バッドエンド回避のために結婚相手を探していたら、断罪した本人(お兄様)が求婚してきました

りつ

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3、胡散臭い聖職者

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「お嬢様、今日のご予定はいかがします?」
「教会へ行くわ」
「は? 教会?」

 イザベルの世話係であるメイド、ロッティが素っ頓狂な声を上げてイザベルの顔を見つめた。

「なぁに、その信じられない様子は」
「い、いえっ……お嬢様もたまには神に祈りを捧げたくなる時がありますよね!」

(たまには、は余計よ)

 しかし、ロッティが驚くのも無理はないかもしれない。

 イザベルはめったに教会へ足を運ばず、神の存在もあまり信じていなかった。

(もしかすると、今まで神様にお祈りしてこなかったら罰が当たったんじゃ……)

 もはや些細なこと全てが疑わしく思えてきて、手当たり次第に策を講じてやろうという気になってくる。

「教会へはわたし一人で向かうわ」

 外出用の準備を手伝ってもらいながらそう告げると、ロッティは困惑した顔をする。

「そんな、困りますわ。フェリクス様にはいついかなる時でもお嬢様のそばについているよう、きつく言いつけられていますもの」
「すぐ行って帰って来るから大丈夫よ。ね、お願い?」
「いけません!」
「……そう言えばあの花柄の緑のドレス、少し窮屈に感じてきたのよね。誰かもらってくれないかしら」
「もう! 今回だけですよ!」

 ちょろくて……いや、話が早くて助かる。

「じゃあ、留守番お願いね」

 玄関先で扉を開けてくれた執事にはちょっと庭を散歩してくると言って、イザベルは王都の教会へ向かったのだった。

(――とりあえず、来てみたけれど)

 普段来ないだけにイザベルは何をすればいいかわからない。
 ひとまず他の礼拝者たちにまじって神に祈ってみるが、正直これで安心できる気持ちにはならなかった。

「はぁ……どうしよう」
「もし、そこのお嬢さん」
「あっ、そうだ。確か個人で相談もできるのよね。してみようかな……」
「お困りごとでしたら、ぜひ僕が相談に乗りましょう!」
「うーん、でもやっぱり今度にしようかな」

 くるっと方向転換したところで、後ろから「そんなぁ」という情けない悲鳴とどてっと転ぶ音がする。イザベルが何も聴こえなかった振りをして教会を出ようとしたところで「待ってください!」と実に情けない声で呼び止められてしまったのでつい足を止めてしまった。

「お嬢さん! やっぱり僕の声、聴こえていますよね!」
「おかしいわ。さっきから蠅の音がする」
「そんなひどいことおっしゃらず! 美しくて気高くて、とにかく可憐なお嬢さん!」

 なんて白々しい美辞麗句。

 しかしここまで言われるとイザベルもほんの少し構ってあげようかなと思い、振り返ってあげた。

 男は一応、祭服は着ていたものの、黒いレンズの丸眼鏡などかけており、見るからに胡散臭い雰囲気を纏っていた。

「……あの、そんな蔑むような目で見下ろされると、さすがの僕も傷つきます」
「ごめんなさい。兄から知らない人と口を利くなと言われていますの。あと、変質者にも。ですから失礼します」
「ま、待ってください! 僕は確かに冴えない風貌で怪しい者に見えるかもしれませんが、れっきとした聖職者です! この教会で働く者ですってば!」

 慌てて起き上がってこちらににじり寄ってくる姿はどう見ても変質者のそれだ。
 イザベルだけでなく、他の礼拝者たちも怪しい目で男を見ている。

「こら、シャルル! あなたはまた教会に足を運んだ人たちを怯えさせて、いい加減になさい!」

 年嵩の神父がそう一喝したことで、どうやら本当に教会の人間であることをイザベルは納得せざるをえなかった。

「――……それで? どうしてわたしがこんな個室であなたに人生相談しなくてはならないの?」

 ひと悶着あった後、イザベルはなぜかこのシャルルという黒髪もじゃもじゃ男と向かい合っている。兄が一緒にいれば、「危機感が足りない」と小言を食らっただろう。

「その言い方は誤解を招きます。今僕とあなたの前には薄い板があり、この網目状になっているところから、僕の手が見えるはずです。つまり、いかがわしいことなどできる状況ではないので、安心して悩みを相談してください」
「あなたの説明だと、よけいに不安が増すのだけれど……はぁ。そもそも、相談するにしても、別の人間がいいわ」

 男はまだ二十代後半といった見た目で、背は高いがひょろひょろとして頼りない。人生経験も少なくて、頼りにならなそう……というのが、イザベルの正直な感想であった。

「まぁまぁ、そうおっしゃらず。私、こう見えて他人に見えないものが見える方なんです」
「何よぉ、見えるって。幽霊の類? あっ、わかった。そうやって、たかーい聖水とか護符を買わせているのでしょう? この悪徳業者め! あなたたちは庶民の敵よ!」
「いえいえ、そちらの方はさっぱりなのですが……見えるのは、魂の色です」
「魂?」
「の、色です」

 イザベルは黙り込んだ。

「驚きましたか? 無理もありません。しかし本当なのです。このレンズが黒くなっているのも、常に見えてしまって疲れるため見えないよう加工してあるのです」
「……仮にその話が本当だとして、何? あなたはわたしに何が言いたいの?」

 イザベルの声に苛立ちが混じったことを敏感に感じ取ったのか、シャルルは慌てて付け加えた。

「えっとですね、あなたは何か悩んでいるご様子でしたでしょう? 実は僕がそれに気づいたのが、あなたの魂の色が他の人間と違って見えたからなんです」
「他の人間と、ですって?」
「ええ。その、気を悪くしないでほしいのですが、普通の人間の魂は無色透明で、たまに薄い青色の人間もいるんですが……あなたは真っ赤なんです」

 真っ赤。赤。血の色!

 そんな連想がぱっと頭の中で駆け巡り、気づけばイザベルは立ち上がって叫んでいた。

「わたし、帰ります!」

 ガタガタッと衝立の後ろからシャルルが飛び出してくる。

「ま、待ってください! 決して不快な気持ちにさせるわけではなく、このままだとあなたが危ないということをお伝えしたくて――」

 どうしてもイザベルを引き留めたかったのか、シャルルは腕を伸ばして、肩を掴んだ。

 決して強い力ではなかったが、シャルルの手が肩に触れた瞬間、イザベルは雷に打たれたような――そう、夢の中でレーモンに恋に落ちてしまった時のような感覚に襲われて、次の瞬間には洪水のように全く知らない、この世界ではない知識が頭の中に流れ込んできた。

 そのあまりにも信じられない内容と膨大な量にイザベルの頭は受け止めきれず、その場で気を失ってしまった。

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