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Case.04【虚ろな影】
day1─喧騒の再来─
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夏休みが終わり、静英高校にはざわめきが戻ってきた。
黒板の上には「体育祭まであと一〇日」と赤いチョークで書かれた文字。
九月の陽射しはまだ強いが、風にはほんの少し秋の気配が混じっている。
午後の授業を体育祭の準備に切り替えられた教室では、実行委員たちが競技の出場者を決めたり、練習日程を話し合ったりと慌ただしい。
「あっという間に夏休みも終わっちゃって、もうすぐ体育祭かぁ……なんかやけにみんな張り切ってない」
窓際の席で、文子がプリントをぱらぱらとめくりながら言う。
「先生が先頭に立って張り切ってるからね」
京香が笑って返すと、絢葉は小さくうなずいた。
「……賑やかなのは、悪くないと思うけど」
そんな中、文子が思い出したように顔を上げる。
「そういえばさ、最近ちょっと怖い話、聞いた?」
「怖い話?」
「うん。夜に校内放送で音楽が流れるってやつ」
京香が半分笑いながら肩をすくめる。
「またそういうの? この学校変な噂多いよねぇ。面白い半分なデマも多いんでしょ?」
「でも今回は違うんだって」
文子は少し声を潜めた。
「見回りの先生や警備員が放送室を見に行ったけど、誰も居なくて、放送設備のスイッチとかも全部切られてたんだってさ。近所に住んでる人も実際に音楽を聞いたって」
「なんの曲が流れたの?」
絢葉が問い返す。
文子は首を傾げた。
「なんでかは分からないけど、体育祭で流れるような曲だったらしいよ」
京香が少しだけ真面目な顔になる。
「体育祭の曲?」
「うん。リレーとかで使う、あのテンション上がるやつ」
教室の外では、風に乗ってグラウンドの声がかすかに聞こえる。
部活の掛け声、笛の音、誰かの笑い声。
この楽しそうな空気の中で、果たして本当に新たな謎は生まれているのだろうか。
────
放課後。
教室の喧騒が遠のき、廊下には部活へ向かう生徒たちの足音が響いていた。
絢葉はカバンを抱えながら、いつものように校舎の一番奥、優雅部の部室へ向かう。
扉を開けると、窓際に史桜がいた。白いシャツの袖を軽くまくり、資料をめくっている。
「こんにちは、呉宮先輩」
「やあ、東雲君。今日も暑かったね。体育祭の準備は進んでるかい?」
「ええ、まぁ。うちのクラスは盛り上がってるみたいです」
絢葉は机の上に鞄を置きながら、ふと口を開いた。
「そういえば、呉宮先輩は何の競技に出るんですか?」
「私? 私は騎馬戦の大将さ!」
「……え?」
一瞬、絢葉は固まった。
その姿からは想像がつかなかったが、なぜか脳裏に浮かぶ。
紅い鉢巻をなびかせ、馬上で静かに構える騎士のような史桜の姿が。
「……なんか、似合いますね」
「だろう?」
史桜が笑うと、絢葉の胸の中には小さな疑問が浮かび上がっていた。
「そういえば……夏休みに海でのことがあってから、結局あまり話せてませんでしたけど」
「うん?」
「ずっと気になってたんです。呉宮先輩の“家のこと”って、結局なんなんですか?」
史桜は少しだけ考えるように目を細め、窓の外を一瞬見た。沈みゆく光が瞳に反射して、何かを隠すように見えた。
「──まぁ、いずれ話す時も来るだろう」
と、結局いつもの調子でかわされた。
それ以上は聞けず、絢葉は小さく息をついた。
気まずさを紛らわせるように、別の話題を出す。
「そういえば、今日ちょっと変な噂を聞いたんです。夜の学校で、放送室から音楽が流れるって」
「ああ、私も教室で耳にしたよ」
史桜は椅子にもたれ、腕を組む。
「大変興味深い話だが……どうにも厄介だ。というのも、事が起きるのは“下校時刻後”だそうじゃないか。堂々と調査に行くわけにもいかない」
「確かに……誰かが残って見回ってる時間ですよね」
「うむ。夜の校舎に侵入して、部の存続に関わる問題になるのは避けたい。現状は動けないな」
そんな会話のあと、二人はいつものようにお茶やお茶菓子を嗜みながら他愛のない会話を交わす。
特に依頼などもなく、いつの間にか窓の外では夕陽が沈みかけていた。
橙に染まった校庭では、まだ運動部の掛け声が響いている。
絢葉は少しだけ名残惜しそうに立ち上がった。
「じゃあ、今日は帰りますね」
「ああ。気をつけて」
その日は、結局なにも起こらなかった。
けれど絢葉の胸のどこかで、
夜の放送室に流れる音楽のことが、静かに引っかかっていた。
黒板の上には「体育祭まであと一〇日」と赤いチョークで書かれた文字。
九月の陽射しはまだ強いが、風にはほんの少し秋の気配が混じっている。
午後の授業を体育祭の準備に切り替えられた教室では、実行委員たちが競技の出場者を決めたり、練習日程を話し合ったりと慌ただしい。
「あっという間に夏休みも終わっちゃって、もうすぐ体育祭かぁ……なんかやけにみんな張り切ってない」
窓際の席で、文子がプリントをぱらぱらとめくりながら言う。
「先生が先頭に立って張り切ってるからね」
京香が笑って返すと、絢葉は小さくうなずいた。
「……賑やかなのは、悪くないと思うけど」
そんな中、文子が思い出したように顔を上げる。
「そういえばさ、最近ちょっと怖い話、聞いた?」
「怖い話?」
「うん。夜に校内放送で音楽が流れるってやつ」
京香が半分笑いながら肩をすくめる。
「またそういうの? この学校変な噂多いよねぇ。面白い半分なデマも多いんでしょ?」
「でも今回は違うんだって」
文子は少し声を潜めた。
「見回りの先生や警備員が放送室を見に行ったけど、誰も居なくて、放送設備のスイッチとかも全部切られてたんだってさ。近所に住んでる人も実際に音楽を聞いたって」
「なんの曲が流れたの?」
絢葉が問い返す。
文子は首を傾げた。
「なんでかは分からないけど、体育祭で流れるような曲だったらしいよ」
京香が少しだけ真面目な顔になる。
「体育祭の曲?」
「うん。リレーとかで使う、あのテンション上がるやつ」
教室の外では、風に乗ってグラウンドの声がかすかに聞こえる。
部活の掛け声、笛の音、誰かの笑い声。
この楽しそうな空気の中で、果たして本当に新たな謎は生まれているのだろうか。
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放課後。
教室の喧騒が遠のき、廊下には部活へ向かう生徒たちの足音が響いていた。
絢葉はカバンを抱えながら、いつものように校舎の一番奥、優雅部の部室へ向かう。
扉を開けると、窓際に史桜がいた。白いシャツの袖を軽くまくり、資料をめくっている。
「こんにちは、呉宮先輩」
「やあ、東雲君。今日も暑かったね。体育祭の準備は進んでるかい?」
「ええ、まぁ。うちのクラスは盛り上がってるみたいです」
絢葉は机の上に鞄を置きながら、ふと口を開いた。
「そういえば、呉宮先輩は何の競技に出るんですか?」
「私? 私は騎馬戦の大将さ!」
「……え?」
一瞬、絢葉は固まった。
その姿からは想像がつかなかったが、なぜか脳裏に浮かぶ。
紅い鉢巻をなびかせ、馬上で静かに構える騎士のような史桜の姿が。
「……なんか、似合いますね」
「だろう?」
史桜が笑うと、絢葉の胸の中には小さな疑問が浮かび上がっていた。
「そういえば……夏休みに海でのことがあってから、結局あまり話せてませんでしたけど」
「うん?」
「ずっと気になってたんです。呉宮先輩の“家のこと”って、結局なんなんですか?」
史桜は少しだけ考えるように目を細め、窓の外を一瞬見た。沈みゆく光が瞳に反射して、何かを隠すように見えた。
「──まぁ、いずれ話す時も来るだろう」
と、結局いつもの調子でかわされた。
それ以上は聞けず、絢葉は小さく息をついた。
気まずさを紛らわせるように、別の話題を出す。
「そういえば、今日ちょっと変な噂を聞いたんです。夜の学校で、放送室から音楽が流れるって」
「ああ、私も教室で耳にしたよ」
史桜は椅子にもたれ、腕を組む。
「大変興味深い話だが……どうにも厄介だ。というのも、事が起きるのは“下校時刻後”だそうじゃないか。堂々と調査に行くわけにもいかない」
「確かに……誰かが残って見回ってる時間ですよね」
「うむ。夜の校舎に侵入して、部の存続に関わる問題になるのは避けたい。現状は動けないな」
そんな会話のあと、二人はいつものようにお茶やお茶菓子を嗜みながら他愛のない会話を交わす。
特に依頼などもなく、いつの間にか窓の外では夕陽が沈みかけていた。
橙に染まった校庭では、まだ運動部の掛け声が響いている。
絢葉は少しだけ名残惜しそうに立ち上がった。
「じゃあ、今日は帰りますね」
「ああ。気をつけて」
その日は、結局なにも起こらなかった。
けれど絢葉の胸のどこかで、
夜の放送室に流れる音楽のことが、静かに引っかかっていた。
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