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いつかそのタイミングまで

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「梨夢の好きな人って誰かな」

俺は周のベッドでゴロゴロしながら、さっきから何度目かの同じ質問をする。

「その人に告白とかしちゃうのかな」

「・・・・・」

「そんで、その人も梨夢のこと好きだったら付き合ったりするのかな」

「・・・・・」

「梨夢が誰かの恋人になるとか、俺嫌なんだけど」

「・・・・・」

「ねえ周!黙ってないでなんか言ってよ!」

「もう、うるさいよあんたは!人が勉強してるってのに!」

周がとうとう抑えきれなくなったように椅子をくるりと回転させ俺の方を見た。

「夏休みの宿題、全部やってなかったから追加で宿題出されたんだろ?自業自得じゃん」

「・・・・慎に言われるとむかつく」

「まあまあ、それよりもさ、梨夢の好きな人って誰だと思う?」

そう言いながらまたベッドにごろんと転がった俺を、周はじろりと睨んだ。

「俺が知るわけないでしょ。知ってたらとっくにそいつから梨夢くんを遠ざけてる」

「だよねえ・・・・。でも、梨夢って嘘つけないじゃん?それなのに、好きな人がいるって俺らが気付かないなんておかしいと思わない?」

「・・・あんた、時々鋭いこと言うよね。本当に時々」

「む・・・・なんか言い方にとげがあるな。俺のこと馬鹿だと思って」

「だって馬鹿だし」

「おい!」

「そんなことより、それは俺も気になってたよ。梨夢くんにそんな様子があれば絶対俺が気付くのに。全く気付かないなんてありえない」

そう言った周は悔しそうに眉を顰めた。

俺も梨夢に好きな人がいるって知ってから、ずっと考えてた。

それが誰なのか。

どうして誰もそれに気づかなかったのか。


あの時、梨夢は『好きな人ができた』ってとても嬉しそうに言ってたんだ。

本当の兄弟だったら、こういう時一緒に喜ぶものなのかもしれない。

でも俺らはたぶん普通じゃないから。

自分で言うのもなんだけど、普通の兄弟じゃ抱かない感情を梨夢に対してい抱いてる。

血が繋がってないっていうだけじゃない。

それだけじゃ言い表せない。

俺ら兄弟にとって、梨夢は特別な存在で、梨夢が俺ら以外の誰かのものになるなんて、考えられないんだ・・・・。



「で、どうするつもりなの」

周が俺を見る。

「どうって・・・・周はどう思う?」

「わかんない。好きな人が誰なのか、たぶん俺らが聞いても梨夢くんは教えてくれない。そういうとこ、頑固だし。だから、いつか梨夢くんから言ってくれるのを待つしかないと思ってるけど・・・・」

それがいつになるのか。

俺と周は同時にため息をつき、ベッドにごろんと並んで寝転がった。

「・・・俺、将来は梨夢をお嫁さんにしたかったのに」

「はあ!?あんた馬鹿なの?」

「あ!また馬鹿って言ったな!兄ちゃんに向かって!」

「1歳しか違わねえし。梨夢くんが慎のお嫁さんになんてなるかよ」

「なんでだよ!」

「梨夢くんは俺のお嫁さんになるからだよ!」

「お前の方が馬鹿じゃん!ばーかばーか!!」

「おい!!」

ベッドの上でいつの間にかお互い小突いたりくすぐったりしてギャーギャーやり合っていると―――



「―――楽しそうだね」

いつの間にか、梨夢が俺たちを見下ろしていた。

「り、梨夢!」

「梨夢くん!いつの間に?」

「一応ノックしたんだけど、返事がないから・・・って言うか、2人の声、廊下まで聞こえてたし」

「え!」

「まじで?」

「ドタバタしてる音がして、何言ってるかはわかんなかったけど」

「あ・・・そ、そう。えっと・・・あ、洗濯物持ってきてくれたんだ?」

周が、梨夢が持ってきた洗濯物を受け取る。

「ん。けんかしてるのかと思ったけど・・・・大丈夫?」

「「大丈夫!!」」

「ふふ。ならよかった」

「そ、そう言えば梨夢、夏休み終わったらやることがあるとか言ってなかった?それは、やったの?」

俺がそう聞くと、梨夢がちょっと虚を突かれたように一瞬目を瞬かせ、ほんのりと頬を染めた。

「梨夢くん・・・・?何、その反応」

「あ、ごめん。何でもないよ。あの・・・うん、ちゃんとできたよ、大丈夫」

「梨夢・・・・それが何かは俺たちに教えてくれないの?」

「・・・・ごめん。今はまだ・・・・そのうち、言うから。じゃ、俺もう行くね」

そう言うと、梨夢は慌てて部屋を出て行ったのだった。




梨夢がわかりやすく動揺していた。

こんな時はどうするか・・・・。

俺は頭はあんまりよくないけど、勘は働くんだ。




「護くん、聞いていい?」

護くんの部屋へ行くと、ちょうどベッドに入ろうとしているところだったようだ。

「おぅ、何?慎」

「梨夢が、やろうとしてたことって何?」

ピタリと、護くんの動きが止まる。

「やっぱり!知ってるんでしょ、護くん!」

ずいっと護くんに迫る。

「な、何をだよ?俺は何も―――」

「嘘だ!さっき、梨夢に聞いたらめっちゃきょどってたもん。あれは誰かにもう話したってことだ。だからもう俺もそれを知ってるんだと思ってて、なのに知らなかったからそれにびっくりしてたんだ!」

「・・・・よく思いついたね、そこまで」

「俺、意外と馬鹿じゃないんだよ」

「自分で言うなよ・・・てか、そういう勘はいいよな、昔から」

「でしょ?」

得意げに言ってから、いやそうじゃなかったと気づく。

「だから、梨夢のやろうとしてたことって何!?」

「いや・・・・それは、俺からは言えない」

「なんで!」

「梨夢に、言わないって約束したから」

「なんで梨夢は護くんには言ったわけ?」

「それは、俺が一番お兄ちゃんだから」

「そんな理由?」

「うん。あとは、俺が無理やり聞いたから。ごめん、これはほんと・・・俺の粘り勝ちっつうか。梨夢は悪くないから、あいつを責めないでやって」

「責めないけどさ・・・なんで護くんだけなのかと思って」

ちょっと悲しくなるじゃん。

なんて思ってたら、護くんは苦笑して俺の頭を撫でた。

「たぶん、それは梨夢がちゃんとみんなに言えるようになったらわかると思うよ。梨夢が、俺にしか言えなかった理由。俺が特別とかじゃなくて、梨夢がお前らのことを思ってのことだってこと」

「俺らのことを思って・・・?」

「ん。梨夢がすごく優しい子だって、慎も知ってるでしょ?」

「もちろん」

「だから、心配しないで。あいつがみんなに言えるタイミングになるの、待っててやってよ」

「・・・・わかった」

そう言って頷くと、護くんはいつものようにふにゃっと笑った。



一番上の兄ちゃんだってこと、時々忘れるくらいいつもはのほほんとしてる人だけど。

こういう時はやっぱり兄ちゃんだなって思うよ・・・・。




そういえば。

もう少しで、梨夢の誕生日だ。

毎年、不公平にならないように4人で一つのものをプレゼントするのがルールだ。

今年は何をプレゼントするか、そろそろみんなで相談しないとな。


そう思いながら、俺は護くんの部屋を出たのだった。
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