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第3章
カルロとテリアの話 2
しおりを挟むカルロはテリアの腕を引いて立ち上がると、バルコニーの隅にある2人がけの椅子を示した。
「おまえ、俺に聞きたいことがあるんだろ?」
「……」
「異世界の聖女が、今世も現れて俺がそいつに惚れるんじゃないかと思ってるなら馬鹿だぞ」
「だって、前世ではそう聞いてたから」
「俺に直接聞いたことないだろ。
そもそも俺は前世の記憶を思い出したって昨日言っただろ。
なら、当然ーー異世界の聖女のことも思い出してる」
「あ……」
そう言われるとそうだと、テリアはここではっとした。
(既に異世界の聖女の存在を思い出しているカルロが、昨晩や今のような…ゴニョゴニョを私とすると言うことは、そんな関係でない証でもあると、遠回しに伝えてたのね)
「…ごめん」
テリアがポツリと謝ると、カルロは片手で髪をかき上げ、天を仰いだ。
「おまえが馬鹿すぎて、拍子抜けするくらい自分も馬鹿らしく思えてくるから不思議だ」
「まぁ…そうね。
カルロ陛下も大概馬鹿よ。
前の時間軸と、今は違うのに…勝手に一人で焦って追い詰められてとんでもないことしようとするんだもの」
「……」
「一人で皆の憎しみを全部背負う前に、他のやり方を二人で…いや、信用出来る人達で集まって考えよう」
「昨日俺がした提案が、一番手取り早いけどな」
物憂げにそう言って目を伏せるカルロに、テリアは振り向いた。
「まだそんなこと言ってるの?」
「人を増やし、時間を長引かせることが、どれほどリスクを抱えるとおーー」
突然に細い手の中に顔を包まれて、テリアの方を向かされたので言葉に詰まる。
「巫山戯ないで。
私はカルロ陛下がーーカルロが好きだって、言ったのよ。
私にカルロを殺せって言うなら、先にカルロが私を殺して見せないよ!!」
「ーー」
「ほら、早く。
あんたなら、私の首を絞めて殺すことは造作もないでしょ」
怒鳴りつけられながらの告白を受けて、驚き呆けているカルロの両手をとり、テリアの首を包み込むように添えさせた。
「ほら!
どうぞ!!」
「どうぞって…いや。
今そんな冗談やめろよ」
「冗談じゃないわよ。カルロもそうなんでしょ?」
大きな黄金色の瞳が、真剣な光を宿して突き刺してくるようだった。
「おまえ、本当にめちゃくちゃなやつだな」
「その台詞、そっくりそのままお返しするわ」
「……」
「……」
暫くの沈黙の後、カルロはおもむろに「ぷはっ」と吹き出して笑う。
ここ暫く、カルロは本気で危険な橋を渡り、人に恨まれても構わない勢いで政敵を粛正する対策をしてきたし、段取りも着実に整えてきたのにーー全てここに来て勢いを殺されると思わなかった。
もしも、テリアが自分と同じことをしていたらと考えたくもないことを、僅かでも想像させられてしまったからだ。
ーーそうなると、テリアの言うように、遠回りをしてでもやり方を変える方にしていくしかなくなった。
(俺は一生こいつに敵わないんだろうな…)
そう思いながらも、不快な気持ちはひとつもなかった。
カルロの様子を見てテリアは不思議そうに小さく首を傾げながらも、未だ真剣な顔をしている。まるで〝真面目に話してるのだから笑って誤魔化すな〟と言わんばかりだ。
テリアの首元に添えさせられたカルロの手を、スッと上にやると顎下からすくいあげられる様に頬を両手で包み込み、そのままチュッと音を立てて口付けた。
「な、や。ここではやめてって言ったでしょ!」
頬から手を離して、カルロはテリアの耳元で一言ささやいた。
「ーーこれは、おまえが悪い」
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