにきれいだったっけ?なんかあった?」
勝手に盛り上がるクラスメイト2人に、俺は冷たい視線を投げる。
「何もないよ。変な目で見るんじゃないよ、俺の大事な弟を」
「だってさー、ついつい見ちゃうじゃん、あんなにきれいだと。前はお前ら兄弟のブラコンっぷりって気持ちわりいって思ってたけど、あんな弟がいたらしょうがないかもなんて思うもん」
「だよなあ。俺の弟と全然違う」
「一緒にすんなよ」
「何だよ!」
けらけらと笑うクラスメイト達を横目で見ながら。
これはやばいと思い始める。
今まで『かわいい』とは言われてても『きれい』と言われることはなかったと思う。
大きな瞳で伏目がちに視線を落とす姿とか、長い睫毛が汗で濡れてる表情とか、赤く上気してる頬とか、白い肌を伝う汗とか―――
とにかく、色気があるんだ。
その瞬間、息をのむほどきれいで・・・・
そんな姿を他のヤロウどもに見せたくなくて、俺はちょっとイライラしていた。
ぷに
突然、俺のほっぺたに梨夢くんの指先が・・・
「周、何怒ってるの?」
部活からの帰り道、梨夢くんが不思議そうに俺を見つめる。
「お、怒ってないよ」
「そう?眉間にしわ寄ってるから」
「別に・・・怒ってるわけじゃないから」
「そうなの?どっか具合悪いとか?」
「全然、違うよ、大丈夫」
心配そうに俺を見つめる梨夢くんにそう言って笑って見せると、ちょっと前を歩いていた慎が俺を振り返ってにやりと笑った。
「周は、すねてるんだよね」
「すねてる?」
「慎!余計なこと言うなよ!」
「ホントのことじゃん」
「何ですねてるの?」
「梨夢くん、いいから!」
「え~、知りたい」
口をとがらせる梨夢くんはかわいいけど、にやにやしてる慎が俺の心を見透かしているようでむかつく!
「梨夢が、最近注目されてるのが気に入らないんだよな?」
「慎!」
「注目?俺が?」
きょとんと、梨夢くんが首を傾げる。
「梨夢くんは・・・・気付いてないでしょ」
「え・・・なにそれ。俺、なんかした?」
「そうじゃないよ、梨夢」
慎が苦笑して梨夢くんの頭を撫でた。
「梨夢が、大人っぽくなったからさ、周りのやつらがどきどきしてるの」
「大人っぽく・・・・?俺が?」
まったくわかってない感じの梨夢くん。
これだから困っちゃうんだ。
「・・・梨夢くんが、きれいになったって俺のクラスメイトも言ってたよ」
「うん、俺の友達も言ってた」
「そうなの?でも・・・周だって背え伸びたし大人っぽくなったじゃん」
「まあね、周も成長はしてるけどさ。そういう、成長期の成長とまたちょっと違うって言うか・・・なあ?周」
「慎の言い方じゃ全くわかんないよ。・・・とにかく、梨夢くんのこと見てるやつらがいっぱいいるの。だから、今まで以上に気をつけないとまた変なやつに目えつけられると困るじゃん」
そう俺が言うと、それでも梨夢くんはわかってないような顔で俺を見た。
「ふうん・・・?でも、それは俺が気をつければ・・・・周、俺のことばっかり気にしないでいいからね?」
「梨夢くん、そういうことじゃないんだ」
「え?」
「梨夢、いいんだよ」
そう言って、慎が梨夢くんの肩を抱く。
「でも、変なやつが近づいてきたときはちゃんと俺らに言ってね。俺らが知らないとこで梨夢が傷ついたりするのだけは、いやだから、ね」
「ん・・・・わかった」
梨夢くんはちょっと笑って・・・。
でも、その時の梨夢くんの表情は何かを言いたげで・・・・
まだ、俺らの知らないことがあるんだなと、俺も慎も思っていた。
『Happy Birthday!梨夢!!』
4人の声がきれいに揃い、梨夢くんがケーキのろうそくの火を一気に吹き消した。
「これで、梨夢も13歳。周とまた同じ年になったな」
廉くんの言葉に、梨夢くんも嬉しそうに笑う。
「うん。これでまた末っ子2人だね」
「え、梨夢くん、もしかしてそれ気にしてんの?」
俺が笑って言うと、梨夢くんが口をとがらせる。
「ちょっとね。だって3ヵ月しか違わないのに、1歳上の間の周、すごい偉そうなんだもん」
「そんなことないでしょ!俺偉そうにしてないよ!」
「偉そうだよ」
「確かに、偉そうだよなあ、周は」
護の言葉に廉くんも慎も頷く。
「うわ、みんなひでえ!俺のことそんな風に思ってたの?俺は梨夢くんのお兄ちゃんとして頑張ってたのに!」
大袈裟にがっかりすると、みんなが笑う。
まったく・・・。
梨夢くんへの誕生日プレゼントは、4人で相談し梨夢くんが好きな紺色のバッグにした。
たまにどこかへ遊びに行こうとなった時に一番荷物の多い梨夢くん。
俺なんかはほとんど手ぶらでスマホくらいしか持たないことが多いけど、梨夢くんは飲み物やハンカチ、ティッシュの他にも目薬や飴、ガムなどなど、とにかくいろいろ持って行きたがるからいつもバッグがパンパンに膨らんでる。
なので、そういうものが全部入り、中にポケットがたくさんついているバッグを選んだのだ。
何をあげても梨夢くんは喜んでくれるけど、これは本当に目をキラキラさせて喜んでくれて、俺たちも心の中でガッツポーズを決めていた。
いや兄貴たちがどうかわからないけど、きっと同じ気持ちだったはず。
ケーキは今回は隣駅のちょっと有名なケーキ屋さんに前もって予約しておいたやつで、梨夢くんの写真を使った特注ケーキだった。
料理も今日は4人で作り、梨夢くんに喜んでもらうことができた。
キラキラの笑顔が見れて、俺たちはそれだけで幸せだった。
とにかく、梨夢くんが笑っていてくれればいいんだ。
それ以上のものなんて――――
何を望む・・・・・?
「今日は、本当にありがとう。料理もケーキもおいしかったし、プレゼントも最高だったよ!」
そろそろ誕生日パーティーもお開き、というところで梨夢くんが言った。
「そう?梨夢が喜んでくれたならよかったよ」
廉くんも満足そうだった。
「うん。でね・・・・。俺から、みんなに言いたいことがあるんだ」
そう言って、梨夢くんはおもむろに立ち上がった。
「何、改まって」
慎が笑ってそう言ったけれど。
でもなんとなく、みんなに緊張が走ったのがわかった。
梨夢くんが、俺たち4人の顔を見渡す。
俺たちは、黙って梨夢くんの言葉を待った。
「・・・・これを言ったら・・・・もしかしたら、皆に嫌われるんじゃないかって、思ってた。今までと同じように一緒にいられないんじゃないかって」
「梨夢くん、そんなわけ・・・・」
「うん。たぶん、そんなことないと思う。4人は俺のこと嫌ったりしないし、何があっても俺と一緒にいてくれる・・・・よね?」
『もちろん!』
「ふふ。ありがと。だから・・・・思い切って言うよ。でも一つ、約束して。今から俺が言うことに対して、何を思ったとしても、今日は何も言わないでほしい。言い逃げになっちゃうけど・・・・。俺、言いたいこと言ったら部屋に行って寝るから。いい?」
その言葉に、さすがに俺たちもちょっと不安になって顔を見合わせたけれど。
「・・・わかった。梨夢がしたいようにしな」
護がそう言って、俺たち3人も頷いた。
「ありがと。じゃあ・・・・言うね」
何となく、俺たちはごくりとつばを飲み込む。
「・・・・俺の好きな人の、こと」
どくんと、胸が鳴る。
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