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10、身体だけ
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「――今日は何をしていた?」
細長いテーブルの端と端に向き合って座り、カチャカチャと食器の鳴る音だけが響く中、クライヴが肉を切り分けながら訊いてきた。セシリアはナイフを止めて、答える。
「帳簿の確認と、メイドを雇う話をしました」
「そうか。他には?」
「他には……お茶をしましたわ。出されたチョコレートケーキが美味しくて……」
(あ、食事中に食べ物の話をしたら、はしたないかしら)
「甘いものが好きなら、食後にも用意させようか」
「えっ? あ、いえ、大丈夫です! ええっと、それよりクライヴ様の方は今日どうでしたか?」
「私の方もいつもと変わらない。議会に出席し、その後は友人と紳士クラブに寄って軽い世間話をした」
「そうですか……」
成人し、爵位を受け継いだ貴族は貴族院に議席を有する。
セシリアには想像のつかないことを論じているのだろう。あまり深堀りして、意見を求められたりなどしたら答える自信がなかったので、セシリアはそれ以上詳細を尋ねることはしなかった。
だがそうすると他に話すこともなくなり、クライヴも会話を振ることはなかったので、二人はただ黙々と出された食事を胃に収めていった。
その後部屋を移してクライヴの晩酌に付き添いながら、頃合いを見て湯浴みを勧め、先に入るよう言われたのでその通りにして、次にクライヴが済ませてくるとなったところで、セシリアはようやく一人になり肩の力を抜いた。
(クライヴ様といる時が、一番疲れるかも……)
一番思ってはいけないことだが、事実であった。
(もう、寝てしまおうかしら)
しかし夫婦そろって就寝するのが何となく決まりのように思え、躊躇われた。
(それに……)
「セシリア」
名前を呼ばれ、どきりとする。日中であったらすぐに振り返っただろうが、なぜか今はできなくて、鏡台の前に座り続けた。
クライヴはそんなセシリアを特に咎めることはせず、近寄ってきて、後ろから抱きしめた。熱い温もりと、自分と同じ石鹸の香りに彼自身の香りが混じった匂いがする。
「いいか?」
首筋に彼の息がかかり、低い声が耳に響く。
セシリアはもうそれだけで胸が苦しくなって、こくりと小さく頷くので精いっぱいだった。
「おいで」
まるで子どものように手を引かれて寝台まで連れて行かれると、先に寝台に上がるよう促される。セシリアはルームシューズを脱いで上がり、枕元まで進むと、彼の方へ身体を向けた。
クライヴはガウンを脱いで近くのソファへ放り投げると、下穿きだけの状態になって上がってきた。上半身を起こしていたセシリアをゆっくりと押し倒し、触れようとしたところで照明の明るさが気になったのか、サイドテーブルへ手を伸ばし、灯りを絞った。
部屋の中は先ほどよりも暗くなったが、お互いの身体を照らすには十分であり、周りが暗い分スポットライトのように光を集めている気がして、セシリアはひどく落ち着かない。
クライヴはそんなセシリアに気づかぬまま、あるいは気づいていても無視して、口づけしてきた。セシリアも諦めた心地で目を閉じて夫の背中に腕を回す。丁寧で、執拗とも言える愛撫を施されて一つに繋がると、徐々に激しく揺さぶられる。
「ぅ、ん、ん……あ、んっ、だめっ――……」
声にならない悲鳴を上げ、セシリアは高みに昇る。一際強い締めつけに襲われたクライヴも快感の呻き声を漏らし、熱い飛沫を最奥へ放った。
二人はガクリと力尽き、汗ばんだ肌が触れて熱いのに退く気力もなく、抱き合ったまま荒い息を吐き続けた。
セシリアは気怠い疲労に身を包まれながら、先ほどの熱に浮かされた自分が消えていき、冷静さを取り戻していくのを感じていた。
どこか冷めた心地にもなるのは、食事の時は上手く話せずにいるのに、閨事だけは息が合ったように彼との親密さが増していくことに、これでいいのかしらという気持ちがあるからだろう。
(痛いより、ずっといいのだけれど……)
快感を得られるようになったのも、クライヴのおかげだと思う。
潤滑油も初めと二回目だけで、今はもう使っていない。彼が指で丁寧に解してくれたおかげで、すぐに濡れてしまうようになった。
(でも……)
ようやく呼吸が整い、クライヴはゆっくりと起き上がった。
「身体は大丈夫か」
「はい……」
じっと自分を見つめていたクライヴは何を思ったのか、身を屈めて、触れるだけの口づけを落とした。そしてまた視線を注いでくる。
毎回あるこの時間にセシリアはいつも戸惑い、気まずさを覚える。
(何か、悪かったかしら)
クライヴと一緒に過ごすようになって一ヵ月。それ以前の交流からも、彼は実に貴族らしく、紳士でありながら、感情をあまり表に出さなかった。それがどこか冷淡にも映り、夫婦の営みも淡白なのかなと思っていたセシリアは、その認識が間違いであったことを身をもって思い知らされた。
いつもの落ち着いた様子からは想像もできぬほど激しく、まるで獣のように彼は自分を貪るのだ。セシリア以上にクライヴは妻の身体を熟知し、弱い所を遠慮なく責め立てて、絶頂へ導く。そして彼自身も、快楽を得るために容赦なくセシリアに熱をぶつけてくる。
普段の彼を知っているからこそ、その激しさに困惑し、別人なのではないかとセシリアは思ってしまう。
(それとも、これが普通なのかしら……)
「おやすみ、セシリア」
クライヴはもう、先ほどの荒々しい素振りなど微塵も見せず、後始末を終えてセシリアの夜着を整えてやると、隣に身体を横たえた。そうして規則正しい呼吸をしながら眠りに落ちていった。
その横顔を見つめながら、セシリアは自分の夫は本当はどういう人なのだろうと思った。
細長いテーブルの端と端に向き合って座り、カチャカチャと食器の鳴る音だけが響く中、クライヴが肉を切り分けながら訊いてきた。セシリアはナイフを止めて、答える。
「帳簿の確認と、メイドを雇う話をしました」
「そうか。他には?」
「他には……お茶をしましたわ。出されたチョコレートケーキが美味しくて……」
(あ、食事中に食べ物の話をしたら、はしたないかしら)
「甘いものが好きなら、食後にも用意させようか」
「えっ? あ、いえ、大丈夫です! ええっと、それよりクライヴ様の方は今日どうでしたか?」
「私の方もいつもと変わらない。議会に出席し、その後は友人と紳士クラブに寄って軽い世間話をした」
「そうですか……」
成人し、爵位を受け継いだ貴族は貴族院に議席を有する。
セシリアには想像のつかないことを論じているのだろう。あまり深堀りして、意見を求められたりなどしたら答える自信がなかったので、セシリアはそれ以上詳細を尋ねることはしなかった。
だがそうすると他に話すこともなくなり、クライヴも会話を振ることはなかったので、二人はただ黙々と出された食事を胃に収めていった。
その後部屋を移してクライヴの晩酌に付き添いながら、頃合いを見て湯浴みを勧め、先に入るよう言われたのでその通りにして、次にクライヴが済ませてくるとなったところで、セシリアはようやく一人になり肩の力を抜いた。
(クライヴ様といる時が、一番疲れるかも……)
一番思ってはいけないことだが、事実であった。
(もう、寝てしまおうかしら)
しかし夫婦そろって就寝するのが何となく決まりのように思え、躊躇われた。
(それに……)
「セシリア」
名前を呼ばれ、どきりとする。日中であったらすぐに振り返っただろうが、なぜか今はできなくて、鏡台の前に座り続けた。
クライヴはそんなセシリアを特に咎めることはせず、近寄ってきて、後ろから抱きしめた。熱い温もりと、自分と同じ石鹸の香りに彼自身の香りが混じった匂いがする。
「いいか?」
首筋に彼の息がかかり、低い声が耳に響く。
セシリアはもうそれだけで胸が苦しくなって、こくりと小さく頷くので精いっぱいだった。
「おいで」
まるで子どものように手を引かれて寝台まで連れて行かれると、先に寝台に上がるよう促される。セシリアはルームシューズを脱いで上がり、枕元まで進むと、彼の方へ身体を向けた。
クライヴはガウンを脱いで近くのソファへ放り投げると、下穿きだけの状態になって上がってきた。上半身を起こしていたセシリアをゆっくりと押し倒し、触れようとしたところで照明の明るさが気になったのか、サイドテーブルへ手を伸ばし、灯りを絞った。
部屋の中は先ほどよりも暗くなったが、お互いの身体を照らすには十分であり、周りが暗い分スポットライトのように光を集めている気がして、セシリアはひどく落ち着かない。
クライヴはそんなセシリアに気づかぬまま、あるいは気づいていても無視して、口づけしてきた。セシリアも諦めた心地で目を閉じて夫の背中に腕を回す。丁寧で、執拗とも言える愛撫を施されて一つに繋がると、徐々に激しく揺さぶられる。
「ぅ、ん、ん……あ、んっ、だめっ――……」
声にならない悲鳴を上げ、セシリアは高みに昇る。一際強い締めつけに襲われたクライヴも快感の呻き声を漏らし、熱い飛沫を最奥へ放った。
二人はガクリと力尽き、汗ばんだ肌が触れて熱いのに退く気力もなく、抱き合ったまま荒い息を吐き続けた。
セシリアは気怠い疲労に身を包まれながら、先ほどの熱に浮かされた自分が消えていき、冷静さを取り戻していくのを感じていた。
どこか冷めた心地にもなるのは、食事の時は上手く話せずにいるのに、閨事だけは息が合ったように彼との親密さが増していくことに、これでいいのかしらという気持ちがあるからだろう。
(痛いより、ずっといいのだけれど……)
快感を得られるようになったのも、クライヴのおかげだと思う。
潤滑油も初めと二回目だけで、今はもう使っていない。彼が指で丁寧に解してくれたおかげで、すぐに濡れてしまうようになった。
(でも……)
ようやく呼吸が整い、クライヴはゆっくりと起き上がった。
「身体は大丈夫か」
「はい……」
じっと自分を見つめていたクライヴは何を思ったのか、身を屈めて、触れるだけの口づけを落とした。そしてまた視線を注いでくる。
毎回あるこの時間にセシリアはいつも戸惑い、気まずさを覚える。
(何か、悪かったかしら)
クライヴと一緒に過ごすようになって一ヵ月。それ以前の交流からも、彼は実に貴族らしく、紳士でありながら、感情をあまり表に出さなかった。それがどこか冷淡にも映り、夫婦の営みも淡白なのかなと思っていたセシリアは、その認識が間違いであったことを身をもって思い知らされた。
いつもの落ち着いた様子からは想像もできぬほど激しく、まるで獣のように彼は自分を貪るのだ。セシリア以上にクライヴは妻の身体を熟知し、弱い所を遠慮なく責め立てて、絶頂へ導く。そして彼自身も、快楽を得るために容赦なくセシリアに熱をぶつけてくる。
普段の彼を知っているからこそ、その激しさに困惑し、別人なのではないかとセシリアは思ってしまう。
(それとも、これが普通なのかしら……)
「おやすみ、セシリア」
クライヴはもう、先ほどの荒々しい素振りなど微塵も見せず、後始末を終えてセシリアの夜着を整えてやると、隣に身体を横たえた。そうして規則正しい呼吸をしながら眠りに落ちていった。
その横顔を見つめながら、セシリアは自分の夫は本当はどういう人なのだろうと思った。
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