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13話ーヒートのあとで *
しおりを挟む自分の息か戸賀井のものか分からない、はぁ、はぁ、という呼吸音で意識が戻ってくる。
「っ、はっ、あ、あぅ……っ」
一瞬、意識が落ちていたようだ。上半身を深く倒して雄大の首元に顔を埋めている戸賀井は気付いていないようで、熱心に首元を舐っている。
目が覚めたら夢だったということもなく、戸賀井のモノが中を行き来する感触で今の状況を理解すると再び体の奥が疼いてくる。
何度戸賀井の精液が中で放たれただろうか。自分自身も白濁の液以外に得体の知れない透明の体液を幾度も噴出させた。
雄大の陰茎は殆ど力を失っている状態で、体をぐるりと反転させられて床にうつ伏せにさせられても痛みを感じることもない。
足腰が立たないので、下半身は伸ばされたまま戸賀井が尻の少し下に跨ってきて何度果てても硬いままの陰茎が遠慮なしに後ろから入ってくる。
「ん、ぁ、あー……はっ、は、あ、とがいくん、とがいくん」
浅い場所にある雄大の好い所を戸賀井の先端が掠め通っていく。快楽を受容し切った今の雄大はダイレクトに突かれることよりも焦らすようにされる方が堪らなくて、戸賀井が出入りする後ろをきゅうきゅうと無意識に締め上げる。
「はー……っ……門村せんせっ、おれ、また」
「ん、ぅ、おれも」
こくこくと頷くと顔面が床に擦れる。戸賀井の切なげな声を聞くだけでも脳内が痺れて絶頂まで一気に近付く。
「はっ……ん、ぐ、ぅ」
雄大は息を詰めて、下肢を震わす。
後ろだけで達して全身に力が入ると戸賀井の呻き声が聞こえて最後に強く突かれ体が少しだけ前に動く。そのまま戸賀井が果てて、また中に熱い体液が拡がる。
自分がΩだと分かった時、いつか誰かにこうされる日が来るのだろうと思っていた。
その日を迎えた時、男として屈辱を感じるだろうか、死にたくなったりしないだろうかと碌でもないことを考えたが、今まさにその状況で、雄大は戸賀井の精液で満ちていく感覚に幸福感を覚えている。
相手が良かったとしか思えない。
「んん、ぅ」
射精後も緩々と腰を動かしていた戸賀井が上から首筋を舐ってくる。そういえば仰向けの時から執拗に首を舐めてきた。
そうするのが好きなのか、所謂性癖というやつかなと思っていたが、戸賀井の舌がうなじに触れた時に戸賀井個人の嗜好ではなくαの本能であることに気付いた。
それはΩの雄大にとっても同じで、戸賀井の触れた部分が熱くなって、噛まれたいと思ってしまった。
今はうつ伏せにされて見えないが、薄っすらと開いた唇の先に覗く戸賀井の歯を思い出すとうなじがじくじくと疼く。
動物のように力任せに噛まれ、歯を食い込ませて欲しい。そのまま犯されたい。
首の後ろが戸賀井の唾液によって濡らされる。ベチャベチャと音が立って、このままだと本当に噛まれてしまう恐怖感と期待感が入り混じる。
雄大は一度固く目を閉じてから、自分の首の後ろに手を回す。指先に戸賀井の顔が触れても構わずに自分のうなじを守るように手の平で覆ってしまう。
「戸賀井くん……噛んじゃダメだよ」
自分の声とは思えぬような掠れた声が出た。
ここから先は駄目だと明確な線を引いて戸賀井からうなじを隠すと、下半身に掛かっていた重みがフッと軽くなる。戸賀井が腰を引いたのだと分かった。
「……門村先生、少し楽になりましたか」
セックスのあととは思えぬ冷静な声だった。散々喘いだあととはいえ擦れた声を出した自分が恥ずかしくなる。
いつの間にか羞恥心が自分の中に戻って来ていて、戸賀井の言う通りヒート直後に比べると随分と体が楽になっているのを感じる。
ただそれと引き換えに激しい性行為による気怠さ、痺れは当然残って下半身は絶命状態だ。
「Ωの子宮にαの精液を注ぐとヒートが治まるというデータがあります」
「……あ、それで楽になったんだね」
「緊急事態とはいえ説明もなく中に出してしまいましたが、門村先生には抑制剤と別にピルを飲んで貰ってますので、妊娠はしません」
戸賀井の言葉で、抑制剤を口移しで飲まされた時のことを思い返す。確かに、二錠あった。言われなければ忘れていたような疑問が晴れて、雄大は「ありがとう」と礼を言う。
「起きれますか」
「うん……なんとか」
「またぶり返す可能性もありますし、今の内に門村先生は風呂に入って部屋に籠ってください」
「ありがとう。そうさせて貰います」
戸賀井の素っ気ない様子に雄大もやや冷めたように返す。
やはりセックスのあととは思えない。何というか炭酸水を一気飲みしてその味気無さにがっかりしている感じだ。
甘さを求めているわけではないし、求めてはいけないというのも分かっているのに、甘味料とは心を惑わすものだなと雄大は足を動かして床に膝をつく。
「……だめだ……生まれたての子馬みたいになっちゃう……」
両膝を床に立て、四つん這いになると足がガクガクと震える。
見兼ねた戸賀井が手を貸してくれて何とか風呂場まで辿り着き、温かいシャワーを浴びると漸く自分で自分の体重が支えられるようになる。
「……ん、っ」
腹に力を込めずとも後ろの穴からトロトロと体液が零れ出る。自分で触るのは初めてだが躊躇している場合ではなく、人差し指と中指を突っ込んで、下りてきている戸賀井の精液を掻き出す。
「ど、どんだけ出してんだ……」
思わず呟いた声が浴室内に反響する。ドバドバと溢れ出て雄大の足を伝う粘液はやがてシャワーの水滴と混じって流れ消えていく。
下を向いて体液の行く末を無表情で眺めながらも、雄大はαのマーキングが消えていくような寂しさを覚えた。
Ωだからそう感じる。
戸賀井が相手だからではない。αの力強さや匂いに魅かれるのはΩの本能だからだ。
雄大は自分に言い聞かせながら今日これまでに抱いた感情全てをシャワーと共に洗い流した。
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