ナタリーの騎士 ~婚約者の彼女が突然聖女の力に目覚めました~

りつ

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6. かつての幼馴染

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 アリシアのそんな心情にもリアンは全く気づかなかった。それどころではない、もっと別の問題で頭がいっぱいだったのだ。

 共に騎士団に合格したオーウェンがどうやら近々結婚するらしい。らしい、というのはリアンとオーウェンはその実力差にはっきりと違いをつけ、リアンの方はいまや王女の側近を務めるほど出世していたからだ。

 二人は同じ職場内にいながらも、滅多に顔を見合わせることもなく、また見かけても以前のように気軽に声をかけることができなかった。

 だが、今回ばかりはそうもいかない。リアンは忙しい合間を縫って、オーウェンのもとへと訪れた。オーウェンは久しぶりの幼馴染の訪問に驚いたようだったが、嬉しそうに部屋へと招き入れてくれた。

「ほんっと王宮ってのは噂が早いよな。お前の耳にまで届いちまうもん」
「そうだな。それは同感だ」

 リアンは王女の詰問を思い出し、深く同意した。そんな彼の顔を、オーウェンはにやにやしながら眺める。

「ま、俺なんかより、お前の方がよっぽど大変そうだけどな」
「大変なのはみな同じだろう」
「まぁ、そうなんだけどよ。俺と違ってお前はあっという間に上に行っちまうんだもんなぁ……やっぱ親父さんの言う通り、リアンは生まれつき騎士になる運命だったんだよ」
「なんだそれは……」

 リアンは勘弁してくれと思いながら、本題に入った。

「それで、結婚するっていうのは本当なのか?」
「おうよ。護衛をしていたお嬢さんとこの旦那さんに気に入られてな」

 リアンがそれを耳にして真っ先に思ったのは、祝福ではなく、なぜという疑問だった。

「お前、ナタリーはどうするんだ?」

 リアンの咎めるような声にオーウェンは鼻白んだようにそれまでの明るさを消した。

「どうって、どういうことだよ」
「ナタリーはお前の帰りをずっと待っているんだぞ」

 いまいちピンと来ていない様子にリアンは苛立つ。こいつはこんなにも無神経な男だったろうかと、かつての友人がまるで別人に見えた。

「そんなこと言われてもなあ。あいつはただの妹だよ」

 それにな、と彼は馴れ馴れしくリアンの肩を掴んだ。

「村娘のナタリーと貴族のご令嬢。出世するならどちらが得か、お前ならよくわかるだろ」

 ナタリーはお前の出世するための道具じゃない。リアンはかっとなってオーウェンを殴ってしまいそうな衝動に駆られたが、すんでのところで思い留まった。

「……もういい。そんなふうに言うなら、あいつは俺がもらう」

 自分の言い方も結局ナタリーを物扱いしていることに気づいたリアンは舌打ちした。だがオーウェンは気にせず、むしろ愉快だと言わんばかりに笑みを取り戻した。

「おう、お前がもらってやれば、ナタリーだって幸せだろうよ。お前の初恋も報われるだろうしな」

 その無神経な物言いにますますリアンは苛立つ。

(ナタリーにはお前しかいないんだぞ)

 あの最後に見せた彼女の涙が今でもリアンには忘れられなかった。あの時は単に好きな人が遠くに行ってしまうから泣いたのだと思ったが、今は違うような気がした。

 子ども相手にも容赦なく暴力を振るう主人から逃げ出し、たった一人で孤児院にやってきたナタリーを常にそばで励ましたのがオーウェンだった。彼女にとって彼は初めて自分を庇護してくれる大切な存在であったに違いない。兄のような、親のような、代えのきかない人間だったのだ。

 また孤児院での暮らしを支えてきたのは最年長であるオーウェンとナタリーだ。そしてそのオーウェンが騎士団に入団することで、ナタリーが最年長となる。それはつまり彼女が孤児院の子どもたちを支えていくことを意味していた。それがどれほど心細いか、どれほどオーウェンを拠り所としていたか。ナタリーの心中を思うとリアンは友人のお気楽さが心底腹立たしくなった。

 友人は浮かれている。孤児から憧れの騎士となり、身分を保障された。貴族の令嬢を射止め、まさに出世街道を順調に進んでいる。ナタリーを選ぶということは、その道を踏み外す行為にほかならない。故郷に置き去りにしてきた少女のことなど、これっぽちも頭にないのだ。

(可哀そうなナタリー)

 それともこれが大人になるということなのだろうか。リアンにはわからなかった。

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