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大きなうねり(2)
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対面式の座席。ルービックとマシューが前の席にユーリを挟んで座り、後ろの席にマキア、エン、私の並びで座ることになった。
「………………」
ユーリは真正面に座ったエンを静かな瞳で見た。しかし最後に馬車へ乗り込んだ私を見た時は、
「!…………」
明らかに目を見開いた後にそっぽを向いた。気まずいですよね、私もです。
「ユーリ、体調はどうだ?」
ルービック師団長がまず気遣いの言葉をかけた。ユーリは答えなかった。
「沈黙はキミにとって不利となる。逆に協力的な姿勢を取ってくれるなら、我々もそれに出来得る限り報いよう」
師団長としても、エンの義兄弟を拷問にかけたくないのだろう。
「………………」
唇を開こうとしないユーリ。ルービックはエンに視線を移した。
「エン。キミの方から言いたいこと、聞きたいことが有るなら口に出したまえ」
「はい」
エンは機会を与えてくれた師団長に深く頭を下げてから、ユーリに改めて向き直った。そして聞いたのだ。
「ユーリ、食事に毒が入っていたのか?」
「!」
「!」
「!」
「!」
説得の言葉が出てくると思っていた私達は度肝を抜かれた。毒!? 冷静なのは発言したエンと、尋ねられたユーリの二名だけだった。
座席の隅に残されていた、ほとんど手付かずの水と乾パンへ皆の視線が注《そそ》がれた。エンが手を伸ばして水の入った木製のコップを取った。
「エン、おい!?」
迷わずコップに口を付けたエンをマキアが両手で止めた。
「大丈夫、舐めただけだ」
エンは相棒を安心させた後、唾液と一緒に舐めた水をペッと手拭《てぬぐ》いへ吐き出した。
「この水、毒が入っています」
宣言されて私達は血の気が引いた。
「謀略の世界の住人である俺達は、幼い頃からありとあらゆる毒の知識を頭と身体に叩きこまれています。少量ずつ口に含んでは吐き出すことを繰り返してきました。他の物に混ぜられても、匂いと味に気づけるように」
エンは淡々と凄く恐ろしいことを語った。
え、でもどうしてユーリの水に毒? 考えをまとめて頭を整理しようとしていたのに、すぐ脇の扉をドンドンドンドン!と乱暴に叩かれて私は飛び上がりそうに驚いた。
「何事か!」
私の対面に座るマシューが馬車の扉を開けて、走ってきたのか慌てた様子の兵士に尋ねた。
「大変です! 他の馬車に乗せていたもう一人の捕虜が、食事の最中に血を吐いて死亡しました!!」
「死んだ!?」
マシューは奥の席のルービックを振り返った。師団長はよく通る声で伝えに来た兵士へ指示を出した。
「エドガー連隊長と軍医を向かわせて死因を調べさせろ」
「はっ!」
兵士が走り去った後、マシューは再び馬車の扉を閉めた。いつもの愛嬌が消えて、厳しい表情となった彼は低い声で呟いた。
「どういうことだ……?」
答えたのはエンだった。
「口封じです。ユーリ達が情報を吐かないように、尋問を受ける前に殺害しようとしたんです」
「なっ……。このキャンプの中にアンダー・ドラゴンの奴らが紛れているのか!?」
「いいえ」
エンは感情を込めず状況を説明した。
「アンドラの人間なら、兵団が使っている水瓶にそのまま毒を仕込みます」
想像して背筋が寒くなった。もしそれをやられていたら、朝食を摂った大勢の兵士が命を落としていた。私だって。
「毒を仕込んだ人間は、ピンポイントで捕虜二人を狙ったということか?」
「そうです」
「アンダー・ドラゴンの人間が犯人でないのなら……まさか…………」
エンは頷いた。
「残念ながら犯人は兵団側の人間です」
「馬鹿な! どうして王国兵士が……。そんな!!」
激昂するマシュー。ルービックは静かに怒っていた。
「……アンダー・ドラゴンと通じていた兵士が居たということだな?」
恐ろしい事実を聞かされた私は声を上げそうになったが、手で口元を押さえて堪えた。
「おそらくはそうです。一昨日の晩に師団長を暗殺しに来たユーリ達は、その内通者によって手引きされたのでしょう。そしてそれを暴露されることを恐れ、捕らえられたユーリ達を内通者は消そうとしたんです。服毒自殺したように見せかけて」
エンはユーリをじっと見た。
「アンドラも内通者も、おまえを切り捨てようとしたんだ。組織の為に身体と命を張ったおまえを」
このエンの言葉には感情が込められていた。本拠地で首領達を逃がそうと、たった独りで時間稼ぎをしたユーリの姿が私の脳裏にも蘇った。
つらそうなエン。大切な義兄弟を捨て石にされたのだから当然だ。
ユーリはそんなエンに応じようとしたのだろうか、今日初めて口を開いた。
「それが……忍びの末路なんだ…………」
「………………」
ユーリは真正面に座ったエンを静かな瞳で見た。しかし最後に馬車へ乗り込んだ私を見た時は、
「!…………」
明らかに目を見開いた後にそっぽを向いた。気まずいですよね、私もです。
「ユーリ、体調はどうだ?」
ルービック師団長がまず気遣いの言葉をかけた。ユーリは答えなかった。
「沈黙はキミにとって不利となる。逆に協力的な姿勢を取ってくれるなら、我々もそれに出来得る限り報いよう」
師団長としても、エンの義兄弟を拷問にかけたくないのだろう。
「………………」
唇を開こうとしないユーリ。ルービックはエンに視線を移した。
「エン。キミの方から言いたいこと、聞きたいことが有るなら口に出したまえ」
「はい」
エンは機会を与えてくれた師団長に深く頭を下げてから、ユーリに改めて向き直った。そして聞いたのだ。
「ユーリ、食事に毒が入っていたのか?」
「!」
「!」
「!」
「!」
説得の言葉が出てくると思っていた私達は度肝を抜かれた。毒!? 冷静なのは発言したエンと、尋ねられたユーリの二名だけだった。
座席の隅に残されていた、ほとんど手付かずの水と乾パンへ皆の視線が注《そそ》がれた。エンが手を伸ばして水の入った木製のコップを取った。
「エン、おい!?」
迷わずコップに口を付けたエンをマキアが両手で止めた。
「大丈夫、舐めただけだ」
エンは相棒を安心させた後、唾液と一緒に舐めた水をペッと手拭《てぬぐ》いへ吐き出した。
「この水、毒が入っています」
宣言されて私達は血の気が引いた。
「謀略の世界の住人である俺達は、幼い頃からありとあらゆる毒の知識を頭と身体に叩きこまれています。少量ずつ口に含んでは吐き出すことを繰り返してきました。他の物に混ぜられても、匂いと味に気づけるように」
エンは淡々と凄く恐ろしいことを語った。
え、でもどうしてユーリの水に毒? 考えをまとめて頭を整理しようとしていたのに、すぐ脇の扉をドンドンドンドン!と乱暴に叩かれて私は飛び上がりそうに驚いた。
「何事か!」
私の対面に座るマシューが馬車の扉を開けて、走ってきたのか慌てた様子の兵士に尋ねた。
「大変です! 他の馬車に乗せていたもう一人の捕虜が、食事の最中に血を吐いて死亡しました!!」
「死んだ!?」
マシューは奥の席のルービックを振り返った。師団長はよく通る声で伝えに来た兵士へ指示を出した。
「エドガー連隊長と軍医を向かわせて死因を調べさせろ」
「はっ!」
兵士が走り去った後、マシューは再び馬車の扉を閉めた。いつもの愛嬌が消えて、厳しい表情となった彼は低い声で呟いた。
「どういうことだ……?」
答えたのはエンだった。
「口封じです。ユーリ達が情報を吐かないように、尋問を受ける前に殺害しようとしたんです」
「なっ……。このキャンプの中にアンダー・ドラゴンの奴らが紛れているのか!?」
「いいえ」
エンは感情を込めず状況を説明した。
「アンドラの人間なら、兵団が使っている水瓶にそのまま毒を仕込みます」
想像して背筋が寒くなった。もしそれをやられていたら、朝食を摂った大勢の兵士が命を落としていた。私だって。
「毒を仕込んだ人間は、ピンポイントで捕虜二人を狙ったということか?」
「そうです」
「アンダー・ドラゴンの人間が犯人でないのなら……まさか…………」
エンは頷いた。
「残念ながら犯人は兵団側の人間です」
「馬鹿な! どうして王国兵士が……。そんな!!」
激昂するマシュー。ルービックは静かに怒っていた。
「……アンダー・ドラゴンと通じていた兵士が居たということだな?」
恐ろしい事実を聞かされた私は声を上げそうになったが、手で口元を押さえて堪えた。
「おそらくはそうです。一昨日の晩に師団長を暗殺しに来たユーリ達は、その内通者によって手引きされたのでしょう。そしてそれを暴露されることを恐れ、捕らえられたユーリ達を内通者は消そうとしたんです。服毒自殺したように見せかけて」
エンはユーリをじっと見た。
「アンドラも内通者も、おまえを切り捨てようとしたんだ。組織の為に身体と命を張ったおまえを」
このエンの言葉には感情が込められていた。本拠地で首領達を逃がそうと、たった独りで時間稼ぎをしたユーリの姿が私の脳裏にも蘇った。
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