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しおりを挟む「まったく、なんなんだ、ローランド殿下は……この書類になんの不備があるというのだっ!」
憤慨した様子のゲルティは、ライラの手中にあった誓約書を奪い取る。そして舐めるように読んだ後、「は……」と顔を青くした。
赤くなったり青くなったり忙しない。
「お父様、どういたしましたの!?」
「あなた?」
シューアケの実よりもより真っ青な顔のゲルティに、オバールとギーマインも駆け寄った。
ちなみにシューアケの実というのは、大きな青色の球体の実をつける植物で、人を落ち込ませる・頭痛・腹痛といった作用のある毒を持つ。
「ま、まさか……!」
「みな、静粛に」
ゲルティの声と国王の声が再び重なる。
ライラもそちらに視線を向けると、国王陛下と妃殿下、それから三人の王子が勢揃いで並んでいた。
「今宵は集まってくれてありがとう。皆に大切な報告がある。まずはこの第一王子、オーランドについて。立太子の日取りが三月後に決まった」
第一王子のオーランドは一歩前に出て頭を下げる。国王と揃いのダークブロンドの髪が揺れる。
「それから、この第二王子のアーチーについて。センツベリー侯爵家のウェンディ嬢との婚約が整った。挙式は一年後だ」
アーチーは恭しく頭を下げ、その傍らには愛らしく微笑む令嬢がいる。
(フォンは、本当に王子さまなんですね)
輝きを放つ王族の中にいても、フォンの輝きは損なわれない。むしろ、眩さで言えば一番なのではないかと思えるほど。
そんな人物が自分の隣で魔法薬の研究に精を出していたとは――改めて考えると、不思議なことである。
「――それから」
国王の重厚な声を受け、フォンが一歩前に出る。
その際、国王の鋭い眼差しが一瞬ゲルティに向いていたように思えた。
「第三王子のローランドについては、貴族院の承認も経て手続きが完了した。臣籍に下り、亡き第三妃の生家であるギディングス辺境伯へと戻ることになる」
「ひっ」
漏れた声は、ゲルティのものだ。
「――なお、アルバン公はこれを機に高齢を理由とした当主の交代を訴えており、こちらについても受理済みだ。ギディングス辺境伯家の当主は、この第三王子ローランドが務めることを皆にも知らせておく。以上だ」
国王の話が終わると、広間には静寂が訪れ、それから割れんばかりの拍手で満たされた。
三人の王子が揃うことは稀である。そして、これからはもう揃うことはない。
固まってしまったライラが呆然と壇上を見上げていると、ローランド――つまりはフォンと目が合った。
「ライラ」
ふわりと微笑まれ、その攻撃力に眼鏡にヒビが入ったかのような気になる。
「なっ、なっ、なっ……!」
「おおおおおお義姉さまとっ、ローランド殿下ががががっ」
「なんということ…!!」
国王に告げられた内容に、ゲルティとギーマインは壊れたおもちゃのようになり、オバールはへたりと座り込んでしまった。
ライラ本人でさえ、状況が理解できない。
(私は辺境伯当主に嫁がされることになっていて、でも辺境伯の当主はもうフォンになっていて……それって、つまり)
「ところで、ハルフォード伯爵よ」
慶びに沸いた会場が少し落ち着いた頃、国王の双眸はゲルティを捉えていた。
予想外の出来事に既に顔面が蒼白を通り越して緑色だ。先程よりも幾分か髪が薄くなった気さえする。
「伯爵にはいくつかの疑惑があってねえ。特に、前当主が倒れる前の横領についてと、君が一族の了承を得て伯爵家を継いだあたり。ローランドが調べ上げてくれている」
はくはくと口を動かすゲルティは、脂汗が止まらないようだった。
「貴殿からも、もう少し話が聞きたいと思っていたんだ。――この者を連れてゆけ」
国王が合図をすると、どこからか現れた騎士たちがゲルティの周りに集まった。
突然のことに夜会の会場は騒然とする。
オバールとギーマインは悲鳴をあげ、叔母に至ってはそのまま倒れこむ。
「わ、私は何もしていないっ! 陛下! 違います!!」
「話は後で聞く」
抵抗むなしく騎士たちに拘束されたゲルティは、そのままどこかへと連れて行かれてしまった。
そして、ゲルティが暴れたその場に、緑色の髪が束ではらりと落ちている。
……効果は絶大だったらしい。
「ライラ、こちらにおいで」
いつの間にか玉座から降りてきていたフォンが、混乱したままのライラの手を優しく取る。
ライラはフォンに導かれるまま、夜会の会場から外に出た。
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