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第3章
朝を迎えてそこにいた少女 1
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ーーーーチュンチュン
朝を知らせる鳥の囀りと共に、テリアが目を開けると、寝巻きに着替えることなく、シャツを着たまま眠りに落ちたカルロに抱え込まれていた。
腕の中で瞼を何度も瞬かせる。
昨日ーー2人は互いを強く求め合うように唇をあわせて、きつく抱きしめ合いながら何度も角度を変えては深い口付けをした。
どのくらい時間が経過しようともーー否。
時が経過すればするほどに、渇望していた水にやっと触れたと言わんばかりにテリアの髪をかき抱きながら貪ろうとしてくるカルロに、息が苦しくなってきたテリアは途中で腰を抜かし、とうとう足から力が抜けてしまった。
しかしテリアの腰に回されたカルロの腕が、それを支え、スッと顔を離されて、やっと荒々しい口付けから解放されたのかと呼吸を整えようとしているうちに身体をひょいと横抱きにされてベッドへと横たえられた。
ギシリとベッドの軋む音がしたかと思えば、胸の前で握りこんでいた両手を解かせ、片手は顔の横で指を一本一本絡められ顔の横で固定され、カルロはそのままテリアに覆い被さる。
猛獣のようにギラつきを宿した紅蓮の瞳は、荒い息を整える間もなく、ゆっくりと顔を近づけて続きを促すように唇を啄み、テリアもそれに応えるようにそっと目を閉じて受け入れた。
そうして夜は老けていき、気が付けばこうして抱きすくめられたまま眠りについてしまっていたのだ。
ぼーっとしながらもカルロからそっと離れてから半身を起こして、視線を彷徨わせる。
中途半端に半開き状態になっているカーテンや窓の隙間から入り込んだ太陽の光が室内を淡く照らしており、花瓶にいけられた花束の花弁が風に吹かれたのか床に散っていた。
乱れた胸元の衣服を整えて足の指先からそっと身を下ろして、開いたままの扉を閉めようと、バルコニーへと歩く。
入ってくる風に揺れるレースのカーテンが、床に差し込む太陽のあかりをゆらしている。
扉まで近寄ると、水色の猫が身体にくるんと尻尾を巻きつけて手摺り座っている姿が目に入った。
いつも気まぐれに現れては、突然暫く姿を見せなかったり、かと思えば、何をするでも無く、何処からともなく現れて側にいてくれた猫。
「にゃん」
テリアはその猫を見て、大きく目を見開いた。
此処にきたはじめの頃からずっと一緒にいてくれた。ポンコツと言っても差し支えないときに偶然呼べた精霊…だと思っていた。
だけどーーカルロが言っていた私の神力とやらが強くなってきた頃からなのか、既に違和感は抱いていた。
〝あの子〟と同じ色を放つ気配に。
そして、今になって隠す気もない気配を目の前にテリアは確信を抱いた。
「あなたは、フェリミア…なのね?」
確信を口にすると、水色の猫は大きな渦をつくり、次第に人の形へと変貌を遂げてゆく。
渦の中から段々姿を現したのは、自分と同じピンクゴールドの髪、自分と同じ黄金色の瞳。同じ背丈の少女ーー
テリアのよく知る人物。
最愛の妹、フェリミア・ロナンテスその人だった。
「いつから気付いてたの?」
「…確信したのは今だけど、アリスティナ姫と出かけた祠に行った後くらいから薄らと。
なんか似てるなって、気配が」
そう言うと、フェリミアは「ふふっ」とおかしそうに笑った。
「流石、お姉様ね」
「私、此処にきた時、すごく不安だったけど…あなたはずっと前から、私の様子を見に来てくれてたのね。
あんなに、王宮へ来るのを怖がっていたのに」
「テリア姉様が、私の身代わりに此処にいると思ったら。
不思議とね…」
そよ風がフェリミアの髪をさらりと揺らし、太陽に背を向けているせいか、翳りと光が混ざる瞳が美しく輝きを放っている。
フェリミアは言葉を続けた。
「でもーーもう、此処には来ないわ。
テンペル公爵家から縁談の話が来ているから、きちんと進めないと」
「縁談?テンペル公爵家から?」
茶会で仲良くなり、カルロの次期嫁にしようとしていたロザリーの姿を思い出す。
「子爵領近くに、テンペル公爵家が保有している保養地があって、〝偶然〟公爵様が来ている時に私を見かけて〝偶然〟見初めていただいたの」
「…フェリミアは、その人のこと好きなの?」
テリアが問いかけると、暫くの沈黙のうちに「勿論よ、とても誠実な方で好感が持てるわ」と返事が来た。
フェリミアの声色に、嘘は無いように感じた。
「ーー私今、彼のおかげで、とても幸せなの。
前世でのことなんか、とっくに忘れちゃうくらい。
だから、ね。
テリアお姉様が私に〝申し訳ない〟なんて微塵も感じる必要なんかなかったのよ」
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