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エピローグ
しおりを挟む東京からの出張帰り、新幹線の最終に飛び乗った。何とか今日中に家へ帰れるぞ。そう思ったのに、乗った途端力の抜けるような車内放送。
「今日は西日本全域の豪雨で新大阪から先には行きません」
どうする。明日、午後から打合せがある。絶対に出たい。
豪雨はますますひどくなっていくようで、名古屋から先はほとんど進まない。仕方なく大阪のホテルに予約をとった。
ようやっと新大阪に着いたのは日を越えた午前一時だった。タクシーでホテルまでたどり着いた途端、疲れ切って動く気にもならない。明日は始発の新幹線に乗らなきゃ午後からの打合せに間に合わないのだ。
そう思ってシャワーだけ浴びてベッドに横になる。テレビで大雨情報でもやってないか。テーブルに置いてあったリモコンを手に取った。かなり古い年代物だ。
おや、ローマ字でNORTHCAMPと書いてある。
ボタンの数字も消えかけてよく見えないが、まあ、大雨の情報さえ分かればどのチャンネルでもいいだろう。
ずいぶん豪雨の被害が出たようだ。夜なかなのに各地の被害状況を次々と映し出す。
突然見覚えのある光景が映る。木造の古い橋。濁流となった川にその木造の橋が飲み込まれて流されていく。
「えっ、真法寺橋!」
ショックだった。濁流に浮かびあがってあっという間に流されていく、古い木造の橋。昔、あの橋のたもとにリューイチの育った家があった。中学校に入ると同時に家族と一緒に隣県に転居した。その後しばらく帰っていない。
画像が突然消える。少しして、英字で字幕が出る。
NORTHCAMP1963
映像が白黒になる。小学五年生のリューイチだ。ユーイチもいる。ヒロくんも、タッちゃんも、コウちゃんもいる。シューイチくんだ。野球大会か。みんな楽しそうにしている。懐かしい。もうずい分前のことなのに、みんなあのときのままじゃないか。
でも、なんでだ?
記録的な大雨なんだぞ。大川があふれたんだぞ。真法寺橋が流されたんだ。逃げろよ、危ないだろ!みんなで何をしてるんだ。野球なんかしている場合じゃない。おい、そこは危ないんだ。そうだ、見張り台だ。見張り台の上がいい。早くあの上に逃げろよ!
ユーイチはもういない。シューイチくんもいない。空地もなくなった。松林もない。ほとんど家も建て替わった百番地。だけど、ちゃんと、ほら見守り台が見守っているはずだ。洪水からみんなを守ってくれているはずだ。
いつの間にか眠っていた。
そうそう、早く駅にいかなくては。何としても今日の会議に間に合わせたい。フロントで聞くと、新幹線はいつ動き出すか分からないという。何か方法はないか。そう思ってホテルを飛び出し大阪駅に出たが、最悪だった。新幹線どころか、在来線も、私鉄も全て運休。高速バスさえ走らない。帰る方法がないじゃないか。
ええい、こうなりゃ仕方ない。諦めた。会誰か他の者に会議に出てもらおうと、同僚に連絡を取ってたら、つい先ほど先方からも延期してほしいとの連絡があったという。お互い、豪雨で身動き取れないのだ。
そうと決まれば大阪にまた一泊だ。夕べのホテルにもう一泊しよう。テレビが気にかかった。
『ノースキャンプ 1963』
あれは一体何だったのか?夢にしては鮮明だ。
えーっと、なんというホテルだったかな?
今朝の支払いのレシートを出してみた。あれ、レシートがない!出発の時、慌ててフロントに置き去りにしてしまったのか。バッグに入れたと思ったんだが・・・
ホテルの名前も住所も思い出せない。夕べ予約を取った携帯の発信履歴も残ってない。こんなことってあるのか。
今朝乗った最寄りの地下鉄の駅はなんとか覚えていた。まだ夜明けの薄暗い道だったが、駅から道路を渡った先の坂をまっすぐ登って、高速道路が通る高架下の筋のすぐ角だったはずだ。
いや、それらしい建物は見当たらない。今朝はあったのだ。でも、ホテルがあったと思ったところは古い二階建ての空き店舗で、もうずい分昔に店を閉めてしまったようだ。
おかしい!さびついたブリキの看板に中古ビデオ店とだけ文字が読めた。その横に、『北新町百番地』と書かれた住居表示がある。ここは北新町か。北古新町百番地とは違うのか。
私は一体どこに泊まって、どこでテレビを見たのだろうか?
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