21 / 35
20話ー怒ってる?
しおりを挟む戸賀井の帰りを夕飯作りをしながら待って、彼が帰宅したら先にシャワーを浴びて貰い、ダイニングテーブルに作ったシチューとサラダ、それだけでは足りないだろうからとおにぎりを握り、それでも若い戸賀井には物足りないかとパンまで用意した。
テーブルに並ぶ炭水化物のオンパレードを眺めているとシャワーから戻って来た戸賀井が肩に掛けたタオルで髪を拭きながら「うまそ~」と可愛らしい声を上げる。
「パンとおにぎりはなかったなって思ってたとこ」
「え、全然良いじゃないですか。俺全部食いますよ」
機嫌が良い。
これはイケる。
元教え子の兼田駿とその兄の翔と食事に行くことになりそうだと伝えるなら今しかないのでは。「さぁさぁ座って」と戸賀井を椅子に座らせ、缶ビールをコップに注いで差し出す。
それから雄大も椅子に腰を下ろして「あのね」と切り出した。
「教え子と飯ですか」
「元教え子とそのお兄さんとね」
雄大が説明をしている間、戸賀井は黙って話を聞いてくれる。夕飯を前にちっとも手を動かさず、雄大のことだけを真っ直ぐに見つめて来るからちょっとばかり動揺して、「食べながら聞いて」と途中で催促してしまった。
駿が小学六年の頃にクラス担任をしていて、翔は父兄として参観日や行事に参加してくれていたこと。先日の婚活イベントで偶然翔と再会して三人で食事でもしようという話になったこと。
順を追って話をしたあとで「ご飯に行って来ても良いですか」と戸賀井に尋ねた。尋ねながら自分でも変だなとは思っていた。
きっと前中に相談すれば「番候補であるお友達との付き合いは大事ですよ。戸賀井くんの許可なんて要らないでしょ。門村先生は自由なんだから」と言うだろう。
脳内再生までバッチリ出来て、そんな場面でもないのに笑ってしまうそうになる。
「それ絶対行かないとダメなやつなんですか」
「え、行ったら駄目?」
「駄目っていうか……」
「いや?」
「嫌ですよ。嫌ですけど……あんまり束縛して門村先生に嫌われたくない」
それだけ言うと戸賀井は黙ってしまい、あとは雄大が作った夕飯を全て食べるという宣言通りに黙々と平らげていった。
怒らせたかな。怒らせたよな。
曖昧な関係のまま番になってないとはいえ、いずれはと思っている相手が他の男と食事に行くなんて。でも友人付き合いを規制するのもどうかと思うんだけど――
雄大が洗剤を付けたスポンジで食器の汚れを落とし、隣に並んだ戸賀井が食器に付いた泡を水で洗い流す。シンと静まったキッチンでは水流音と皿同士がカチ合う音だけがする。
このままだと、婚活イベントの前に言い合いになった時のようになってしまう。
どちらが正しいとかどちらが悪いとかそういうものではない。どちらにも言い分があって、避けようのない感情にぶつかって自分でもどうして良いのか分からなくなってるだけだ。
「戸賀井くん……ご飯食べに行くだけだから。行く前と途中と帰る前と帰ったあとにちゃんとメールするし」
「……俺、めちゃくちゃ嫉妬深い束縛男みたいじゃないですか……まぁ実際そうなんですけど」
「ごめん、そういうことを言いたかったんじゃなくて、どうすれば君が快く送り出してくれるかなって考えてるだけ」
「どうしたって快く送り出すなんて出来ませんよ。俺の知らない人と会って欲しくないし、何処にも行って欲しくない……先生のこと閉じ込めてたい」
「……なにそれ、怖いよ」
「やらないですよ、やらないけど……先生のことになるとおかしくなっちゃって。自分でも分かってます」
「じゃあ行かない。戸賀井くんが嫌がるの、俺も嫌だし」
「なんかそれもやだ」
子供のように拗ねた声を出すから、じゃあどうすれば良いの、と笑ってしまう。
そうしたら戸賀井は、はぁーっ、と諦めたように息を吐く。
「こういうの聞くのどうかと思うんですけど……どんな人たちですか? 教え子のお兄さんがあの婚活イベントに来てたっていうのは、Ωとして? それともα?」
「……お兄さんの方はα。弟はどうだったかな。小学校時代の印象は凄く良いよ。兄弟揃って真面目で、優しい、って感じ」
「弟もαかもしれないですね……昔と違ってΩでもαの友人が居るっていうのは珍しくないし、フェロモンで魅かれ合う同士でも損得のない友情関係は築けると思います。実際に俺もΩの友達が居ますし。でも、先生、ちゃんと自覚はありますよね?」
「自覚? ……あるよ」
何の自覚? と思ったけれど、これで答えないのは戸賀井の不信感を生むような気がして、ありますけど? という顔をして返事をした。
「こう見えても先生のこと焦らず待ってるつもりなので。俺のこと……ちょっとは好きですよね?」
ポワ、ポワ、と花弁が舞うような香りがする。戸賀井から漏れるフェロモンの匂いだ。
芳香は雄大の鼻腔を擽り、繋がった口内まで下りて来ると有り得ないはずなのに舌先に甘い味が拡がる。美味しそうだから食べたいという感情に良く似ていて、その内に焦燥感に変わり、激しい欲が湧いて来る――
「先生? 門村先生?」
「あっ、え、なんの話だっけ?」
「このタイミングで聞いてないとかあります?」
他がどうかは分からないが、一瞬、自分のヒートがどのように来るのかそのメカニズムを理解した気がする。といってもヒートが起こる時には様々なパターンがあるというし、今感じた感覚もその一つに過ぎないのかもしれない。
「俺が先生のこと大好きって話をしてたんですけど」
「それは知ってるよ」
簡単に返事をすると戸賀井の恨めしい視線が刺さる。
敢えて目線を合わさずにいると横からキスをされた。戸賀井の唇が雄大の目元に当たって、そのあとで頬にも当たる。
雄大の体は横に軽く揺れ、ここで漸く戸賀井の方を見るともう一度顔を近付けようとしていたので今度は雄大の方から戸賀井の頬にキスを返した。
432
あなたにおすすめの小説
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
変異型Ωは鉄壁の貞操
田中 乃那加
BL
変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。
男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。
もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。
奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。
だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。
ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。
それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。
当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。
抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
【完結済】キズモノオメガの幸せの見つけ方~番のいる俺がアイツを愛することなんて許されない~
つきよの
BL
●ハッピーエンド●
「勇利先輩……?」
俺、勇利渉は、真冬に照明と暖房も消されたオフィスで、コートを着たままノートパソコンに向かっていた。
だが、突然背後から名前を呼ばれて後ろを振り向くと、声の主である人物の存在に思わず驚き、心臓が跳ね上がった。
(どうして……)
声が出ないほど驚いたのは、今日はまだ、そこにいるはずのない人物が立っていたからだった。
「東谷……」
俺の目に映し出されたのは、俺が初めて新人研修を担当した後輩、東谷晧だった。
背が高く、ネイビーより少し明るい色の細身スーツ。
落ち着いたブラウンカラーの髪色は、目鼻立ちの整った顔を引き立たせる。
誰もが目を惹くルックスは、最後に会った三年前となんら変わっていなかった。
そう、最後に過ごしたあの夜から、空白の三年間なんてなかったかのように。
番になればラット化を抑えられる
そんな一方的な理由で番にさせられたオメガ
しかし、アルファだと偽って生きていくには
関係を続けることが必要で……
そんな中、心から愛する人と出会うも
自分には噛み痕が……
愛したいのに愛することは許されない
社会人オメガバース
あの日から三年ぶりに会うアイツは…
敬語後輩α × 首元に噛み痕が残るΩ
Ωの花嫁に指名されたけど、αのアイツは俺にだけ発情するらしい
春夜夢
BL
この世界では、生まれつき【α】【β】【Ω】という性の区分が存在する。
俺――緋月 透真(ひづき とうま)は、どれにも属さない“未分化体(ノンラベル)”。存在すら認められていないイレギュラーだった。
ひっそりと生きていたはずのある日、学園一のαで次期統領候補・天瀬 陽翔(あませ はると)に突然「俺の番になれ」と迫られ、なぜか正式なΩ候補に指名されてしまう。
「俺にだけ、お前の匂いがする」──それは、αにとって最大の禁忌だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる