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第3章
朝を迎えてそこにいた少女 2 フェリミアside
しおりを挟む王宮、本殿の バルコニーの上で、自分と同じ容姿の特徴を持つ姉と対面するのはとても不思議な気持ちだった。
「フェリミア……」
私の言葉に、姉は動揺している。
「もしかしてーー昨日の夜から此処に居た?」
そして真赤に頬を染めた。
「いいえ?
今しがた来たわ。ご心配なく。
私はそんな野暮ではないわ」
嘘では無い。
昨日の夜〝から〟ずっと此処に居たわけではなく、姉の告白を目にした後は気を利かせて一旦子爵領へ戻った。
そこで沢山これまでのことをーーそしてこれからのことを考えたのだ。
だから、再び姉に会うべくここにきた。丁度扉が開きっぱなしだったので、神力によりおこした風で姉だけ此処へ呼び寄せただけだ。
「……。それなら、まぁ。いいのだけれど」
小さく咳払いをしながらも、未だに頬を染めている姉がおかしくて、くすりと笑う。
そんな私を見て、姉も困ったように眉根をさげて笑みを浮かべた。
「フェリミアが恋をしているなんて思わなかったわ。
しかもお相手は公爵家の方で、お付き合いだけじゃなく婚約まで…。
ぁあ言うところはお作法も完璧じゃないといけないものなんでしょ?でも。そうね、フェリミアは前の時間軸で皇妃教育も受けていたのだから、当然と言えば当然よね。
やっぱり、フェリミアは凄いのね!自慢の妹だわ!!」
そう言って、太陽のように気取ることなく笑う姉が眩しくて、目を細めた。
(それはこっちの台詞なの.本人だけが気付いてないのも相変わらずだわ)
前回、私が皇妃として王宮へ来ていたけれど、この本殿に入ったことはなかった。
初めは、再び訪れた王宮にあるもの全てが嫌いで、恨みがましい気持ちでいっぱいだった。
私だけじゃなくて、姉にまであんな扱いをしようものなら、前の時間軸で得た神力によりカルロ陛下をとことん懲らしめてやろうとさえ思っていた。
だけどーー精霊の猫のふりをして、王宮を歩き回り、初めて知り得たアリスティナ姫の存在や、第二皇子との確執、王宮内にはびこる臣下達の策略ーー前の私は全てを知る由もなく皇妃として王宮内にいたけれど、皇太子であるカルロも、皇帝であるカルロもたった1人で孤独に晒し続けていたことに気がついた。
そして、姉といることで起きる全ての変化。
きっと、この姉ならば遅かれ早かれ前の時間軸でも今と同じ結果へと導いた。
何故なら私は猫の精霊として、いざとなればいつでも姉の力になろうとしたけれど、肝心な時は姉が自分で対応出来ていたからだ。
私の保護など、姉には必要なかった。
子爵領にいた頃、姉と比べられてきた。それは娘なら将来のため、何処に嫁がせるのが良いのかを見極める為に必要なことで、どちらも子爵家に居続けることが出来ないから仕方のないことでもあった。
姉は貴族令嬢の集まりも勉学なども苦手としていたが、領民にとってかかせない存在でもあった。
だから、子爵領を出るなら私だと小さなうちから自覚して、外に出ても幸せにやっていけるよう、田舎とはいえ必死で貴族の令嬢として嗜みを覚え、勉学に励み、品位を備えてきたけれど…
今の王宮や皇帝や皇太子であるカルロという1人の人間にとって必要だったのは、そうした型にはまることだけ出来て自分の義務は果たしたと静かに咲いている令嬢では無かったのだど、今の時間軸になりようやく気がついた。
「ーーそれにしても、まさか。人に全く懐かない捨てられた狂犬みたいな皇帝が…あんなにお姉様にベタ惚れになるなんて予想外だったわ」
私がそう言えば、再び姉はぼっと赤くなり、「やっぱり見てたんじゃないの!」と少し怒ったように叫んだ。
その辺りはしっかり見届けていたので、否定はせずににこりと笑だけをかえす。そんな私に姉はワナワナして口を開けたり閉じたりを繰り返す。
カルロが姉に惹かれて行く姿を理解できても、この王宮の状態を知るとずっと不安で、見守り続けていたけれど。
この数年をかけて成長をしていたのはカルロ陛下だけではなく、姉もだった。姉は私が思うよりもずっと賢い人だったのだ。
何が最も大事なのかを、その場ですぐ判断出来る、心の中にぶれることのない基準を持っていて、必要と思うことは努力して身につけて行動し、他人事だから自分は出来ることなどないと言い訳をせずに踏み込んでゆくことが出来る。
そして何よりーー姉の決死の告白を聞いてもなお、姉にとってカルロのかわりなど幾らでもいるからと、前の時間軸で無気力で何も変えようとしなかった皇帝とは今や全く違う男から引き離そうなんて、出来はしない。
私が一番に願っているのは、恐怖で震えている妹の代わりに、自分だって怖いはずで、妹より向いてないし悲惨な目にあうかもしれないと思いながらも、自分にその不毛な死が待つであろう場所へ行くと名乗り出たーー強く優しい姉の幸せだから。
これまで王宮にいた姉と、昨夜の様子を見ていたら嫌でもわかる。
何処に姉の幸せがあるのか、誰と居たらそれが手に入るのかを痛感した。
あの優しい姉が、私の痛みを慮り、その恋を諦めきれるだろうと考えていた姉が。
ずっと貫いてきた優しさよりも、強く欲した相手。
そんな相手はこれから先現れることは無いだろう。
「でも、フェリミア。
これから異世界の聖女がくるかもで…」
「…多分、今回の時間軸ではこないと思うわ」
「え?」
既に多くの状況が前とは違う。
姉と、姉により変わったカルロにより前と状況は殆どが違うのだ。
異世界の聖女は、神殿が自分に権力を集める為に強引に呼び寄せた存在だ。
権力を着実に手中におさめているカルロが、神殿に燻る事柄を片付けて行くのは時間の問題だ。
姉が皇帝の隣に居続けられるよう、後ろ盾になりうる家門であるテンペル公爵家を、先日捕縛されたケスラー公爵家のかわりに、財務大臣に据えるなんて…第二皇子へ傾倒し、敵対していた派閥を許したのだ。姉の安全を守るためだけに。
そう、テンペル公爵家は私と姻戚関係になる。
姉の後ろ盾に私がなれるようにだ。
その提案を、私が断る道理はなかった。
現在のテンペル公爵は年若いけれど私と同い年で、しっかりした誠実な好青年とあれば尚更だ。
ここまで用意出来るのなら、前の時間軸でもやれば良かったのにと思うけれどーー皇妃が姉だから出来たことであるのはわかる。
「それに、もし異世界の聖女が来たとしても。
カルロ陛下が異世界の聖女を愛することはないわ」
「何でそんなことわかるの?」
「何でって…私からすると、とってもわかりやすいわよ。
前のカルロ陛下は、異世界の聖女が来ても今のような変化はなかったもの。
だから安心して。お姉様」
それだけ伝えると、また水色の猫の姿に戻り、強い風に乗ってその場を後にする。
ーーあとは、本人同士で話し合うことだから。
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