呉宮史桜の優雅な放課後

詩央

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Case.03【盛夏の潮騒】

day3.3─気まぐれ─

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 沙月と別れたあとも、絢葉の頭から彼女の姿が離れなかった。
 波間を見つめる静かな横顔──そして、履き古したサンダル。
 ほんの些細な違和感が、心の奥に残っていた。

 その後昼食をとるため、仲間たちと海の家へ。
 テーブルに並んだ焼きそばの湯気が、昼下がりの陽炎のように揺れている。

「それにしても、どこへ行っても同じ話だったね」
 京香がコップの麦茶を傾けながら言う。
「“光る足跡”が出るのは夜だけ、場所も毎回同じ……まるで儀式みたい」
「やっぱり、事故の女の子の霊ってことなんじゃない?」
 文子が少し声を落とした。

 絢葉はふとスマホを取り出し、検索を始める。

 調べたのは、数年前の地元紙の記事。
 タイトルを見た瞬間、絢葉は息をのむ。

「……まさか」

 その小さな呟きに、仲間たちが顔を向けた。

「どうしたの、絢葉?」

 絢葉は、自分の“推理”を語る。それを聞いた京香と文子が、ほぼ同時に声を上げた。

「えっ!? 本当に……?」
「じゃあ、あの“光る足跡”って……」

 絢葉は小さくうなずいた。
「たぶん、そう。……でも、まだ分からないこともある。──どうして、足跡は“朝になると消えてしまう”のか」

「上から砂かけちゃえば?」
 文子が気軽に言うと、絢葉は小首を傾げる。
「誰かに見られるリスクを背負ってまで、毎日やるかな……」

「それ言うなら、蓄光パウダー仕込むときも同じじゃん」
 京香の言葉に、絢葉は少し詰まり、うう、と唸る。

「そもそもさ、わざわざ毎日消す必要があんのかな」
「それは……“夜にしか現れない”方が幽霊の仕業っぽいからじゃない?」

 京香と文子は話を続ける。
 その時、奏汰が箸を置いて言った。

「足跡があった場所をもう一度調べてみたらどうだ。何か見落としてるかもしれない」

 そして、四人は再び砂浜へ向かった。
 昼の光が強く、波打ち際の砂は乾いている。
 昨日、足跡があった辺りを中心に掘り返してみるが──

「うーん、何も出てこないね」
 文子がため息をつく。
「ちょっと掘ったくらいじゃ分かんないか。そもそも暗くて正確な位置はよく分からなかったんでしょ? 範囲が広すぎるよ」
「夜にこっそり仕込んで、朝にさっと砂かけておしまい! って感じじゃない?」
 京香が肩をすくめた。

 絢葉は俯きながら、唇を噛む。
(確かに、不確定な要素ばかり。それでも……先輩なら、きっと“少しでも真実に近づこう”とするはず……)

 その瞬間、絢葉のスマホが震えた。
 画面に表示された名前を見て、思わず目を見開く。

『呉宮先輩』

 慌てて通話ボタンを押す。
「せ、先輩っ!」

『やぁ、遅くなってすまないね。今しがた君のメッセージを見たところだ。なにやら面白いことに首を突っ込んでいるようじゃないか』

 絢葉は、これまでの経緯をかいつまんで説明した。
 そして最後に、小さく尋ねる。

「……私は、どうすべきでしょうか。これ以上、踏み込むべきなのかどうか……」

『なるほど。君の友人の助言も、君自身の葛藤も理解できる。だが私は、その“足跡の主”は救いを求めているように感じるね』

 絢葉は、息を呑んだ。

『ならば我々がすることは一つだろう? 人に寄り添い、優雅に真相を明かす。それだけだよ』

「……はい!」
 絢葉の声に力がこもる。

『トリックに関して、一つだけヒントを与えよう。誰もが頭から抜け落ちているようだが──東雲君、“波は気まぐれ”だよ』

 そう言って、通話は途切れた。

 絢葉はしばし立ち尽くし──やがて、
「ああーっ!!」と大声を上げた。

「な、なに!? どしたの!?」
 京香と文子が驚きの声を上げる。
 その横で、奏汰は静かにため息をついた。
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