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第3章
エピローグ
しおりを挟む数年の時がすぎ、皇室での権威を強めたカルロは神殿に蔓延る問題を解決し始めた。
異世界の聖女しか祠で神力を得られないという常識は、皇妃であるテリアと、公爵夫人であるテリアの妹により覆えされた。
慰問をして残存していた暗黒竜の瘴気を大衆の前で祓うことができたのだ。
これにより、神殿が隠していた祠で、この世界の住人でも素質がある者には神力を授かることが判明したのだ。
孤児院で聖女教育を行うことで、孤児のその後の就職先の斡旋にもなり、聖女を特別な存在として崇め奉る神殿だけに頼る体制が崩壊し、それに伴い権威も影響力も縮小した。
そして、なんとーー生家のセリーヌ子爵家は皇妃と公爵夫人による功績から伯爵家に上がったのだが、跡継ぎがいないからとテリアの従者であったアレンを養子にして跡を継がせることにしたという。
アリスティナ姫を娶るにあたり、少なからず爵位が必要であったのと、二人とも人と獣人が共存しながらも住みやすい場所をつくりたいという願いが共通しており、元々の子爵領にはそれが出来る基盤が既に出来ていたからだ。
そしてーー今日も、私とカルロは言い争っていた。
基本的に私が怒らせていたのだが。
最近はちょっと、カルロが過保護になり過ぎているせいもある。
「おい!
俺が見てない時に出歩くなって言っただろ!!」
「一歩も歩かない方が身体に悪いわよ」
少し膨らんできたお腹を気遣いながら、侍女のユラをつれて庭園を散歩しているだけでこれだ。
「一歩も歩くなとは言わないが、目を離すとおまえは何をしでかすか全くわからないから。
とにかく今だけは、俺の目が届くところだけで動け…動いてくれないか」
命令口調で話しても聞き入れられないのは承知しているようで、わざわざ言い直した。
先程まで射殺さんばかりの眼力を飛ばしながら神殿のお偉方を相手にしていたのを、実はこっそり見ていたので、慌てふためきながら頭を掻いて困ったように懇願するカルロの姿が幻かと思える。
カルロの後ろにいる周りの使用人達も同じくそう感じたのか、ちらほら瞬きを繰り返している者もいた。
「流石にそこまでしなくても、私だって妊娠中に危ないことしないわ。ユラからは離れないから何かあったらすぐ対応してもらえるし」
「……」
「とにかく、予定日まで部屋にいるだけなんて私には無理よ?」
互いに譲れないとばかりに見合ったが、今回それもそうかと折れたのはカルロだった。
「じゃあーーせめて今日だけは部屋で大人しくしててくれ。そろそろ雪が降るらしい」
「雪が?」
ぱぁっと嬉しそうな表情をするテリアを見て、カルロはジロリと咎めるような視線を送る。
「ダメだぞ、雪遊びは絶対させん。
俺が部屋まで送る」
ぶっきらぼうに言いながらも、丁寧に手を差し出された。
(雪なんて久々だから残念だけどーーこれは仕方ないわね)
テリアはその手のひらの上に自分の手を重ねて微笑んだ。
(何かしてるよりも、カルロといた方が楽しいと感じるのだから)
手を取り合い歩いてゆく二人。
その後ろ姿を、水色の猫が見送っていた。
「にゃん♪」
end
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