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第七話 対価-2
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不可思議な現象が部屋の外までは追い掛けて来なかったことから、二人は隣室のベックの部屋に腰を落ち着けた。そしてハロルドはベックにヘンドリックから伝えられた内容を相談する。
「どう考える?」
「自分らはもう盗賊みたいなもんだし、既に盗賊そのものになってる連中を抱えていますがね、これ以上の略奪は統制が全く執れなくなりやしませんか?」
ベックの言葉には自嘲も含まれている。第二大隊は他の大隊のような略奪こそしていないが、商店などの用心棒をする代金が主な収入だ。他に収入の宛てが駐留軍全体としては自作自演にしか見えない。
「やっぱりそう思うか」
「ええ、引き時だと思いますね」
「まあな」
ハロルドは眉根を寄せて考え込んだ。ついさっき自身でも考えたことではある。
「あのヘンドリックにしては言い方が変ですしね」
ヘンドリックは先代からの忠臣で、以前には主人に対する批判的な言動をした試しが無い。当代に関してさえだ。
ところが今回、当代の責任を明言した。
「それに、多分あの呪いはしつこいですよ。このままここに居たんじゃほんとに死ぬまでまとわり憑かれるんじゃないですかね」
「全くその通りなんだが、他の大隊の連中のことも有るからどうしたものかね……」
事実上、ハイデンの治安は第二大隊が担っている。第一大隊や第三大隊と言った巨悪の存在が小悪党の活動を抑止している面も無きにしも非ずだが、恐らくは誤差の範囲であろう。
ともあれ、ベックとしてもその点に言及されれば答えを持たず、沈黙するばかり。二人して考え込む。
うんうん唸りながら思案し始めていかほどか。
「伝令ーっ! 伝令ーっ! ハロルド隊長殿に伝令ーっ!」
けたたましい声が近付いて来る。
二人は間髪を容れずに動いて部屋を出て、ベックが声を張る。
「隊長はここだ!」
するとハロルドの部屋目掛けて走っていたらしい兵士が目の前で止まり、敬礼をする。ハロルドが連隊長の動向を監視させていた兵士の一人だった。
「報告いたします。連隊長殿が襲撃を受け戦死。同行の小隊総員も同じく戦死。襲撃者はスーツ姿の老人一名。以上であります」
思いも寄らない報告に、ハロルドでも理解するまで少しの間を要した。しかし理解してしまえば想像は巡る。
「襲撃者の名は判らないのか!?」
「連隊長殿がヘンドリックと呼び掛けたように思われました」
ハロルドは目を瞠る。意見を求めるかの如くベックを見たが、「俺もこんな顔になっているのか」と奇妙な感想を抱くような驚きに満ちた顔で見返されるだけであった。
「伝令ーっ! 伝令ーっ! ハロルド隊長殿に伝令ーっ!」
そこに別の伝令の声。ハロルドの許に立ち止まって敬礼をする。
「報告いたします。第三大隊隊長殿が銃撃を受け死亡。同行の小隊が犯人と思しき女一名を捜索中。以上であります」
ハロルドは今度こそ我が耳を疑ったが、部下の前では顔に出さない。
「現時点を以て各隊長の監視任務を解除する。ご苦労だった」
その言葉だけを口から絞り出して二人の伝令を労い、伝令が立ち去るのを見送ってってからベックと二人でのろのろとベックの部屋に入る。ドアを閉め、各々壁とドアにもたれ掛かると、二人して脚から力が抜けたようにへなへなと座り込んだ。
ぼんやりと中空を見ながら思考する内に変な笑いが込み上げる。
「ひひひっ。ヘンドリックも思い切ったことをしましたね」
「くっくっく……。さっきまで悩んだのは何だったんだろうな」
軍としては侮られたことに怒らねばならないところである。だが、ハロルドやベックにとって殺害された彼らは軍の汚点でしかなかった。居なくなったことがむしろ清々しい。それに連隊長亡き後はハロルドが駐留軍の最高位になるため、自由に軍を動かせもする。
「ヘンドリックがボナレス見限ったなら自分らも見習いませんか?」
「ああ。この好機を逃す手はないな。しかし引き上げるとして、他の隊の連中にはどう言う?」
「伯爵に全部責任を取って貰いましょう」
「どう考える?」
「自分らはもう盗賊みたいなもんだし、既に盗賊そのものになってる連中を抱えていますがね、これ以上の略奪は統制が全く執れなくなりやしませんか?」
ベックの言葉には自嘲も含まれている。第二大隊は他の大隊のような略奪こそしていないが、商店などの用心棒をする代金が主な収入だ。他に収入の宛てが駐留軍全体としては自作自演にしか見えない。
「やっぱりそう思うか」
「ええ、引き時だと思いますね」
「まあな」
ハロルドは眉根を寄せて考え込んだ。ついさっき自身でも考えたことではある。
「あのヘンドリックにしては言い方が変ですしね」
ヘンドリックは先代からの忠臣で、以前には主人に対する批判的な言動をした試しが無い。当代に関してさえだ。
ところが今回、当代の責任を明言した。
「それに、多分あの呪いはしつこいですよ。このままここに居たんじゃほんとに死ぬまでまとわり憑かれるんじゃないですかね」
「全くその通りなんだが、他の大隊の連中のことも有るからどうしたものかね……」
事実上、ハイデンの治安は第二大隊が担っている。第一大隊や第三大隊と言った巨悪の存在が小悪党の活動を抑止している面も無きにしも非ずだが、恐らくは誤差の範囲であろう。
ともあれ、ベックとしてもその点に言及されれば答えを持たず、沈黙するばかり。二人して考え込む。
うんうん唸りながら思案し始めていかほどか。
「伝令ーっ! 伝令ーっ! ハロルド隊長殿に伝令ーっ!」
けたたましい声が近付いて来る。
二人は間髪を容れずに動いて部屋を出て、ベックが声を張る。
「隊長はここだ!」
するとハロルドの部屋目掛けて走っていたらしい兵士が目の前で止まり、敬礼をする。ハロルドが連隊長の動向を監視させていた兵士の一人だった。
「報告いたします。連隊長殿が襲撃を受け戦死。同行の小隊総員も同じく戦死。襲撃者はスーツ姿の老人一名。以上であります」
思いも寄らない報告に、ハロルドでも理解するまで少しの間を要した。しかし理解してしまえば想像は巡る。
「襲撃者の名は判らないのか!?」
「連隊長殿がヘンドリックと呼び掛けたように思われました」
ハロルドは目を瞠る。意見を求めるかの如くベックを見たが、「俺もこんな顔になっているのか」と奇妙な感想を抱くような驚きに満ちた顔で見返されるだけであった。
「伝令ーっ! 伝令ーっ! ハロルド隊長殿に伝令ーっ!」
そこに別の伝令の声。ハロルドの許に立ち止まって敬礼をする。
「報告いたします。第三大隊隊長殿が銃撃を受け死亡。同行の小隊が犯人と思しき女一名を捜索中。以上であります」
ハロルドは今度こそ我が耳を疑ったが、部下の前では顔に出さない。
「現時点を以て各隊長の監視任務を解除する。ご苦労だった」
その言葉だけを口から絞り出して二人の伝令を労い、伝令が立ち去るのを見送ってってからベックと二人でのろのろとベックの部屋に入る。ドアを閉め、各々壁とドアにもたれ掛かると、二人して脚から力が抜けたようにへなへなと座り込んだ。
ぼんやりと中空を見ながら思考する内に変な笑いが込み上げる。
「ひひひっ。ヘンドリックも思い切ったことをしましたね」
「くっくっく……。さっきまで悩んだのは何だったんだろうな」
軍としては侮られたことに怒らねばならないところである。だが、ハロルドやベックにとって殺害された彼らは軍の汚点でしかなかった。居なくなったことがむしろ清々しい。それに連隊長亡き後はハロルドが駐留軍の最高位になるため、自由に軍を動かせもする。
「ヘンドリックがボナレス見限ったなら自分らも見習いませんか?」
「ああ。この好機を逃す手はないな。しかし引き上げるとして、他の隊の連中にはどう言う?」
「伯爵に全部責任を取って貰いましょう」
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