家を乗っ取られて辺境に嫁がされることになったら、三食研究付きの溺愛生活が待っていました

ミズメ

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 夜会から連れ出されたライラは、フォンに手を引かれて知らない道を進んでいた。
 外に出る際、フォンが羽織っていた上着を掛けられ、幾分か寒さは和らぐ。

(どこに行くのでしょう)

 伯爵家の屋根裏部屋、離宮の研究所。ライラが知っている場所は限られている。
 薬草ならば数百種類は覚えているが、貴族の顔はほとんど知らない。

「ライラ、こちらへ」
「ここは……?」
「私専用の温室だよ。離宮では管理出来ないものを、こちらに置いているんだ」

 案内されるままに足を踏み入れると、ふわりと春の温かさがライラを包み込む。咲き乱れる花々は色とりどりで、冬であることを忘れてしまいそうになる。

「ライラ。姿や身分を偽っていてすまなかった」

 温室の扉を閉めると、フォンはライラに向き直った。その表情は暗い。

「この姿のままでは、自由に動くことが出来なくて……悩んでいた所で、リカードに君の薬のことを聞いたんだ」

 眉目秀麗な金髪の王子が、しゅん、と眉を下げる様子はやけに可愛らしく見える。

「本当にすまない。結果的には君を騙していたことになる」

 フォンは何度も謝罪する。だが、ライラにとっては彼が何者であろうと特に何も問題はなかった。

「顔を上げてください、フォン。毎日そんなに煌びやかな顔でいられたら、私の眼鏡の強度が持たなかったかもしれませんし、いつものもっさりしたフォンも好きですよ」

 目の前にいるのは、ローランド殿下ではあるが、ライラにとっては"ただのフォン"でもある。
 研究所でいつも意見を交わした、あの優しいフォンなのだから。

「す、好き……? ら、ライラ、私も……!」
「そんなことより、フォンがあの薬を服用していたということは、薄毛が心配ですね。この温室にも何かヒントはないでしょうか」

 ライラは温室をよく見るために身を翻す。そのまま研究モードに突入したため、感極まったフォンの抱擁は空振りに終わってしまった。

「……ライラ、その、私との婚約についてだけれど。君をあの伯爵家からなんとか連れ出したいと思ったんだ。嫌ならいつでも解消する」

 背中から聞こえて来た声に、ライラは花を物色していた手を止めて振り返った。
 それから、何度もぱちぱちと瞬きをする。

 フォンとの婚姻を嫌だと思う気持ちは、ライラの中にはない。

 むしろ。

「私は、フォンが結婚相手だと知って嬉しかったです」

 それがライラの正直な気持ちだ。

「それに、研究も続けていいのですよね。辺境にはどんな植物があるのでしょうか。寒冷な所は行ったことがないので、楽しみです」
「……! ああ、もちろん! 実は屋敷のそばにライラと一緒に研究するための研究室を用意してあるんだ。三食しっかり食べて寝て、研究はいつでもしていい。それからリカードも引き抜いて連れて行くつもりだ」
「まあ、リカードも」
「肩書きとしては私の秘書官として、だけどね。快諾してくれたから、彼もきっと準備をしていると思うよ」

 見知らぬ土地でも、大切な友人たちが一緒だと思うと一気に楽しみになってくる。
 先ほどまでの不安は一気になくなり、ライラは俄然楽しみになってきた。

「では、辺境に行く前に、こちらにある植物でも色々試してみたいです。フォン、この花はなんですか?」

 そう問いかけると、優しい笑みが返ってきた。

「ああ。それはね──」

 


 研究仲間から一変して婚約者となった二人だったが、温室の中でそのまま魔法薬についての意見交換をして、夜は更けていった。




 ゲルティの騒動について少し。

 捕らえられたゲルティは、フォンが綿密に調べあげた証拠が決定打となり、ハルフォード家の財産を横領していたことが明らかとなった。
 その赤字を補填するためにライラの父は奔走し、過労で倒れてしまったのではないかと言われている。

 ライラの父の死期が近いことを知ったゲルティは親戚筋と共謀してライラから権限を奪い、ハルフォード伯爵家を乗っ取った。ゲルティを支持した者たちには、見返りとして横領した金の一部や領地を勝手に与えていたという。

 全てが詳らかになり、ゲルティ率いるハルフォード伯爵家は取り潰しとなり、その管理は国に委ねられることになった。
 ゲルティはこれから罪を償うことになる。

 彼の頭部については想像にお任せするが、ライラの魔法薬を使って美しい色を保っていた自慢のふさふさ緑髪は、取り調べが終わる頃には見る影もなくなっていたそうだ。
 
 あの薬効とストレスとの組み合わせは最悪かもしれない。そんなサンプルが取れた。


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