【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

文字の大きさ
125 / 127
第3章

カルロとテリアの話 2

しおりを挟む

 

 カルロはテリアの腕を引いて立ち上がると、バルコニーの隅にある2人がけの椅子を示した。


「おまえ、俺に聞きたいことがあるんだろ?」

「……」

「異世界の聖女が、今世も現れて俺がそいつに惚れるんじゃないかと思ってるなら馬鹿だぞ」

「だって、前世ではそう聞いてたから」

「俺に直接聞いたことないだろ。
そもそも俺は前世の記憶を思い出したって昨日言っただろ。

なら、当然ーー異世界の聖女のことも思い出してる」

「あ……」

 そう言われるとそうだと、テリアはここではっとした。
 

(既に異世界の聖女の存在を思い出しているカルロが、昨晩や今のような…ゴニョゴニョを私とすると言うことは、そんな関係でない証でもあると、遠回しに伝えてたのね)



「…ごめん」



 テリアがポツリと謝ると、カルロは片手で髪をかき上げ、天を仰いだ。


「おまえが馬鹿すぎて、拍子抜けするくらい自分も馬鹿らしく思えてくるから不思議だ」

「まぁ…そうね。
カルロ陛下も大概馬鹿よ。

前の時間軸と、今は違うのに…勝手に一人で焦って追い詰められてとんでもないことしようとするんだもの」

「……」

「一人で皆の憎しみを全部背負う前に、他のやり方を二人で…いや、信用出来る人達で集まって考えよう」

「昨日俺がした提案が、一番手取り早いけどな」



 物憂げにそう言って目を伏せるカルロに、テリアは振り向いた。


「まだそんなこと言ってるの?」
「人を増やし、時間を長引かせることが、どれほどリスクを抱えるとおーー」


 突然に細い手の中に顔を包まれて、テリアの方を向かされたので言葉に詰まる。


「巫山戯ないで。

私はカルロ陛下がーーカルロが好きだって、言ったのよ。

私にカルロを殺せって言うなら、先にカルロが私を殺して見せないよ!!」


「ーー」


「ほら、早く。
あんたなら、私の首を絞めて殺すことは造作もないでしょ」



 怒鳴りつけられながらの告白を受けて、驚き呆けているカルロの両手をとり、テリアの首を包み込むように添えさせた。



「ほら!
どうぞ!!」

「どうぞって…いや。

今そんな冗談やめろよ」



「冗談じゃないわよ。カルロもそうなんでしょ?」


 大きな黄金色の瞳が、真剣な光を宿して突き刺してくるようだった。


「おまえ、本当にめちゃくちゃなやつだな」
「その台詞、そっくりそのままお返しするわ」


「……」
「……」



 暫くの沈黙の後、カルロはおもむろに「ぷはっ」と吹き出して笑う。




 ここ暫く、カルロは本気で危険な橋を渡り、人に恨まれても構わない勢いで政敵を粛正する対策をしてきたし、段取りも着実に整えてきたのにーー全てここに来て勢いを殺されると思わなかった。



 もしも、テリアが自分と同じことをしていたらと考えたくもないことを、僅かでも想像させられてしまったからだ。



 ーーそうなると、テリアの言うように、遠回りをしてでもやり方を変える方にしていくしかなくなった。


(俺は一生こいつに敵わないんだろうな…)




 そう思いながらも、不快な気持ちはひとつもなかった。


 カルロの様子を見てテリアは不思議そうに小さく首を傾げながらも、未だ真剣な顔をしている。まるで〝真面目に話してるのだから笑って誤魔化すな〟と言わんばかりだ。



 テリアの首元に添えさせられたカルロの手を、スッと上にやると顎下からすくいあげられる様に頬を両手で包み込み、そのままチュッと音を立てて口付けた。


「な、や。ここではやめてって言ったでしょ!」


 頬から手を離して、カルロはテリアの耳元で一言ささやいた。



「ーーこれは、おまえが悪い」





しおりを挟む
感想 110

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。

みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。 死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。 母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。 無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。 王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え? 「ファビアン様に死期が迫ってる!」 王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ? 慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。 不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。 幸せな結末を、ぜひご確認ください!! (※本編はヒロイン視点、全5話完結) (※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします) ※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

処理中です...