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第1章 表
5 二つの物語
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フリンツの婚約者を今まで見かけなかったのは、身体が弱くて学園に来ることが出来なかったことが理由らしいかった。
その為友人と呼べる令嬢がいないのだと俯くプレッサに、カイエは思わず私でよければ友達になってくださいと食い気味に申し出ていた。
プレッサはとてもうれしそうに可愛らしい笑みを浮かべた。
「カイエは転生者という言葉を知っているかしら」
「過去生の記憶を持つ方々のことでしょうか」
突然そんなことを言い出したプレッサに驚くが、これまで読んだ本の中に何冊かそのような記述の本を見かけたことがあった。
「そうよ。実は私、転生者なの」
突拍子もない話ではあったが、本に出てくるまことしやかな記述が立証されたことにカイエは瞳を輝かせた。
「──信じてくれるの?」
「信じます!でも、そのようなこと今日あったばかりの私に言っても大丈夫なのですか?秘密にしなければいけないことなのでは・・・」
カイエは不安そうにプレッサを見た。
プレッサはこれまで前世のことを誰にも話したことはなかった。
前世で読んだ物語の中に「知識チート」という言葉があり、前世の記憶を持つものが今世で成功する方法もいくつか知っていた。
そして何と言ってもここは魔法の存在する世界だ。前世では存在しなかった魔法を極めるなど自分にはいくらでも可能性がある──そう思っていた。
しかしこの世界のこの時代・・・医療が発達途上であるため「体が弱い」プレッサには何を成し遂げる体力もなかったのだ。
この世界の歴史と高位貴族の面々の名前が前世で読んだ小説と酷似していることは分かっていた。自分がフリンツの婚約者として名前だけしか登場しないモブということも。しかし、その物語をモブとして楽しむだけの余力もなかったのだ。
体調の良い日だけでもと学園に足を運んでみるけれど、一日をここで過ごす体力もないため午後のみ。友人がいるわけでもないのでひとりぼっち・・・。授業に出なくとも皆今日も私は休みなのだと思っているから探されることもない・・・。
でも、人通りの少ない図書館に向かう途中のベンチで休憩をしていたら声を掛けてくれた女生徒がいた。
プレッサは単純にうれしかった。そしてその女生徒に好意を持った。
だから彼女が「カイエ・リーエングです。父はリーエング男爵です」──そう名乗った時に決めた。
小説の主人公である彼女を、小説同様ハッピーエンドに導こうと。
この学園を舞台にした物語は主人公の男爵令嬢が王太子を筆頭に生徒会役員と出会い、それによって生まれる悪意から守られる中で王太子と恋に落ち、様々な障害を乗り越え結ばれるという王道のラブストーリーだ。
学園内では使用を固く禁止されているがこの世界には魔法がある。
中でも神聖魔法の『浄化』と『治癒』は限られた者しか使えず、使い手には誘拐などの可能性があるため身を守ることが出来ない平民や下位貴族の多くは教会に匿われることになる。
迫りくる魔の手からの保護という点は否定しないが、教会側もそれを上回るメリットがあるから動いているに過ぎない。彼女たちが神聖魔法を使う様はまるで神に祈りを捧げそれに神が応えるように見えるため、彼女たちが魔法を使うだけで国民からの信仰心が高まるのだ。
神聖魔法の使い手は100年前のサクラという少女が現れてから生まれるようになった。しかし、通常使える神聖魔法はどちらか一方だけ。
しかし主人公の男爵令嬢は『浄化』と『治癒』両方の神聖魔法が使えるようになるためサクラ・センエンティ王妃殿下の再来として王族と結ばれることになるのだ。
もう物語は始まっているはず。プレッサは攻略の進み具合を確認するため、さりげなくカイエに聞いてみた。
「殿下とラセジェス様、トレノ様とフォレスト様にはよくしていただいています。あの・・・それと・・・リビーア様にも──」
申し訳なさそうにカイエが答える。
フリンツはプレッサの婚約者だ。折角できた友達に嫌われてしまうだろうか。
カイエはそう思ったが友達に嘘をつくことは出来ないし、本当に彼とはなんでもないのだ。だから正直に告げることにした。
自分を信じてくれるプレッサだと思いたかった。
「あぁ、彼は王太子殿下の護衛ですもの。主人公のあなたと関わりがあって当然よ」
フリンツはレックスとヒロインを引き合わせるお助けキャラだ。レックスとカイエの逢瀬のために”カイエに恋をして、結果二人の逢瀬に協力し、勝手に失恋する”だけの当て馬ですらない登場人物。
(ふふ、攻略も問題なく進んでいるようね)
プレッサの答えはカイエが思っていた回答とはちょっと違ったけれど、困っている所を助けてもらっただけで理不尽なことを言ってくる他の令嬢と同類ではないことがとてもうれしかった。
実際には婚約者とはいえプレッサがフリンツに興味がないだけなのだが、カイエはそれを知る由もない。
100年しか歴史のないグルーク公爵家に比べ、フォッセン公爵家は150年以上の歴史がある。本来なら王族に嫁いでもおかしくない家柄のはずなのに体が弱いということを理由に騎士団長の息子とはいえ伯爵家──しかも次男のフリンツと婚約させられたことをプレッサは不満に思っていた。
本当はレックスに嫁ぎたかったのだ。
王国の歴史の陰で人知れず涙を飲んだプレッサの先祖であるヒレミア・フォッセンの代わりに。
その為友人と呼べる令嬢がいないのだと俯くプレッサに、カイエは思わず私でよければ友達になってくださいと食い気味に申し出ていた。
プレッサはとてもうれしそうに可愛らしい笑みを浮かべた。
「カイエは転生者という言葉を知っているかしら」
「過去生の記憶を持つ方々のことでしょうか」
突然そんなことを言い出したプレッサに驚くが、これまで読んだ本の中に何冊かそのような記述の本を見かけたことがあった。
「そうよ。実は私、転生者なの」
突拍子もない話ではあったが、本に出てくるまことしやかな記述が立証されたことにカイエは瞳を輝かせた。
「──信じてくれるの?」
「信じます!でも、そのようなこと今日あったばかりの私に言っても大丈夫なのですか?秘密にしなければいけないことなのでは・・・」
カイエは不安そうにプレッサを見た。
プレッサはこれまで前世のことを誰にも話したことはなかった。
前世で読んだ物語の中に「知識チート」という言葉があり、前世の記憶を持つものが今世で成功する方法もいくつか知っていた。
そして何と言ってもここは魔法の存在する世界だ。前世では存在しなかった魔法を極めるなど自分にはいくらでも可能性がある──そう思っていた。
しかしこの世界のこの時代・・・医療が発達途上であるため「体が弱い」プレッサには何を成し遂げる体力もなかったのだ。
この世界の歴史と高位貴族の面々の名前が前世で読んだ小説と酷似していることは分かっていた。自分がフリンツの婚約者として名前だけしか登場しないモブということも。しかし、その物語をモブとして楽しむだけの余力もなかったのだ。
体調の良い日だけでもと学園に足を運んでみるけれど、一日をここで過ごす体力もないため午後のみ。友人がいるわけでもないのでひとりぼっち・・・。授業に出なくとも皆今日も私は休みなのだと思っているから探されることもない・・・。
でも、人通りの少ない図書館に向かう途中のベンチで休憩をしていたら声を掛けてくれた女生徒がいた。
プレッサは単純にうれしかった。そしてその女生徒に好意を持った。
だから彼女が「カイエ・リーエングです。父はリーエング男爵です」──そう名乗った時に決めた。
小説の主人公である彼女を、小説同様ハッピーエンドに導こうと。
この学園を舞台にした物語は主人公の男爵令嬢が王太子を筆頭に生徒会役員と出会い、それによって生まれる悪意から守られる中で王太子と恋に落ち、様々な障害を乗り越え結ばれるという王道のラブストーリーだ。
学園内では使用を固く禁止されているがこの世界には魔法がある。
中でも神聖魔法の『浄化』と『治癒』は限られた者しか使えず、使い手には誘拐などの可能性があるため身を守ることが出来ない平民や下位貴族の多くは教会に匿われることになる。
迫りくる魔の手からの保護という点は否定しないが、教会側もそれを上回るメリットがあるから動いているに過ぎない。彼女たちが神聖魔法を使う様はまるで神に祈りを捧げそれに神が応えるように見えるため、彼女たちが魔法を使うだけで国民からの信仰心が高まるのだ。
神聖魔法の使い手は100年前のサクラという少女が現れてから生まれるようになった。しかし、通常使える神聖魔法はどちらか一方だけ。
しかし主人公の男爵令嬢は『浄化』と『治癒』両方の神聖魔法が使えるようになるためサクラ・センエンティ王妃殿下の再来として王族と結ばれることになるのだ。
もう物語は始まっているはず。プレッサは攻略の進み具合を確認するため、さりげなくカイエに聞いてみた。
「殿下とラセジェス様、トレノ様とフォレスト様にはよくしていただいています。あの・・・それと・・・リビーア様にも──」
申し訳なさそうにカイエが答える。
フリンツはプレッサの婚約者だ。折角できた友達に嫌われてしまうだろうか。
カイエはそう思ったが友達に嘘をつくことは出来ないし、本当に彼とはなんでもないのだ。だから正直に告げることにした。
自分を信じてくれるプレッサだと思いたかった。
「あぁ、彼は王太子殿下の護衛ですもの。主人公のあなたと関わりがあって当然よ」
フリンツはレックスとヒロインを引き合わせるお助けキャラだ。レックスとカイエの逢瀬のために”カイエに恋をして、結果二人の逢瀬に協力し、勝手に失恋する”だけの当て馬ですらない登場人物。
(ふふ、攻略も問題なく進んでいるようね)
プレッサの答えはカイエが思っていた回答とはちょっと違ったけれど、困っている所を助けてもらっただけで理不尽なことを言ってくる他の令嬢と同類ではないことがとてもうれしかった。
実際には婚約者とはいえプレッサがフリンツに興味がないだけなのだが、カイエはそれを知る由もない。
100年しか歴史のないグルーク公爵家に比べ、フォッセン公爵家は150年以上の歴史がある。本来なら王族に嫁いでもおかしくない家柄のはずなのに体が弱いということを理由に騎士団長の息子とはいえ伯爵家──しかも次男のフリンツと婚約させられたことをプレッサは不満に思っていた。
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