【完結】異世界で出会った戦友が、ゼロ距離まで迫ってくる! ~異世界の堅物皇子は、不具合転移者を手放せない~

墨尽(ぼくじん)

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薬屋キュウ屋

【Side リーリュイ】 甘党の正体

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 3年前、リーリュイは何度もランパルを訪れた。

 看守に彼の最後を聞き、処理された遺体まで見たのだ。しかしそれは誰が誰やらわからないほど朽ちた遺体で、光太朗の欠片さえ残っていなかった。

 それからリーリュイは、フェンデの差別を無くすべく奔走した。
 彼への償いのつもりだった。
 償いといえば聞こえはいいが、実際には彼を忘れたくなかったからかもしれない。


 そして3年後、リーリュイは新しく作られた魔導騎士団の団長となった。魔導騎士団の拠点がランパルになり、複雑な想いを抱いたことを覚えている。


 そして、団員がよく訪れるといわれる薬屋で、『彼』を見た。

 一瞬で頭が真っ白に染まり、時が止まったかのように身体も動かなかった。
 
 これまでリーリュイは、男性のフェンデを見ては彼ではないかと声を掛けた。そしていつも失望感に苛まれた。
 しかし今回は見間違えではない。薬屋にいたフェンデは、戦友である彼だった。



(  ___彼は、どうして助かった? 誰かが手引きしないと不可能だ)

 疑問に思ったリーリュイは、薬屋を出た後すぐにランパルの牢獄を訪れた。この牢獄は国の管理下にある。

 リーリュイは3年前より、地位も知識も格段に増していた。隠れた事実を暴こうと詰め寄ると、看守の口は直ぐに割れた。


「あの日、転管長のウィリアム様が来られて……フェンデを牢獄から出しました。……命令され、仕方がなかったのです。お許しを……!」

「転管長が? ……いったい何故……」

 転移者管理機関の長であるウィリアムは、国でもトップクラスの権威を持つ男だ。フェブールやフェンデが来る時期を読み当てる能力は、国では唯一無二のものだった。

 聖魔導士としても有名で、彼を神のように崇める者も少なくない。

 看守からそれ以上の情報は得られず、リーリュイの足は自然とキュウ屋へと向かっていた。


 キュウ屋の前まで来ると、運よく光太朗が店から出てくるところだった。リーリュイは咄嗟に身を隠し、外套についていたフードを深くかぶる。

 ランパルでもリーリュイの顔は広く知られている。街中を歩くには目立ちすぎる容姿を、出来うる限り隠した。

(……どこへ向かうんだ? 菓子屋?)

 光太朗は菓子屋の主人と親し気に話す。その様子はかなり打ち解けているようで、この街に溶け込んでいるように見えた。

 ウィリアムの拠点は全て王都にある。ウィリアムに連れ去られたはずの光太朗が、こうして普通に生活できているのは何故なのか。光太朗の行動を見る限り、制限もされていないようだった。

 光太朗が菓子屋に寄り、その先の孤児院に行くのを確認したリーリュイは、元来た道を戻った。そして閉店間際の菓子屋へと駆けこんだ。

 顔の殆どを隠したリーリュイを、店主は訝し気に見る。しかしリーリュイが懐から出した魔導騎士団の身分証を見ると、菓子屋の目ががらりと変わった。

「騎士団の方でしたか。失礼いたしました」
「この街に慣れるために、店を回って情報を収集している。少し聞いても良いか?」

 キュウ屋に話が偏らないように気を付けながら、リーリュイは菓子屋から情報を集めた。

 光太朗は孤児院に拾われたという事。しばらく孤児院で暮らしていたが、キュウ屋で独り暮らしをしている事。キュウ屋が薬屋として活動し始めたのは、1年ほど前だという事。

 聞けば聞くほど、リーリュイにはウィリアムの意図が分からない。


 リーリュイは情報の代わりに、売れ残った菓子を買い占めた。菓子でパンパンになった鞄を下げて、思考を巡らせる。

(3年前に死んだ奴隷兵士のことを覚えている者は、もう殆どいないだろう。当時の事件も、もう無かったことにされている……こうして生きている事を咎められることはない。しかし転管長の意図が分からない)

 深く考えていたせいか、リーリュイは背後から近付く気配に気が付かなかった。腕に振動を感じた時には、もう鞄は手から離れていた。
 
 リーリュイの鞄を引っ手繰った男たちは、側にいた通行人を薙ぎ倒しながら逃げて行く。

 路上で倒れていた人たちを助け起こし、リーリュイは駆けた。鞄に貴重品は入っていないが、リーリュイに悪事を見逃す選択肢はない。

 引っ手繰り犯は複数人おり、あっという間に道の向こうへ消えて行く。しかし逃がすつもりはない。
 全速力で駆けていると、ふいに引っ手繰り魔の背中が傾いだ。

「!!」

 一番先頭を走っていた男が倒れ、その後ろにいた男もその体に躓く。何事かと視線を巡らせると、二番目を走っていた男の上に、なんと『彼』がいた。
 どくりと音を立てる心臓を抑えて、リーリュイは状況を見極めた。

(二番目の男は、拘束に成功している。先頭の男は躓いただけだ、すぐに動く)

 このままでは光太朗に、累が及ぶ。
 そう判断したと同時に、リーリュイは先頭の男の後頭部に蹴りを入れていた。
 その後、光太朗を振り返る。そしてリーリュイは息を呑んだ。


 光太朗が浮かべている表情は、あの戦場でも幾度となく見たものだった。期待に応えてくれた相手への賞賛と喜び。その表情は、目が離せないほどに美しい。

(……生きていた。彼が……生きていたんだ)

 彼が生きていた喜びは、今まで味わったことの無いものだった。まともに考えることもできず、どくどく鳴る心臓を抑えるのに必死だった。



 その騒動の後、楽しそうに話す光太朗に押され、リーリュイは肝心な事は何も言えなかった。
 結果彼からは『甘党認定』されただけで、ろくに話も出来ないまま光太朗は去って行く。


 雑踏の中取り残されたリーリュイは、駆けつけてきた警備隊に事情を説明することで、その日は終わってしまったのだ。
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