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Case.03【盛夏の潮騒】
day3.4─輝き─
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夕暮れの砂浜。
潮の香りの中、人影はまばらで、波打ち際にひとり、少女が立っていた。
その手には、小さな瓶。中には淡く光を帯びた粉が揺れている。
「こんばんは。……沙月ちゃん」
背後からかけられた声に、少女は肩を震わせた。
振り向くと、そこには絢葉。その後ろには奏汰、京香、文子の姿。
「……昼間のお姉ちゃん? なに?」
平静を装う沙月に、絢葉は穏やかな微笑みを向ける。
「君だよね。光る足跡を、毎晩残していたのは」
「……なんのこと?」
「その手の瓶。中に入っているのは蓄光パウダーでしょ?それを砂にまいたら、夜になると光る。──違う?」
沙月の指が、無意識に瓶を握りしめる。
視線を逸らしながら、低く呟いた。
「……だったら、なに?」
絢葉は少し寂しげに言った。
「この海で起こった六年前の事故のこと、調べたんだ」
沙月の瞳が見開かれる。
「海水浴に来ていた家族連れ、その子供が溺れた。それを見ていた地元の女の子が助けに行って、子供は助かったけど……その子自身は、戻らなかった。──亡くなったのは“遠野菜月”さん。沙月ちゃんの、お姉さんだよね?」
風が止まり、波音だけが響く。
沙月は俯き、服の裾を強く握りしめた。
「……そう。あの日、私も一緒にいたの。お姉ちゃんが“ここにいなさい”って言って……私は、ただ見てることしか出来なかった。お姉ちゃんが、溺れていくのを」
京香も文子も、息をのんで黙る。
「お姉ちゃんが死んじゃったのが悲しくて、何も出来なかった自分も嫌いになった。でも周りの人は、次の年には何事もなかったみたいに、海で遊んでた。それが悔しかったんだよ。──お姉ちゃんは、なんのために死んだの? って」
沙月の頬を、ひとすじの涙が流れ落ちる。
「だから……思い出させたかった。後悔させたかった。お姉ちゃんのサンダルと、この光る粉を使って。お姉ちゃんが海に戻ってきたみたいに、見せたかったの」
絢葉は静かに頷いた。
「地元の子供で、昼間から浜辺にいれば怪しまれない。夜、人がいなくなってから足跡をつけて、蓄光パウダーをまく。そして、夜中のうちに潮が満ちて、足跡も粉も流される。最初は全然分からなかったけど、潮の満ち引きが、トリックの鍵だったんだね」
沙月はうつむいたまま、かすかに呟く。
「そう。夜にしか現れない方が幽霊っぽいでしょ? ……満足した? 探偵さん」
「ううん」
絢葉の声は柔らかかった。
「まだ、君の心は晴れてない」
「……!」
「お姉さんを失った悲しみも、怒りも、よく分かる。でも、“幽霊の仕業”にしなくてもいいと思う。沙月ちゃんが、お姉さんを思い続けている限り──お姉さんは、君の中で生きてるんだよ」
沙月の瞳から、溢れるように涙がこぼれ落ちた。
「……うん……!」
絢葉はそっと微笑む。
空は茜色から群青へと変わり、波が静かに寄せては返す。
沙月の頬を伝う涙が、やがて静かに止まった。
絢葉は彼女の肩にそっと手を置いた。
「……うん。もう大丈夫だね」
しばしの沈黙のあと、絢葉はぱっと顔を上げた。
「よーし、じゃあ遊ぼう!!」
「えっ!?」
唐突な声に沙月が目を丸くする。
すかさず、京香と文子がにっこり笑って花火の袋を取り出した。
「じゃーん、花火セット~!」
「せっかくだし、みんなでやろ!」
沙月は唖然としつつも、絢葉に手を引かれ、気づけば線香花火を手にしていた。
火をつけると、オレンジ色の火花が静かに弾ける。
その光に照らされ、沙月の表情が次第にやわらかくなる。
笑う。泣きながら、それでも確かに笑っていた。
絢葉はその横顔を見つめ、ほっと微笑んだ。
少し離れたところで、奏汰は無言のまま腕を組み、静かにその光景を見守っていた。
波音と笑い声が、夏の夜に溶けていく。
──それからしばらくして、沙月を家まで送り届けた一行。
遅い帰りを心配していた沙月の両親に事情を話すと、
「夜遅くに子供を連れ出して!」と全員そろってこっぴどく叱られる羽目になった。
「うぅ……思ったよりしっかり怒られた……」
「まーしかたなし! 楽しかったし!」
「なんでオレまで……」
「天野先輩も同罪ですから!」
月の光が、波間に揺れていた。
そしてその夜──海辺には、もう“光る足跡”は現れなかった。
潮の香りの中、人影はまばらで、波打ち際にひとり、少女が立っていた。
その手には、小さな瓶。中には淡く光を帯びた粉が揺れている。
「こんばんは。……沙月ちゃん」
背後からかけられた声に、少女は肩を震わせた。
振り向くと、そこには絢葉。その後ろには奏汰、京香、文子の姿。
「……昼間のお姉ちゃん? なに?」
平静を装う沙月に、絢葉は穏やかな微笑みを向ける。
「君だよね。光る足跡を、毎晩残していたのは」
「……なんのこと?」
「その手の瓶。中に入っているのは蓄光パウダーでしょ?それを砂にまいたら、夜になると光る。──違う?」
沙月の指が、無意識に瓶を握りしめる。
視線を逸らしながら、低く呟いた。
「……だったら、なに?」
絢葉は少し寂しげに言った。
「この海で起こった六年前の事故のこと、調べたんだ」
沙月の瞳が見開かれる。
「海水浴に来ていた家族連れ、その子供が溺れた。それを見ていた地元の女の子が助けに行って、子供は助かったけど……その子自身は、戻らなかった。──亡くなったのは“遠野菜月”さん。沙月ちゃんの、お姉さんだよね?」
風が止まり、波音だけが響く。
沙月は俯き、服の裾を強く握りしめた。
「……そう。あの日、私も一緒にいたの。お姉ちゃんが“ここにいなさい”って言って……私は、ただ見てることしか出来なかった。お姉ちゃんが、溺れていくのを」
京香も文子も、息をのんで黙る。
「お姉ちゃんが死んじゃったのが悲しくて、何も出来なかった自分も嫌いになった。でも周りの人は、次の年には何事もなかったみたいに、海で遊んでた。それが悔しかったんだよ。──お姉ちゃんは、なんのために死んだの? って」
沙月の頬を、ひとすじの涙が流れ落ちる。
「だから……思い出させたかった。後悔させたかった。お姉ちゃんのサンダルと、この光る粉を使って。お姉ちゃんが海に戻ってきたみたいに、見せたかったの」
絢葉は静かに頷いた。
「地元の子供で、昼間から浜辺にいれば怪しまれない。夜、人がいなくなってから足跡をつけて、蓄光パウダーをまく。そして、夜中のうちに潮が満ちて、足跡も粉も流される。最初は全然分からなかったけど、潮の満ち引きが、トリックの鍵だったんだね」
沙月はうつむいたまま、かすかに呟く。
「そう。夜にしか現れない方が幽霊っぽいでしょ? ……満足した? 探偵さん」
「ううん」
絢葉の声は柔らかかった。
「まだ、君の心は晴れてない」
「……!」
「お姉さんを失った悲しみも、怒りも、よく分かる。でも、“幽霊の仕業”にしなくてもいいと思う。沙月ちゃんが、お姉さんを思い続けている限り──お姉さんは、君の中で生きてるんだよ」
沙月の瞳から、溢れるように涙がこぼれ落ちた。
「……うん……!」
絢葉はそっと微笑む。
空は茜色から群青へと変わり、波が静かに寄せては返す。
沙月の頬を伝う涙が、やがて静かに止まった。
絢葉は彼女の肩にそっと手を置いた。
「……うん。もう大丈夫だね」
しばしの沈黙のあと、絢葉はぱっと顔を上げた。
「よーし、じゃあ遊ぼう!!」
「えっ!?」
唐突な声に沙月が目を丸くする。
すかさず、京香と文子がにっこり笑って花火の袋を取り出した。
「じゃーん、花火セット~!」
「せっかくだし、みんなでやろ!」
沙月は唖然としつつも、絢葉に手を引かれ、気づけば線香花火を手にしていた。
火をつけると、オレンジ色の火花が静かに弾ける。
その光に照らされ、沙月の表情が次第にやわらかくなる。
笑う。泣きながら、それでも確かに笑っていた。
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少し離れたところで、奏汰は無言のまま腕を組み、静かにその光景を見守っていた。
波音と笑い声が、夏の夜に溶けていく。
──それからしばらくして、沙月を家まで送り届けた一行。
遅い帰りを心配していた沙月の両親に事情を話すと、
「夜遅くに子供を連れ出して!」と全員そろってこっぴどく叱られる羽目になった。
「うぅ……思ったよりしっかり怒られた……」
「まーしかたなし! 楽しかったし!」
「なんでオレまで……」
「天野先輩も同罪ですから!」
月の光が、波間に揺れていた。
そしてその夜──海辺には、もう“光る足跡”は現れなかった。
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