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第3章
カルロとテリアの話 1
しおりを挟む「待って、行かないで!
お願い待って!貴女に聞きたいことがまだ沢山あるの!
フェリミア!!」
まだ話したいことが沢山あると言うのに、あっという間に風の中へと包まれてゆく妹を追いかけて、テリアはバルコニーへ足を踏み入れた。
手摺りつくと、水色の猫の姿は空の色に溶け込んでしまい、その後はもう跡形も見えない。
「………ありがとう」
生まれてからずっと、彼女の側にいた。
賢くて優しくて、綺麗だけど繊細なところもある私の2つ年下の可愛い妹。
ずっと、私が姉として守らなくてはと思っていたのに、私が思うよりもフェリミアはずっと強い心を持ち、見守ってくれていたのね。
貴女にとっては、苦痛しか残っていないこの王宮で。誰にもバレずに、ひっそりと。
言ってくれたらもう少し楽しい王宮生活だったのかなと思うけど、私は嘘がそこまで上手くはない。何かの拍子に、バレてしまったかもしれない。
こんなポンコツな姉を、幼い頃から純粋に慕ってくれて姉として敬ってもくれた小さくて、可愛い子だったのに…
いつの間にか身内のラブシーンを見ても、当たり障りなく爽やかな笑みを浮かべて誤魔化せるようになって……
「ーーどこまで、見たのかしら。
告白したのは、見られたのよね??」
♢♢♢
「朝っぱらから何してんだおまえ」
バルコニーまで探しに来たカルロは、しゃがみ込んで両手で顔を覆いながら静かに身悶えしているテリアを声をかけた。
声をかけられたので、反応して後ろへ視線をやる。
カルロの困惑している顔を見ていると、昨日の晩のことを思い出して、みるみるうちにテリアの顔が赤くなってゆく。
「~~~っ」
「おい、大丈夫か?
あのまま寝たから熱が出たんじゃ…」
テリアの視線の高さまで腰をおろし、自然と片腕をテリアの左肩にまわし、あいたほうの手を額に当てようとしてくる。
まだ余韻が残っているのもあり、心臓がばくばくしすぎて頭の中が沸騰してしまいそうだった。
加えて昨日の一連の様子をよりにもよって妹に見られていたであろう羞恥心が襲ってくる。
テリアの頭の中は大混乱していた。
同じ羞恥に晒されていたというのに、フェリミアの存在に気付くこともなく呑気に構えているカルロに、何か一言いってやらなくてはという気持ちが湧いてきた。完全な八つ当たりである。
「そ、そもそもっ。あんたが…」
「ん?」
(あーーやばい…。
冷静に見るとカルロは顔面がめっちゃ良いんだった、直視したら文句の一つも言えない)
ギュッと目をつぶって振り絞るように、もう一度何とか文句の1つを絞り出す。
「あんたが…っ何か意味わからないことで弱っていたから、だから私が柄にもなく…ンッ」
先程まで肩に置かれていたカルロの左手が、テリアの後頭部に添えられて、突然深く口付けられる。
潤んだ瞳をゆっくり開くと、今度は右腕をテリアの腰に回されて、再び口付けられた。そのままへたり込むように足を内側にして座り込む。
そんなテリアを片膝をついた状態で引き寄せるカルロに抗議するかの如く、テリアは彼のむなもとをドンドンッと叩いたので、そうしてやっとその身を離してくれた。
〝何だよ?〟と言う視線を受けて、イラッときたテリアは切実に訴えかけた。
「ぷはっ…、はぁ。
ここではやめて本当に!」
フェリミアは帰ったかもしれないけど、これ以上の羞恥心には耐えられそうにないので、とても必死だ。
「おまえの妹はさっき帰っただろ」
カルロの言葉に、テリアは数度瞬きをした。
「気付いてたの?」
「最初からな。
話もまぁ…全部聞こえてきた。
ここの扉開けっ放しで話してたから」
「ーーだったら尚更、バルコニーでこんなことしないでよ!」
テリアが叫ぶと、カルロはじっと見つめてきた。
その後「ははっ」と楽しそうに声をあげて笑い「いつもと逆だな」などと言ってくる。
「…アリスティナ姫の前で私がカルロ陛下に口付けしても良いのね?」
「悪かった。
今後気をつける」
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