慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔

文字の大きさ
13 / 38

第二話 徘徊-4

しおりを挟む
 ――ここは一体どこ!?

 王都を出立から数日、エカテリーナは道を失っている。
 災難から逃れようと慌ただしく東へと旅立つ商人の馬車に便乗した。ハイデルフト領は王都から見れば東南東に位置するため、東に向かって進めば大丈夫な筈なのだ。ところが乗った馬車は途中で曲がり、有らぬ方向へと進んだ。一度ひとたび方向を見失なった後はもう為す術を持たないエカテリーナであった。
 だからとへこたれはしない。為す術がなければ適当にやってしまえとばかりに適当な馬車に便乗して別の町を目指す。運良く覚えのある町に行き着けば方角も判ろうと言うものだ。客観的には良いはずのないこれを、エカテリーナはひたすら繰り返す。
 明後日の方向へと向かう馬車に乗り込んだことは数知れず、客室に入れず屋根の上に乗った時には転げ落ちたりもする。落ちた場所が悪ければ馬車を追い掛けることも叶わず、歩かなければならない。歩かなければならないのは適当な馬車が見つからない場合もだ。そんな時、仕方なく次の町まで歩いて向かうのだが、気付けば道の無い鬱蒼とした森の中であったりする。
 疲れる肉体を持っていないのが幸か不幸か判らない有り様であった。
 ところが、人にも帰巣本能が有るのかどうか、王都を発って半年余り後にハイデルフト領の領都へと帰り着くに至った。

 久しく目にしていなかった領主館。昔年の面影は既に無く、見事なまでに焼け落ちていた。
 領主館の焼け跡に入り、位置的に食堂だった場所へと行くと、エカテリーナを向かえる人が居た。母、兄、そしていつの間に帰っていたのか、父のハイデルフト候である。エカテリーナが駆け寄ると、三人に微笑みで迎えられた。
 エカテリーナも父や兄に微笑みを返し、母と抱き締め合う。母や兄も既に亡くなっていることは哀しかったが、三人がずっと自分を待っていてくれたことが嬉しかった。
 父母が寄り添い合い、その横に兄が立つ。父が差し出した手にエカテリーナが手を重ねると、三人は光の粒となって消えた。
 これ以上迷うことなく三人は旅立ったのだと、残されたエカテリーナは安堵した。
 エカテリーナは旅立てなかったのだ。

 ――我ながら業の深いことです。

 覚悟の違いかも知れない。だが、迷って直ぐであれば一緒に旅立てたようにも思えた。
 だが、父や自身の晒された首を、荒らされた屋敷を、捨て置かれた執事長とメイド長の亡骸を、焼け落ちた領主館を見て、母や兄が既に亡いことも知ったエカテリーナの心には闇が差していた。
 三人が待っていてくれた喜びも、その旅立ちに合わせて家族の命を奪った者への憎しみに変わった。
 もはや恨めしい思いが募るばかりなのだ。

 酒場などで住民の会話を盗み聞く。
 半年以上の間、領主館が放っておかれたのはハイデルフト候のせいだった。エカテリーナを待つ間、何人なんぴとも敷地に入らせないようにしていたのだ。
 そのハイデルフト候も旅立ったことから、この先はエカテリーナも与り知らぬところで再建なり何なりが進むのだろう。
 エカテリーナにとっては、そんな未来よりも過去が問題である。領主館の焼失は攻め込んだ者達の付け火によると聞き及んでいた。

 ――このまま捨て置ける筈がありませんよね?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

叶えられた前世の願い

レクフル
ファンタジー
 「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー

笑顔が苦手な元公爵令嬢ですが、路地裏のパン屋さんで人生やり直し中です。~「悪役」なんて、もう言わせない!~

虹湖🌈
ファンタジー
不器用だっていいじゃない。焼きたてのパンがあればきっと明日は笑えるから 「悪役令嬢」と蔑まれ、婚約者にも捨てられた公爵令嬢フィオナ。彼女の唯一の慰めは、前世でパン職人だった頃の淡い記憶。居場所を失くした彼女が選んだのは、華やかな貴族社会とは無縁の、小さなパン屋を開くことだった。 人付き合いは苦手、笑顔もぎこちない。おまけにパン作りは素人も同然。 「私に、できるのだろうか……」 それでも、彼女が心を込めて焼き上げるパンは、なぜか人の心を惹きつける。幼馴染のツッコミ、忠実な執事のサポート、そしてパンの師匠との出会い。少しずつ開いていくフィオナの心と、広がっていく温かい人の輪。 これは、どん底から立ち上がり、自分の「好き」を信じて一歩ずつ前に進む少女の物語。彼女の焼くパンのように、優しくて、ちょっぴり切なくて、心がじんわり温かくなるお話です。読後、きっとあなたも誰かのために何かを作りたくなるはず。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

【完結】悪役令嬢と自称ヒロインが召喚されてきたけど自称ヒロインの評判がとんでもなく悪い

堀 和三盆
恋愛
 オカルト研究会がやらかした。異世界へ行く魔法陣を作り出そうとして、逆に向こうから自称ヒロインと悪役令嬢を召喚してしまった。魔法陣の製作者によると時間はかかるが元の世界に戻すことは可能らしい。帰還させるまでの間、二人は学校で生徒として保護することで話は付いた。そして生徒会長である俺が悪役令嬢の世話をすることになった。  悪役令嬢は真面目だ。掃除も嫌がらずにやってくれる。優秀な彼女はすぐにこちらの生活に馴染んでくれた。  一方その頃自称ヒロインは……。  ※委員長side(4話)とおまけの1話を追加しました。

親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!

音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ 生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界 ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生 一緒に死んだマヤは王女アイルに転生 「また一緒だねミキちゃん♡」 ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差 アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

処理中です...