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第3章
闇落ちにはさせない7
しおりを挟むーー……これ以上カルロのことを知るのはまずい。…ーーとめられなくなる。
いや、もう止められないのかも知れない。
『すまなかった』
そう言って、何も言い訳をせず。
誰よりも苦渋をなめて来ただろうカルロが、全ての業を引き受けると言う姿が、賢明なのに不器用にも見えてしまって。
そんな彼を見て、私は、自分の中で膨らんで行く気持ちが抑えきれなくなっていることに気が付いた。
処刑台に立たされたフェリミアを思い出すと、今でもこんなに苦しくて悲しいのに。絶対に赦せないのに。
同時に、私の胸にどうしようもないカルロへの愛しさが込み上げて、誰よりも傷付いているのに、何の言い訳もせずに私の気持ちを軽くしようとただ黙って全てを背負う姿を見ていると、泣き出したい気持ちになる。
彼は、報われることが1つも無くても、皇帝たらんとしている。
その上で、私の為に全てを引き受けようとしているのがわかるから。
そんな姿に、余計に切なく胸が締め付けられて、苦しい。
気が咎めるのに、ダメだと思うのに、込み上げてくる感情は全てにおいて、彼を愛おしいと感じてしまっている。
「…私が、他の人と結婚しても良いの?」
「は?」
「そうでしょ?カルロ陛下が居なくなった後、代わりに国を背負うとしたら新しい旦那様を娶らなくちゃいけなくなるんじゃないの?」
言われてから漸く想像したのか、はた…と、止まってしまった。
「……ーーそれは…嫌だ…」
口にしてから我に返ったのか、「ぁ…違う。これは…」と慌てて取り繕おうとしている。先程までの覚悟が、いとも簡単に揺らいでいる自分にカルロは焦っていた。
カルロが動揺している不意をついて、強引に胸倉を引き寄せられて合わさった柔らかい唇の感触に、目を開く。
驚いて、ふらりとよろめいたカルロは、ドサリと音を立てて後ろに尻餅をついた。
その反動で、共に倒れ込んだテリアの身体はカルロに覆いかぶさり、唇は離れたものの瞼に隠れていた黄金色の瞳が至近距離でカルロを真っ直ぐ見下ろしていた。
「貴方が好き」
テリアが紡いだ言葉に、目を開くも、ゆるゆると否定するように首を横に振る。
「…嘘だ」
「嘘じゃ無いよ、私は昨日のカルロ陛下の言葉が嬉しかった…だから、勝手に恥じて、無かったことにしないで」
「だって、おまえは赦せるのか?
俺はおまえの妹を────・」
「赦せないよ、どんなに謝罪されても、どんなに償われても私は、私の妹をあんなめに合わせた全ての人を一生。赦さない」
「……ーー」
「ーーだけど、だから復讐したいなんて思ってない。カルロ陛下を殺したいなんか考えたこともない」
「そうだったな、おまえは優しすぎるんだ。でもそれじゃあ、おまえは一方的に傷付けられて…ーー」
カルロの右手に柔らかな感触がした。テリアがカルロの腕を掴んで、自分の左胸にその手を押し当てたからだ。
夜着の薄い布地の上から伝わる感触に、思わずゴクリと唾を飲み喉を鳴らした。
「これでも、私が優しいからだと思う?」
カルロはドキドキと鳴り響いてやまない心臓音が、自分のものなのか、それともテリアのものなのか分からなくなっていた。
────しかし、掌からは確かに、その脈動が伝わっている。
「私は、カルロ陛下を愛しているの。
同じものを背負いたいの、だからお願い。
私を 1人にしないで。
償いたいって言うなら一生私のそばに居てよ」
刹那ー…カルロの頬に落ちて来た雫に、今まで胸に行っていた視線を上げた。
色んな感情が渦巻いて苦しそうに、顔を歪ませ涙を流しているテリアを、月の灯りとその星々が照らしている。
カルロは身体を起こし、テリアの小さな身体を荒々しく掻き抱いた。
ーーダメだ、俺はこいつを手放せない。俺といたら思い出さなくて良いことを常に片隅に思い出させて、一生傷付け続けるかもしれない。
それなのに。
将来だろうが過去だろうが、誰にも触らせたくない、俺だけのものにしたい。全部…。
こいつの隣に、俺は居たい──。
いつの間にか無意識に合わせられた唇を、テリアは抵抗をすることもなく受け入れ、カルロの肩に腕を回す。
閉じた瞼の目尻からは月明かりを反射して光る涙が、静かに頬を濡らしていた。
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