呉宮史桜の優雅な放課後

詩央

文字の大きさ
28 / 43
Case.03【盛夏の潮騒】

day4─青空─

しおりを挟む
 翌朝。
 宿を後にした四人は、駅へと向かった。夏の日差しはすでに強く、昨夜の出来事がまるで夢だったかのように思える。

 やがて電車がホームに滑り込み、四人は乗り込む。
 発車のベルが鳴るころ、ふと絢葉が窓の外を見た。

 そこに、沙月が立っていた。
 母親と手をつなぎ、もう片方の手を、元気いっぱいに振っている。
 絢葉、京香、文子も笑顔で手を振り返した。

 電車が動き出す。
 海辺の駅がゆっくりと遠ざかり、沙月の姿も次第に小さくなっていった。

「もう大丈夫そうだね!」
 文子が明るく言う。
「そうだねー」
 京香が伸びをしながら応じる。
「……よかった」
 絢葉は小さく呟き、笑った。

 しばらくして、京香と文子は並んで居眠りを始め、奏汰は無言のまま、車窓の流れる景色を眺めていた。
 絢葉はそっとスマホを取り出し、史桜へメッセージを送る。

【これから帰ります】
【無事に解決したようだね】
【はい、ありがとうございました】
【私は何もしていないよ。今回は東雲君の頑張りがあってこそさ】

 絢葉は気恥ずかしそうに笑いながら、もう一度指を動かす。

【ありがとうございます。沙月ちゃんの助けになれて良かったと思います】
【大切な家族を失った悲しみと怒り、察するに余りある。それを乗り越えて前に進まんとする姿、正しく優雅であっただろうね。私も見たかったよ】
【呉宮先輩は、まだお忙しいんですか?】
【ああ、夏季休暇中は家業を手伝っていてね。だが、またなにかあれば遠慮なく連絡してくれたまえ】

 やり取りはそこで途切れた。
 絢葉はスマホを伏せ、隣の奏汰に小声で尋ねる。

「呉宮先輩の家って……?」
 奏汰は少しだけ目を細め、窓の外に視線を戻す。
「……俺から言うことじゃないな。喋っていいことなら、本人からそのうち聞けるだろ」

 その言葉に、絢葉は軽く首をかしげながらも、それ以上は何も言わなかった。
 代わりに、流れゆく夏の空を見つめる。

 果たして、呉宮史桜とは何者なのか──。
 その問いを胸の奥に残したまま、絢葉は遠く続く青空を見つめていた。


Case.03 end──
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

不思議なショートストーリーたち

フジーニー
ミステリー
さくっと読める短編集 電車内の暇つぶしに、寝る前のお供に、毎日の楽しみに。

配信の果て

ほわとじゅら
ミステリー
大人気配信グループ、パンファミのリーダー・スノーの中の人と出会った御堂紗由(みどうさゆ)は、結婚に至るも我慢できないことがあり別れてしまう。配信者とは二度と恋仲にならないことを胸に秘めるも離婚後、困窮した生活から抜け出すため、一時的に配信業界で働くことを決める。 一方、夕暮れの個人配信で宇多野泰人(うたのやすと)は、数年前に大ヒットした「やさいゲーム」の開発者であることをリスナーたちに告白する。昨今、配信界隈で起きた脅迫・器物損壊事件は「やさいゲーム」の実況配信を行った配信者をターゲットとした嫌からせで起きた事件であったため、泰人は配信上で注意喚起を行った。 さらに泰人の相棒・二川幸見(にがわゆきみ)は、配信界隈の嫌からせ事件の裏には、パンファミが所属する事務所ナインズの暗躍を確信する。以前ナインズによる執拗なコラボ勧誘を何度も拒んだことで、事務所側が事件を裏で糸を引いて仕組んでいた可能性が濃厚となった。 真相を暴くため、宇多野と二川は探偵まで雇い、事件の鍵を握るパンファミのリーダーの元妻・紗由に接触を試みようとする。 配信界隈・業界をベースに描くミステリー長編。 ★は、リアルな配信アーカイブのエピソードです。一部、英語配信有り。 ※本作は、紗由と二川の2視点構成。「あらすじ」「タグ」「登場人物」は連載過程で適宜変化します。 ※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。またAI生成による文章作成・構成相談も含め一切行っておりません。本作品は筆者がゼロから執筆しておりますオリジナル作品です。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ノストラダムスの大予言とひふみ神示

蔵屋
ミステリー
 私が高校三年生の時、ある書籍を読んだことがある。  その書籍とは『ノストラダムスの大予言』である。  1973年に祥伝社から発行された五島勉氏の著書。  「ノストラダムスの大予言 迫りくる1999年7の月人類滅亡の日」  今回、このノストラダムスの大予言について考えて見たい。  そして聖典とも言える『ひふみ神示』について分かりやすく解説していきたい。  この小説が読者の皆様の何かのお役にたてれば幸いです。  令和八年二月吉日  小説家 蔵屋日唱

同級生

真田直樹
青春
主人公:新田里奈(にった・りな) 彼氏:藤川優斗(ふじかわ・ゆうと)

処理中です...