142 / 257
大きなうねり(1)
しおりを挟む
「ハイみんな朝だよー、起きなー!!」
元気の良い女性兵士の声がテント内に響いた。寝ていた者達がモゾモゾと起き出す。テントにお邪魔していた私も目覚めた。今日も一日が始まるのだ。
朝食用に配られた水と乾パン。コップの水をちょっぴりフェイスタオルに湿らせて顔を拭いた。すっかり仲良くなったミラとマリナも同じようにしていた。
「いい加減シャワーを浴びたいよね」
「ホント、こんな汚い身体じゃ気になる人の傍に行けやしない」
マリナらしい感想だが今の私には気持ちが解った。ルパートと言う名の厄介なイケメンに積極的アプローチを受けているからだ。
彼に密着される度、ドキドキと同時に「私臭くない!?」というヒヤヒヤ感に襲われる。相手もお風呂に入れていないのだから条件は一緒なんだけどね、それでも女としてはいい匂いと思われたいっていうか……。いやいやいや、ルパートに何で気を遣ってんの私。
「そういえば、マシュー中隊長もかなりカッコイイよね。マリナは彼をどう思う?」
私は昨日気になったことを尋ねてみたのだが、
「マシュー中隊長? 無理無理無理無理無理!!」
「あ~、中隊長は無理でしょうよ」
マリナにもミラにも光の速度で否定された。何故? にゅっと影から伸びてくる怖い手のせいかな?
しかしマリナの回答は意外なものだった。
「流石に貴族様には迫られないわよ」
「へ? 貴族? マシュー中隊長は貴族なの!?」
実力主義の聖騎士。勝手に全員庶民から成り上がった人達だと思い込んでいた。でもそうか、貴族の中にも魔法と剣、両方の資質を持つ人は居るよね。
「貴族の中では一番下の男爵家だけれど、それでも私達庶民からしたら雲の上の人よ」
そのお貴族様、昨日しれっと夕食の輪に加わっていたけどね。
「そっか、気さくな方だから貴族だなんて思わなかったよ」
「性格は良さそうよね。お顔も。こちらから迫るのは不敬に当たっちゃうけど、向こうから声をかけて頂けたらウェルカムだわ」
あ、それならいいのね。
私達三人は恋バナに花を咲かせつつ、テント撤去や馬車への荷積みといった必要な作業をこなした。
そろそろ冒険者ギルドのみんなの元へ戻ろうかと考えていた頃、後方でどよめきが起きた。
「師団長、中隊長、おはようございます!」
大きな、しかし興奮で少し裏返った声が上がった。見ると白銀の鎧を装着したルービックとマシューが存在感たっぷりに佇んでいた。絵になるな。彼らの後ろにはエンとマキアも居たのだが、こちらは女性兵士スペースに足を踏み入れて居心地が悪そうだ。
いったい朝からどうしたんだろう?
「そこに居たかロックウィーナ。我々に同行してくれ」
師団長から名指しをされて動揺する私に、マシューが柔らかい笑みを浮かべて説明した。
「エンの希望だよ。目覚めたユーリにこれから面会してもらうんだけど、エンはキミにも一緒に来て欲しいんだそうだ」
「えっ……」
返事も聞かずに聖騎士達はとある方向へ歩き出した。私は慌ててエンとマキアに加わって聖騎士の後を追った。
緊張した面持ちのエンが私に一礼した。
「すまない。情けないことだがユーリと冷静に話せる自信が無いんだ。おまえとマキアが付いていてくれると心強い……」
ええっ!? バディのマキアはともかく、私も同席していいの?
マキアが軽く私の肩に手を触れた。ああ駄目だよマキア。今の私は臭くて汚いの。
「エンのお願い聞いてやって。コイツが人を頼るなんて滅多に無いことなんだ」
「私は構わないけどさ、ユーリさんが嫌がると思うよ? だって私、一昨日に一発、昨日二発の合計三発の蹴りを彼に叩き込んでいるんだよ?」
私は本気で心配したのだが、コフッと前方を歩くルービックが噴いた音がした。本当にこの人は笑いの沸点が低い。
「大丈夫。ユーリは能力の高い者こそ認める傾向にある。所属する組織の違いによって敵対しているが、個人的におまえのことは評価しているはずだ」
本当に? 踵落とし食らわせた後、ユーリは白目剥いていたけど。自分に白目を剝かせた相手を好意的に見てくれるかな?
不安いっぱいの私が案内されたのは兵団が使用している馬車の一つだった。荷馬車ではなく、扉がしっかり閉まるタイプだ。馬は繋がれておらず御者も今は居ない。五人の兵士が馬車を囲んで見張りに立っていた。
マシューが扉を開けたので中が覗けた。手足を拘束されたユーリが、二人の兵士の補助を受けて食事をしているところだった。一緒に捕らえたもう一人のアンダー・ドラゴン構成員の姿は無い。結託しないように別々の場所に離されたのだろう。
「あれ~、まだ食べ終わってないの? 遅過ぎるだろ」
「すみません中隊長! コイツ水を口に含んだ途端に吐き出して、それから一切食べようとしないんです!」
「吐き出した……?」
エンが眉を顰めた。
「何それハンストでも決め込んでんの? 食べとかないと体力が付かなくてユーリ、アンタ自身がつらい思いをするよ? この後み~っちりお話聞かせてもらうんだからね?」
マシューの挑発をユーリは意志の強い瞳で跳ね返した。捕縛されても心は折れていないようだ。
「ありがとう、後は私達がやる。下がってくれ」
師団長に言われて食事補助の兵士二人は馬車を降りた。入れ替わりに聖騎士二人が乗り込み、マシューに手招きされて私達ギルド三人組も馬車内へ入った。
元気の良い女性兵士の声がテント内に響いた。寝ていた者達がモゾモゾと起き出す。テントにお邪魔していた私も目覚めた。今日も一日が始まるのだ。
朝食用に配られた水と乾パン。コップの水をちょっぴりフェイスタオルに湿らせて顔を拭いた。すっかり仲良くなったミラとマリナも同じようにしていた。
「いい加減シャワーを浴びたいよね」
「ホント、こんな汚い身体じゃ気になる人の傍に行けやしない」
マリナらしい感想だが今の私には気持ちが解った。ルパートと言う名の厄介なイケメンに積極的アプローチを受けているからだ。
彼に密着される度、ドキドキと同時に「私臭くない!?」というヒヤヒヤ感に襲われる。相手もお風呂に入れていないのだから条件は一緒なんだけどね、それでも女としてはいい匂いと思われたいっていうか……。いやいやいや、ルパートに何で気を遣ってんの私。
「そういえば、マシュー中隊長もかなりカッコイイよね。マリナは彼をどう思う?」
私は昨日気になったことを尋ねてみたのだが、
「マシュー中隊長? 無理無理無理無理無理!!」
「あ~、中隊長は無理でしょうよ」
マリナにもミラにも光の速度で否定された。何故? にゅっと影から伸びてくる怖い手のせいかな?
しかしマリナの回答は意外なものだった。
「流石に貴族様には迫られないわよ」
「へ? 貴族? マシュー中隊長は貴族なの!?」
実力主義の聖騎士。勝手に全員庶民から成り上がった人達だと思い込んでいた。でもそうか、貴族の中にも魔法と剣、両方の資質を持つ人は居るよね。
「貴族の中では一番下の男爵家だけれど、それでも私達庶民からしたら雲の上の人よ」
そのお貴族様、昨日しれっと夕食の輪に加わっていたけどね。
「そっか、気さくな方だから貴族だなんて思わなかったよ」
「性格は良さそうよね。お顔も。こちらから迫るのは不敬に当たっちゃうけど、向こうから声をかけて頂けたらウェルカムだわ」
あ、それならいいのね。
私達三人は恋バナに花を咲かせつつ、テント撤去や馬車への荷積みといった必要な作業をこなした。
そろそろ冒険者ギルドのみんなの元へ戻ろうかと考えていた頃、後方でどよめきが起きた。
「師団長、中隊長、おはようございます!」
大きな、しかし興奮で少し裏返った声が上がった。見ると白銀の鎧を装着したルービックとマシューが存在感たっぷりに佇んでいた。絵になるな。彼らの後ろにはエンとマキアも居たのだが、こちらは女性兵士スペースに足を踏み入れて居心地が悪そうだ。
いったい朝からどうしたんだろう?
「そこに居たかロックウィーナ。我々に同行してくれ」
師団長から名指しをされて動揺する私に、マシューが柔らかい笑みを浮かべて説明した。
「エンの希望だよ。目覚めたユーリにこれから面会してもらうんだけど、エンはキミにも一緒に来て欲しいんだそうだ」
「えっ……」
返事も聞かずに聖騎士達はとある方向へ歩き出した。私は慌ててエンとマキアに加わって聖騎士の後を追った。
緊張した面持ちのエンが私に一礼した。
「すまない。情けないことだがユーリと冷静に話せる自信が無いんだ。おまえとマキアが付いていてくれると心強い……」
ええっ!? バディのマキアはともかく、私も同席していいの?
マキアが軽く私の肩に手を触れた。ああ駄目だよマキア。今の私は臭くて汚いの。
「エンのお願い聞いてやって。コイツが人を頼るなんて滅多に無いことなんだ」
「私は構わないけどさ、ユーリさんが嫌がると思うよ? だって私、一昨日に一発、昨日二発の合計三発の蹴りを彼に叩き込んでいるんだよ?」
私は本気で心配したのだが、コフッと前方を歩くルービックが噴いた音がした。本当にこの人は笑いの沸点が低い。
「大丈夫。ユーリは能力の高い者こそ認める傾向にある。所属する組織の違いによって敵対しているが、個人的におまえのことは評価しているはずだ」
本当に? 踵落とし食らわせた後、ユーリは白目剥いていたけど。自分に白目を剝かせた相手を好意的に見てくれるかな?
不安いっぱいの私が案内されたのは兵団が使用している馬車の一つだった。荷馬車ではなく、扉がしっかり閉まるタイプだ。馬は繋がれておらず御者も今は居ない。五人の兵士が馬車を囲んで見張りに立っていた。
マシューが扉を開けたので中が覗けた。手足を拘束されたユーリが、二人の兵士の補助を受けて食事をしているところだった。一緒に捕らえたもう一人のアンダー・ドラゴン構成員の姿は無い。結託しないように別々の場所に離されたのだろう。
「あれ~、まだ食べ終わってないの? 遅過ぎるだろ」
「すみません中隊長! コイツ水を口に含んだ途端に吐き出して、それから一切食べようとしないんです!」
「吐き出した……?」
エンが眉を顰めた。
「何それハンストでも決め込んでんの? 食べとかないと体力が付かなくてユーリ、アンタ自身がつらい思いをするよ? この後み~っちりお話聞かせてもらうんだからね?」
マシューの挑発をユーリは意志の強い瞳で跳ね返した。捕縛されても心は折れていないようだ。
「ありがとう、後は私達がやる。下がってくれ」
師団長に言われて食事補助の兵士二人は馬車を降りた。入れ替わりに聖騎士二人が乗り込み、マシューに手招きされて私達ギルド三人組も馬車内へ入った。
1
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。
あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。
木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。
本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。
しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。
特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。
せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。
そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。
幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。
こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。
※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)
【完結】悪役令嬢は婚約破棄されたら自由になりました
きゅちゃん
ファンタジー
王子に婚約破棄されたセラフィーナは、前世の記憶を取り戻し、自分がゲーム世界の悪役令嬢になっていると気づく。破滅を避けるため辺境領地へ帰還すると、そこで待ち受けるのは財政難と魔物の脅威...。高純度の魔石を発見したセラフィーナは、商売で領地を立て直し始める。しかし王都から冤罪で訴えられる危機に陥るが...悪役令嬢が自由を手に入れ、新しい人生を切り開く物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる