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Case.03【盛夏の潮騒】
day2.3─光る足跡─
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昼下がりの陽射しが傾きはじめる頃、絢葉たちは宿へと戻った。
潮の香りを帯びた髪を洗い流し、湯船で疲れを癒す。
窓の外では、茜色の空がゆっくりと群青へと沈みつつあった。
夕食を終える頃には、空はすっかり夜の色に染まっていた。
絢葉たちは花火を手に、再び浜辺へと向かう。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返った砂浜。
潮風が冷たく、遠くで波がゆっくりと打ち寄せては返している。
浜辺の入り口には、木製の立て看板が立っていた。
『花火の後始末はしっかりと! ゴミは各自持ち帰りましょう』
その文字が街灯の明かりに照らされ、わずかに揺れる。
「……あれ? 全然人いないね?」
文子が辺りを見回す。
夜の海岸には、自分たち以外の人影がひとつもなかった。
「宿の人が言ってたよ。例の“足跡の噂”が出てから、夜には誰も近づかなくなったらしいの。呑気に花火なんてやるのは私たちみたいな新参者くらいなんだって」
京香が笑い混じりに言う。
「なるほどね~。じゃ、独占状態ってことだ!」
文子が線香花火を取り出し、火を点ける。
小さな光の粒が弾け、パチパチと音を立てて夜気を照らした。
打ち上げ花火、ロケット花火──色とりどりの光が空に舞い上がる。
絢葉はその光を見上げながら、どこか現実感のない気持ちでいた。
奏汰は少し離れた場所で、海を眺めていた。
ポケットに手を入れ、波打ち際を無言で見つめる。
光る花火の残光が、彼の横顔を一瞬だけ照らしては消える。
ふいに、奏汰の視線がぴたりと止まった。
そして短く言う。
「……おい」
その声に振り向いた絢葉は、彼の視線の先を追う。
闇の中、白く淡い光が砂浜に点々と連なっていた。
──足跡。
海から浜辺に続く、一列の“光る足跡”。
「ひっ……! ホ、ホントに出た!!」
京香と文子が短い悲鳴を上げ、思わず身を寄せ合う。
絢葉は息を呑み、静かに足跡の方へと歩き出した。
「ちょ、ちょっと絢葉!?」
「行っちゃダメだって!」
制止の声も届かず、絢葉はしゃがみ込み、足跡を観察する。
白い光が、波に濡れた砂の上でぼんやりと脈動していた。
(サイズは……小さい。子ども、かな。裸足じゃない。ビーチサンダル……? でも、なんで光って──)
考え込む絢葉の背後に、影が差す。
奏汰が無言で近づき、ポケットから小さなガラス瓶を取り出した。
「……よぉ。ずいぶん“優雅部”らしくなってきたな」
わずかに笑いながら、その瓶を絢葉に差し出す。
「どうせ調べるんだろ? こんな暗い中じゃ分かんねぇだろうから、光ってる砂だけでも持ち帰っとけ」
絢葉は驚きつつも瓶を受け取る。
「準備がいいですね! ええ、きっと呉宮先輩なら……」
言いながら、光る砂を慎重にすくい入れた。
そしてスマホを取り出し、史桜に電話をかける。
だが、コール音だけが虚しく続き、繋がらない。
「……あれ?」
「アイツ、夏休み中は忙しいって言ってただろ。オレもこっちに来るか、アイツを手伝うか言われて、まだマシそうなこっちを選んだわけだ」
「そうだったんですか……。──ってことは、天野先輩も“逃げてきた”側なんですね」
絢葉が苦笑する。
奏汰は肩をすくめ、「まぁな」とだけ言った。
その後、絢葉は足跡の写真を数枚撮影し、離れて様子を見ていた京香たちと合流した。
帰る際にもう一度振り返る。波打ち際に残る光の列は、未だにぼんやりと輝いていた──
────
宿に戻り、汗を流すため再び入浴を済ませた後。
夜更けの部屋では、文子と京香が布団の上で話し込んでいた。
「いや~、マジで怖かったねぇ……!」
「うん、まさかホントに見るとは思わなかったよ……」
二人の声に、絢葉は苦笑を浮かべながらも、机の上に置いた瓶へと目をやる。
瓶の中の砂は、ただの灰白色の粒にしか見えなかった。
昼間の浜辺と変わらない、普通の砂。
けれど、どこか胸の奥がざわついて仕方がなかった。
やがて照明を落とし、部屋が暗闇に包まれたその瞬間──
絢葉の視界の端で、瓶がわずかに“光った”。
「……っ!? ちょ、ちょっとこれ!」
文子が声を上げ、京香が跳ね起きる。
瓶の中の砂が、再び淡い光を放っていた。
先程の足跡と同じ、冷たい白の輝き。
絢葉は震える手で瓶を持ち上げた。
指の隙間から、幽かな光が漏れ出す。
(ど、どういうこと……!?)
波の音が遠くで響き、部屋の中は静まり返っていた。
まるで──その光だけが、夜の闇に呼吸しているかのように。
潮の香りを帯びた髪を洗い流し、湯船で疲れを癒す。
窓の外では、茜色の空がゆっくりと群青へと沈みつつあった。
夕食を終える頃には、空はすっかり夜の色に染まっていた。
絢葉たちは花火を手に、再び浜辺へと向かう。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返った砂浜。
潮風が冷たく、遠くで波がゆっくりと打ち寄せては返している。
浜辺の入り口には、木製の立て看板が立っていた。
『花火の後始末はしっかりと! ゴミは各自持ち帰りましょう』
その文字が街灯の明かりに照らされ、わずかに揺れる。
「……あれ? 全然人いないね?」
文子が辺りを見回す。
夜の海岸には、自分たち以外の人影がひとつもなかった。
「宿の人が言ってたよ。例の“足跡の噂”が出てから、夜には誰も近づかなくなったらしいの。呑気に花火なんてやるのは私たちみたいな新参者くらいなんだって」
京香が笑い混じりに言う。
「なるほどね~。じゃ、独占状態ってことだ!」
文子が線香花火を取り出し、火を点ける。
小さな光の粒が弾け、パチパチと音を立てて夜気を照らした。
打ち上げ花火、ロケット花火──色とりどりの光が空に舞い上がる。
絢葉はその光を見上げながら、どこか現実感のない気持ちでいた。
奏汰は少し離れた場所で、海を眺めていた。
ポケットに手を入れ、波打ち際を無言で見つめる。
光る花火の残光が、彼の横顔を一瞬だけ照らしては消える。
ふいに、奏汰の視線がぴたりと止まった。
そして短く言う。
「……おい」
その声に振り向いた絢葉は、彼の視線の先を追う。
闇の中、白く淡い光が砂浜に点々と連なっていた。
──足跡。
海から浜辺に続く、一列の“光る足跡”。
「ひっ……! ホ、ホントに出た!!」
京香と文子が短い悲鳴を上げ、思わず身を寄せ合う。
絢葉は息を呑み、静かに足跡の方へと歩き出した。
「ちょ、ちょっと絢葉!?」
「行っちゃダメだって!」
制止の声も届かず、絢葉はしゃがみ込み、足跡を観察する。
白い光が、波に濡れた砂の上でぼんやりと脈動していた。
(サイズは……小さい。子ども、かな。裸足じゃない。ビーチサンダル……? でも、なんで光って──)
考え込む絢葉の背後に、影が差す。
奏汰が無言で近づき、ポケットから小さなガラス瓶を取り出した。
「……よぉ。ずいぶん“優雅部”らしくなってきたな」
わずかに笑いながら、その瓶を絢葉に差し出す。
「どうせ調べるんだろ? こんな暗い中じゃ分かんねぇだろうから、光ってる砂だけでも持ち帰っとけ」
絢葉は驚きつつも瓶を受け取る。
「準備がいいですね! ええ、きっと呉宮先輩なら……」
言いながら、光る砂を慎重にすくい入れた。
そしてスマホを取り出し、史桜に電話をかける。
だが、コール音だけが虚しく続き、繋がらない。
「……あれ?」
「アイツ、夏休み中は忙しいって言ってただろ。オレもこっちに来るか、アイツを手伝うか言われて、まだマシそうなこっちを選んだわけだ」
「そうだったんですか……。──ってことは、天野先輩も“逃げてきた”側なんですね」
絢葉が苦笑する。
奏汰は肩をすくめ、「まぁな」とだけ言った。
その後、絢葉は足跡の写真を数枚撮影し、離れて様子を見ていた京香たちと合流した。
帰る際にもう一度振り返る。波打ち際に残る光の列は、未だにぼんやりと輝いていた──
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宿に戻り、汗を流すため再び入浴を済ませた後。
夜更けの部屋では、文子と京香が布団の上で話し込んでいた。
「いや~、マジで怖かったねぇ……!」
「うん、まさかホントに見るとは思わなかったよ……」
二人の声に、絢葉は苦笑を浮かべながらも、机の上に置いた瓶へと目をやる。
瓶の中の砂は、ただの灰白色の粒にしか見えなかった。
昼間の浜辺と変わらない、普通の砂。
けれど、どこか胸の奥がざわついて仕方がなかった。
やがて照明を落とし、部屋が暗闇に包まれたその瞬間──
絢葉の視界の端で、瓶がわずかに“光った”。
「……っ!? ちょ、ちょっとこれ!」
文子が声を上げ、京香が跳ね起きる。
瓶の中の砂が、再び淡い光を放っていた。
先程の足跡と同じ、冷たい白の輝き。
絢葉は震える手で瓶を持ち上げた。
指の隙間から、幽かな光が漏れ出す。
(ど、どういうこと……!?)
波の音が遠くで響き、部屋の中は静まり返っていた。
まるで──その光だけが、夜の闇に呼吸しているかのように。
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