【完結】浮薄な文官は嘘をつく

七咲陸

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番外編

結婚願望 side エメ

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エメ=デュリュイは昔、ダメ男吸引器という不名誉な称号を得ていた。

ある時は既婚者。エメと嫁にバレたら、「離婚するから関係を続けて欲しい」と言われた。最悪なことに嫁の目の前で。

ある時は浮気男。コイツの場合はエメにバレた瞬間、「彼女と別れてきたから結婚してくれ」と言い放った。

ある時は粘着男。多くのエメの絵が部屋中に飾ってあって、1番怖かったのは画家にエメの寝顔を直接見せて書かせていた。気持ち悪くて絵画は全て燃やした。

ある時は緊縛男。エメの泣き顔や恥じらいが見たい一心で覚えたらしい。そこまでなら可愛かったのだが、事の最中に首を締めるようになった。しかも加減も下手くそで死にかけたので速攻別れた。

ある時は自画自賛男。丸一日自慢話を毎日される。最初の内はこのくらいなら可愛いものだと許容していたが、1ヶ月もされ続けて殺意が湧いてきたので別れた。

そんな感じでとにかくダメな男ばかり捕まえるものだから歩くダメ男吸引器という訳だ。ある種の才能を自分でも感じた。

それには理由がある。
エメは惚れっぽく、そして惚れたら一途でその人を1番に優先させる。そして極めつけは自他ともに認める健気、という事だ。

エメの恋人であるクラーク=アクセルソン。
琥珀を嵌め込んだ瞳にブラウンヘアーで少し地味な印象を持たれやすいが、真面目で誠実を体現したような男であり、性格は優しく穏やか。しかも伯爵家三男で氷の貴公子と呼ばれるほどの実力を持つ。モテないわけがない。

このクラークは、サシャ=イブリックと付き合っていた時期があった。しかしサシャは今の夫、アーヴィン=イブリックに騙され、不貞を働いてしまった。
そのせいでクラークは裏切られたと思い、サシャと別れることになる。

しかし、クラークは一途で誠実な男であり、簡単にサシャの事を忘れることは出来なかった。

エメはそんなクラークも好きだと思った。

サシャを忘れられずに一途なのも悪いことではないし、無理して忘れようとするのはただ苦しみが増すだけだ。

だったら、エメは独りよがりな告白はしないことを決意した。クラークが辛いならば、友達として支える方が良いと本気で思った。

その行動は、女友達に言わせると「健気すぎてまたダメ男を作りそう」とのことだった。

けれど、クラークはエメの何処を気に入ったのか……恐らくこういう健気な所かとは思うが、クラークもエメを好きになってくれた。

クラークはエメのど真ん中ストライクのタイプであった。どこが好きと聞かれたら、優しく穏やかで真面目で誠実な所と速攻で答えられる自信がある。もちろん顔も好きだが。

「エメはそろそろ結婚しないの?」

休日の昼下がりのカフェで、エメはダリル=シェルヴェンと近況報告をしていた。

彼は、噂好きで人間大好きなディラン=シェルヴェンの配偶者であり、サシャ=イブリックの弟である。
昔はサシャを虐めたりしていたようだが、最近はかなり丸くなった。
というのも、サシャを虐めていたツケが自分に回ってきて、ディランに色々と助けて貰ったらしい。そのせいで丸くならざるえなかった。
ダリルとは男友達の中で1番仲が良く、2人でたまに会って近況報告をする。
現在はシェルヴェン家当主の秘書のような仕事をしているようだ。

クラークは本日仕事であり、お互いたまたま暇だったので集まった。

そして、ダリルは突然切り出してきたのだった。

「急に何だよ。 結婚?」
「そう、もう結構長いでしょ。5年……?くらい?」

山もなければ谷もない穏やかな日々が続き、気づけば付き合って5周年を最近祝ったばかりだった。

「あー、まぁなぁ…」
「なにその濁し方。何かあるの?」
「いや、何も無いよ。何も無いから続いてるしな」
「そろそろ先のことも考えないの?」

ダリルは現実主義な面がある。兄のサシャはどちらかと言うとロマンチストらしいが、弟は正反対の性格のようだった。

「うーん……別に俺は結婚したいとは思ってないからな」
「え。意外。エメって結婚願望ないの? クラークさんの誠実さなら結婚してくれると思うけど」

そう。恐らくダリルの言う通り、エメが一言『結婚したい』とポツリと漏らした瞬間、陛下のところに結婚の承諾を貰いに行くだろうくらいにはクラークという男は誠実である。

けれど、エメは『結婚したい』とは本当に思っていなかった。

「だって、別に強制するものでもないし。俺はクラークと一緒に居られるならどんな関係性でも構わないって思ってるからな」
「うわ……出た。エメのダメな所…」

ダリルはエメのこういう一面が今でも理解出来ないらしい。
現実主義のダリルにとって、恋愛といえど、書面での契約がないと不安になるらしい。

「あ。別にクラークさんに探ってくれとか言われたわけじゃないからね。誤解しないでね」
「分かってるよ、大丈夫だって」

そう言ってダリルに微笑むと、安心したのか、ふ、と溜息をついた。

「ま、エメらしいとは思うけどね」
「そーかぁ? でも今度、クラークに聞いてみようかな」
「結婚したい?って?」
「そうそう。 なんて答えるのか興味ある」

ダリルは腕を組んで考え込んだ。恐らくクラークがどのような返答をするか考えているようだった。

「なんか……あんまり想像つかないな。なんでだろ」
「俺が望めば結婚してくれるとは思うけどな? でも『クラークは結婚したい?』って言い方するだけで思いつかないな」
「それね。 エメがその後、『俺はしたいけど』とか付け足せば即結婚してくれる感じだけど。クラークさんの意見だけなら分からないね」
「……なんかちょっとワクワクしてきたな!」

エメが楽しそうにしていると、ダリルも少し口端を上げて微笑む。

「聞いたら教えてよ。興味ある」
「ディランだったらなんて言うんだ?」
「『ダリルが不安なら契約してやるよ』……って言われた」
「アイツの事だからまたダリルに何か要求したんじゃねーのか」

ダリルは前に、サシャを虐めてきたツケである、ダリルの不利な噂を塗り替えるためにディランと5日間キスを要求されていたことがある。
友人として、ダリルのチョロさに本当に心配になったものだ。

すると、ダリルは思い出したように頬を染めて俯いてしまった。

「……要求されたんだな」
「うううるさい! と、とにかくクラークさんに聞いてみてよ!」
「へいへい……」

きっとこれからも、ダリルは色んなことを要求され続けるんだろうな、と友人ながらに心配したのだった。
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