前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy

文字の大きさ
27 / 215
第2章

27 伯爵とレティシア5

しおりを挟む


「寝具は全て新しい物に取り替えさせたんだが?…何か香りがするというのか?」

「はい、特に髪の毛です。シャンプーとか?」

「…シャンプー?」

「あ、通じない?え…と、髪を洗う時に使う、香りのある…」

「香油?…私は使っていない、髪は魔法を使って湯で洗うだけだ」


(そうなの?…でも、ツヤッツヤでした)


「魔法って香りませんよね。なら、伯爵様の匂い?」

「………レティシアは、私が臭うと?」

「いえっ、誤解しないでください!変なニオイのほうではなくて、爽やかな香りがするんです!!」


いい香りだとレティシアが何度言っても、アシュリーは自分の体臭が気になって仕方がない。
 


    ♢



「レティシアはここへ滞在させる。休暇を取らせた私の責任だ、隣の部屋を今すぐ整えておいてくれ。商店に住み込みの身では戻りにくいだろうからな」

「畏まりました」

「皆には彼女へ挨拶をして貰いたい、後で時間を設ける」


お粥に続いて、部屋の準備をするよう主人より命令を受けたのは従者のゴードン。


「申し伝えておきます」

「…ゴードン…正直に答えて欲しいんだが…」

「はい」

「私は、臭うのか?」

「………は?」


ゴードンは間抜けな声を出して、パッと口元を押さえる。


「それは、どういったことでしょう?」

「た、体臭だ」

「体臭ですか?…神に誓って申し上げますが、臭いません」

「本当だな?…嘘をつくな」

「本当に、本当です!」

「よし。もう行っていい」




──────────
──────────




「アッシュ様、ゴードンでございます」

「入れ」


ゴードンが室内へ入った時、アシュリーは水の入ったグラスをレティシアに手渡そうとしていた。
その距離の近さに…触れ合える女性を遂に見つけたのだと、ゴードンは改めて実感する。

ベッドの上でお粥をモグモグと食べるレティシアは、大きな瞳を煌めかせ、小さな口を閉じて頬をしきりに動かす。その姿は小動物のよう。

フワフワのミルクティー色の髪。やや紫がかった濃い青の瞳は、透明感のある深い海のような色。
きめ細やかな肌は白く透き通っていて、整った美しい顔立ちは『人形』と表現されるのも肯ける。

一見、大人しそうな美少女だとゴードンは思った。


「アッシュ様、レティシア様のお部屋のご準備が整いました。ご不便のないよう、全ての物をご用意してございます」

「ご苦労だった、ゴードン」

「私の部屋?」

「そうだ」

「ありがとうございます。私、てっきりこのベッドで寝るのかと思っていました」

「べっ…別の部屋に決まっているだろう!」

「伯爵様ったら、冗談ですよ」


二人のやり取りを目の当たりにして、ゴードンは体臭を気にする主人の男心を瞬時に理解した。

見た目は可愛いレティシアだが、ルークを言い負かす程の度胸があり“噂の令嬢”とは異なった言動が多く見受けられる。
ゴードンは、記憶喪失説が有力だろうと思った。




──────────
──────────




「これから、数日一緒に過ごすことになる。私の従者を紹介しておこう」

「…それは、どうもご丁寧に…」

「お前たちは名前と、そうだな…レティシアに何か一つ質問をしてみるといい」


ソファーに座るレティシアの前に、アシュリーが連れて来た五人の男たちがズラリと並ぶ。


『私は、ゴードンと申します。レティシア様のお好きな食べ物は何でしょうか?』 

「ゴードンさん、先程はありがとうございました。私はお肉が大好きです」

『マルコです。では、好きな男性のタイプは?』

「マルコさん。タイプ…やっぱり優しい人かしら?あなたみたいに、体格のいい男性も素敵ね」

『チャールズです。好きな動物は何ですか?』

「チャールズさん。私はトラが好きよ、寅年生まれなの」

『カリムです。恋人に僕なんかはどうですか?』

「カリムさん、倉庫でお会いしましたね。残念、私は恋人を募集しておりません」

『ルークです。えーと…質問…?』

「ルークさんは、結構です」


笑顔でそう言うと、他の従者たちが一斉に無視されたルークを見る。レティシアは腕を組んで首を傾げた。


『おいっ、何でだよ!』

「何か、変な自己紹介?」

『…あぁ、全員違う国の言葉で喋っていたからな』

「違う国?」

『つまり、お前が理解できるかどうかのテストだ』

「テスト?だから質問をさせたのね」


(こっちは翻訳済みなのよ…全部同じに聞こえるわ)


なぜ言葉を理解できるのか?そこを突かれては困る。これ以上追及しないで貰いたいのに、アシュリーがそれを許さない。


「文字を読むより、話を聞き取るほうが遥かに難しい。今君が聞いた言葉の中には、この王国に指導者すらいないものも含まれている」


従者たちが使ったのは、それぞれの母国語。
レティシアは、ルブラン王国から遠く離れた異国の言葉を正確に理解した。


「レティシアには分からない言語などないみたいだ。もしかして、固有スキルか…言語理解能力?」

「…スキル?」


(スキルって、魔法?)


「そうか…それで、魔法に興味が。この王国には魔力持ちがほとんどいない、隠していたのか…」

「え?」

「言語理解能力自体が珍しい。我が国でも、聖女様と…数える程度しか扱える者がいない」

「……せ…聖女?」







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたが私を『番』にでっち上げた理由

冬馬亮
恋愛
ランバルディア王国では、王族から約100年ごとに『裁定者』なる者が誕生する。 国王の補佐を務め、時には王族さえも裁く至高の権威を持ち、裏の最高権力者とも称される裁定者。その今代は、先国王の末弟ユスターシュ。 そんな雲の上の存在であるユスターシュから、何故か彼の番だと名指しされたヘレナだったが。 え? どうして? 獣人でもないのに番とか聞いたことないんですけど。 ヒーローが、想像力豊かなヒロインを自分の番にでっち上げて溺愛するお話です。 ※ 同時に掲載した小説がシリアスだった反動で、こちらは非常にはっちゃけたお話になってます。 時々シリアスが入る予定ですが、基本コメディです。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。

甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。 だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。 それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。 後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース… 身体から始まる恋愛模様◎ ※タイトル一部変更しました。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

処理中です...