ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作

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第五章 時を越えた禁忌【過去 高田富臣】

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 何も考えずに森の外まで駆け抜けてやるか。鏑木達もいつの間にか姿を消していたし、もしかすると自分が盛大なドッキリ企画に巻き込まれているのではないかとさえ思ってしまう。しかし、それはきっと幻想にすぎない。

 現実だ。目の前で由美香が殺されたのも、あの牛の化け物も。全てが現実であり、その現実は今も高田と背中合わせになっている。

「武器――あいつと会った時に使えそうな武器を探さないと」

 高田はぽつりと呟くと、さらに森の奥のほうに向かって歩き出した。森の入り口のほうで由美香が殺されてしまったこともあり、無意識のうちにそちらを避けてしまったのかもしれない。

 それと、今さらではあるが、高田には森の奥に向かう根拠があったのだ。それは――先に森に入った赤松朱里の存在だった。しばらく1人で森を彷徨うという行為を続けていたせいか、あの赤松朱里でさえ、会えたら心強いのではないかと思えてしまう。少なくとも、1人でミノタウロスの森に入る度胸……いや、無神経さは頼りになる。

 小さな小さな川をまたぐと、見える範囲で先へと続く道を辿る。この先がどのようになっているのかなんて分からないし、どこまで森が広がっているのかも不明である。完全に遭難する人間の動き方であるが、そんなことを考える暇は、今の高田にはまるでなかった。

 目が慣れているとはいえ、一寸先は闇というやつで、少し進んでは立ち止まって先を確認し、また少し進んでは――を繰り返す。

 あの化け物だって、きっと明かりがなければ周りは見えないはずだ。ゆえに暗闇は逆に安全ではないだろうか。暗闇に紛れて襲いかかってくるなんてB級ホラー映画みたいなこと、現実的には不可能のはず。

 あのミノタウロスだって……きっと人間に違いない。

 そう考えた自分にぞっとした。あのミノタウロスの恰好をしたやつが同じ人間なのか。しかしながら、本当に牛の頭を持った人間が存在すると考えるよりかは現実的だ。

「あいつの目的は――なんなんだ」

 ミノタウロスの恰好をしたやつが森の中にいるとして、どうして森の中に入った人間を殺さねばならないのだろうか。なにがしたいのだろうか。

 ただ、ミノタウロスの思惑がなんであれ、高田の答えは決まっている。

 ――こんなところで死にたくない。生きて帰りたい。

 人間なら誰でも願う当たり前のこと。生への願望。日常生活においては気がつかないが、こうして命の危機に晒された今だからこそ、なおさらに生きたいという願望は強くなる。
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