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第1話 鍵のかかった部屋
しおりを挟む夜遅く、私は会社の資料室にいた。
今日提出の書類を整理し、やっと片付け終わったところだった。
ドアを押すと――鍵がかかっている。
「え?」
手をかざすも、鍵はない。
どうやら、私が出るのを拒むかのように、錠は固く閉じていた。
薄暗い照明の下、机の上の書類に目をやる。
一枚だけ、妙に光を反射している。
手に取ると、日付が昨日ではなく、明日になっていた。
「……なんだ、これは」
秒針が狂ったように、壁の時計が早く進んだり止まったりする。
照明の影が、微かに人影のように揺れる。
耳を澄ますと、呼吸音がもう一つ混ざっている。
私の呼吸ではない、誰かの――いや、何かの声だ。
机の上の書類の文字が、ゆっくり赤く変化していく。
私の名前の横に、赤い文字でこう書かれていた――
「消える」
背筋が凍る。
振り返ると、壁の影がゆっくり動き、私の形に変わる。
鏡のように私を映すのではない。
私を見つめ、にやりと笑っている。
ドアの鍵が、カチャリ、と音を立てた。
だが開かない。
外の廊下からは物音も声も聞こえない。
なのに、扉の向こうで誰かが叩いている――。
その音は確かに、部屋の中からも聞こえている。
息を吸おうとしたら、空気が重く、指先まで冷たくなる。
息が詰まる。
私は壁際に身を寄せるしかなかった。
秒針が狂う。
書類が焦げる匂いを放ち始める。
影が、机の上に伸びてくる。
そして、低く囁く――
「ここから…出られない」
目の前の影が、私の肩に触れた。
冷たく、硬い。
振り返ろうにも、視界が歪む。
私はどこにいるのか。
この部屋は、どこまで現実で、どこからが狂気なのか。
秒針が進むごとに、世界は少しずつ溶けていく。
もはや、逃げられない――。
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