【完結】異世界で出会った戦友が、ゼロ距離まで迫ってくる! ~異世界の堅物皇子は、不具合転移者を手放せない~

墨尽(ぼくじん)

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薬屋キュウ屋

第24話 聖魔導士ウィリアム

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 街中から少し離れているキュウ屋周辺は、夜になると途端に静かになる。閉店後のキュウ屋は、光太朗にとって癒しの空間だ。

 しかしこの男が来ると、途端に苦痛な空間に変わる。

 国のお偉いさんである聖魔導士ウィリアムは、キュウ屋で呑気に茶を嗜んでいた。

「コータローのハーブティー、ほんっとうに美味しいよね! 毎日でも飲みたいよ!」

「厳密にいうと、薬草茶な。この世界にハーブと呼ばれる草はないだろ」

「もー、コータロー……。反応する所はそこじゃないでしょ? 毎日飲みたいって、僕が言ってるんだよ? この僕が!」

 胸に手を当てて、ウィリアムは熱く語る。その顔を思い切り睨んで、光太朗はカップへと口をつけた。
 ふんわりと薬草の香りが鼻を抜けると、苛立った気分が僅かに落ち着く。

「……分かった分かった、国の尊いお偉いさんなんだよなお前は。早く用事済ませて帰れよ」
「つれない! 好き……!」

 ソファから立ち上がり歩み寄ってきたウィリアムが、光太朗に向かって手を伸ばす。その手を素早くたたき落とし、光太朗は眉を顰めた。

「ウィル! 今日はなんの『手伝い』だよ!!」
「……はーい。……じゃあ、取り掛かろうか」

 形のいい唇を尖らせて、ウィリアムはソファへと戻った。そこに置いておいた鞄をカウンターへと置き、光太朗ににっこりと微笑みかける。

「じゃあ早速、血を抜かせてもらうね」
「……分かった」

 ウィリアムは鞄に手を突っ込み、どでかい注射器を取り出した。毎回目にしている物ではあるが、何度見てもげんなりと気分が落ち込む。

 転移者がこの世界に来るようになって、この国の医療は格段に進歩したらしい。しかし専門的な知識を持った転移者はおらず、医者でもない者たちから得られる知識は限られている。

 この国に『注射器』が登場したのも数年前らしいが、その針はまだ縫い針以上に太い。これで血を抜かれると、言うまでもないが非常に痛い。

「で? 採血と、なんだよ?」
「ん? 今日はね、採血だけ」

 光太朗が首を捻ると、ウィリアムは嬉しそうに微笑んだ。そして鞄から注射器を何本も取り出していく。その数の多さに、光太朗が目を剥いた。

「何本持って来てんだよ……」

「今日はね、多めに欲しいんだ。んでもって、ついでに実験する」

「……やっぱ、採血だけじゃねぇじゃん……」

「ごめんね。王妃たちが貧血で悩まされててね……」

 ウィリアムの言葉に、今まで怪訝にしていた光太朗の顔が緩む。納得したように頷いたのを見て、ウィリアムは眉を下げた。

(まったくコータローは……ほんとチョロ過ぎ)


 ウィリアムが光太朗へ強いている『手伝い』は、フェブール達のために身体を差し出すことだった。生きていはいるが、献体しているようなものだ。

 この世界が神からフェブールを与えられるようになってから、まだ歴史が浅い。
 フェブール達の身体に合う薬や治療法、食材。それを知るために、フェンデが実験台にされる。しかしそれには大きな問題があった。

「またお国お抱えの実験体が病気で死んじゃってさ。やっぱ神の加護がないと、容易く死んじゃうみたいだね」

「……この世界のウィルスやら菌やらに、対応できて無いからだろ。フェブールの環境とフェンデの環境は、あまりに違いすぎる」

 カウンターに腕を載せて、光太朗は片眉を吊り上げる。「ほら、早く抜けよ」と言わんばかりの顔に、ウィリアムはつい吹き出した。

「じゃあ、光太朗はなんで無事なのさ?」

「ん? 俺はミカさんのお陰で生きてる。孤児院で一通りの免疫は出来たし、ミカさんの民間療法はばっちり効いた。……フェブールにも効くと思うが……やっぱり何度か実験しなくちゃいけないんだよな?」

「そうだね。その為に光太朗がいる」

「ん、分かってる。……ウィル、早くしろって」

 肘裏を差し出す光太朗を見て、ウィリアムはまた笑う。一度立ち上がって光太朗の腰を掴むと、カウンターの椅子へと腰掛けさせた。
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