この手に抱くぬくもりは

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紅茶の香りと決意

5話 眠りの灯と囁き

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そろそろ寝る時間になった。
ユリウスは普段より少し照れくさそうに、きらきらした目でルシアンを見上げる。

「今日は、みんなと一緒に寝たい……」

普段は一人部屋で寝ているユリウスだが、今日は特別らしい。小さな頬をほんのり赤く染めている。

ルシアンは柔らかく笑い、ユリウスの頭を撫でた。
「いいよ。今日はみんなで寝ようか」

その様子を見ていたユリルクも、ぱっと笑顔になり、両手を広げて抱きついた。
「にーにーといっしょ!」

ユリウスは驚きつつも嬉しそうに、弟を抱き返す。
その様子を見守っていたレオニスも穏やかに微笑み、
「そうだな。皆で寝ると、きっと楽しいだろう」
と優しく頷いた。

ルシアンとレオニスの頬も、自然と緩む。
家族の温かな空気が、夜の屋敷に静かに広がっていった。

━━━
 
今夜は、レオニスの寝室で眠ることにした。
彼の広いベッドなら、四人でもゆったりと横になれる。

ユリウスとユリルクは、普段と違う部屋に少し興奮気味で、なかなか寝ようとしない。
レオニスに次々と話しかけては、最近あまり話せなかった分を取り戻すように、嬉しそうに言葉を弾ませていた。

ルシアンは微笑みながら、少しだけ厳しく声をかける。
「そろそろ寝ないと、明日起きられないよ」

それでも、二人は渋々布団に潜り込みながらも、小声で内緒話を始める。
ユリルクはまだ上手に言葉を話せないが、それでも一生懸命に頷いていた。
二人は自分たちだけの秘密の会話のつもりだが、ルシアンとレオニスには内容がまる聞こえだった。

「明日は父上とお母様より先に起きて、『行ってらっしゃい』って言うんだ!」
ユリウスの小さな声に、ユリルクが「うん!」と嬉しそうに応える。

その愛らしい計画に、ルシアンは胸がじんわりと温まり、レオニスも静かに笑みを浮かべた。
やがて、二人は眠気に負けて、並んであくびをしながら目を閉じていった。

━━━

ルシアンがそっと布団を掛け直すと、レオニスは静かにその手を取り、指先を絡めた。
ルシアンも握り返し、二人は小さな声で話し始める。
ユリウスとユリルクを起こさぬよう、囁くように。

ルシアンが今日届いたお茶会の招待状について切り出した。
「……反対されるかもと思って、少し不安で」

レオニスは驚いたように目を細め、それから穏やかに笑う。
「反対なんてしないさ。ただ、心配はする。君が嫌な思いをしないか、それだけだよ」
少し間を置き、続ける。
「それに、マルドン夫人なら大丈夫だろう」

「どうして、そう思うのですか?」

「手紙をもらってね。今回のお茶会は、前回と同じ顔ぶれだと書いてあったんだ」
ルシアンが小さく頷く。
「じゃあ、どうして食事のときに“お茶会?”と考えていたんですか?」

レオニスは苦笑した。
「いや、承諾したと思ったらもう開催の知らせが来てね。あまりの行動の速さに驚いたんだ」

ルシアンも思わず笑みをこぼしたが、レオニスはふと真面目な顔に戻る。
「……それに、リーベンハウス夫人も来るだろう?」

ルシアンが首を傾げると、レオニスは少し言いにくそうに言葉を続けた。
「君が、あの方を“素敵だ”と言っていたから……正直、嫉妬した」
 
ルシアンは驚いた。
「レオニス様が、嫉妬した、と……?」

「別に、セリウス様にはそんな感情はありませんし……同じ男のオメガとして、かっこいいな、と思っただけです」
 
レオニスは少し目を逸らしながら、低く呟いた。
「それだよ……かっこいいと、他の男にあまり言わないでくれ……」

ルシアンは驚きと同時に、胸の奥がくすぐったくなった。
「ふふ……」

レオニスは慌てて顔を背ける。
「笑うな……」

「ごめんなさい。でも……嬉しくて」

レオニスは微笑み、そっとルシアンの指先を握り直した。
「でも、リーベンハウス夫人とは、仲良くなってほしいと思っているよ……」

ルシアンはますますくすぐったくなり、微笑みながらも、心の中で嬉しさがじわじわと広がっていった。

━━━━

翌朝。
ルシアンに起こされたユリウスとユリルクは、まだ眠たげな目をこすりながらも、レオニスの支度を見守っていた。

「行ってらっしゃい、父上!」
「きおつけて、いってらしゃい!」

元気に手を振る二人に、レオニスも笑みを浮かべて応える。
ユリウスは少し残念そうに呟いた。
「……計画、失敗しちゃった」

ルシアンは笑いながら髪を撫でる。
「そうだね。でもまた今度、挑戦しよう?」

ユリウスは悔しそうに唇を尖らせ、それでも「行ってらっしゃい、父上!」ともう一度大きな声で叫んだ。
ユリルクもにこにこと手を振り、レオニスは名残惜しそうに笑って屋敷を後にした。

玄関先で、彼は小さくぼやく。
「……行きたくない」

すぐ隣のセバスが、苦笑しながら低く答えた。
「これも、子どもたちの笑顔のためでございますよ、旦那様」

レオニスは肩をすくめ、渋々ながらも馬車へと乗り込んだ。
その背中を、ルシアンと子どもたちは静かに見送った。

屋敷の中には、夜のぬくもりのような、穏やかな空気がまだ残っていた。
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