ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
144 / 257

大きなうねり(3)

しおりを挟む
 ユーリは自分の境遇を冷静に受け止めているように見えた。
 それはつまり公民館で戦った時、ユーリは死を覚悟していたということだ。そして毒殺されかけた件に関しても彼は動揺していない。
 組織とボスに尽くしたというのにあんまりな仕打ち。怒りや悔しさが湧き上がらないのか?

「それでいいの?」

 思わず口をついて出てしまった言葉。ユーリは発した私を一瞥いちべつしたが答えなかった。

「でもあなたは毒を吐き出したよね? 生きようとしたんだよね?」
「……………………」

 まただんまりを決め込んだ兄の代わりに、エンが複雑な表情で私に説明した。

「俺達忍びはどんな状況でも生き延びるよう訓練されている。そして生きている限りは雇い主の為に動くようにと」
「その雇い主にユーリさんは毒を盛られたんじゃない! もう彼はらないって態度で示されたんだよ!?」

 本人の前で酷いことを言っている自覚は有る。私はユーリに気づいて欲しかった。くだらない相手の為に命を張る必要は無いと。
 ここでユーリがようやく私へ口をきいた。

「俺の雇い主は首領レスター・アークだ。水に毒を仕込んだのはボスの指示ではなく、内通者の独断だろう」
「だから!?」

 私は反射的に言い返した。

「首領は毒殺を命じていないからまだ彼に従うの? 生きている限り? 理不尽な任務に就かされても!?」
「そうだ。契約が有効である限り。それが忍びのあるべき姿だ」
「そんなの、人間の生き方じゃないよ……」

 優しいマキアが端の席で嘆いた。私も同感だ。
 ユーリの目がわった。

「その通りだ。忍びとは人間ではない。兵器だ」

 言い切ったユーリ。マキアは数秒間圧倒されていたが、キッと瞳に強い意志を宿した。

「違う! エンは忍びだけど人間だ! 俺の大切な相棒なんだ!!」

 マキア~。よく言ってくれた! 私は心の中で彼に拍手を贈りながら追随した。

「そうだよ。エンは言葉が少なくて誤解されることも有るけど、仲間想いの優しい人だ。優秀な戦士であっても兵器なんかじゃない!」

 しかしユーリは冷たく言い放ったのだ。

「だからソイツは忍びの落ちこぼれだったんだ。戦闘技術だけ上がっても心を殺すことができなかった。肝心な所で情に左右されて何度も任務遂行に支障をきたした。いつも俺が尻拭いをしてやったんだよな?」
「……………………」

 エンは唇を噛んで目線を下に落としてしまった。

「もうおまえのおり役は御免なんだよ。俺の前から消えてくれ、エン」

 それは残酷な拒絶だった。国を捨ててはるばるこのラグゼリア王国まで、ユーリに会いたい一心で長い旅をしてきたエン。だのにユーリはエンの想いを一刀両断に斬り捨てた。エンが膝の上で握りしめている拳がかすかに震えていた。
 マシューが自分の隣のユーリをさげすむ眼で見た。

「あ~もう、胸糞悪いな。キミがそんな態度を取るなら、こちらとしても優しくしてやれないよ?」
「好きにしたらいい」
「尋問……ハッキリ言って拷問だけどさ、毒を飲んでおけば良かったと思えるほどにキツイよ?」
「死ぬまで責めればいい。俺は何も話さない」

 マシューはヤレヤレと肩を揺らし、ルービックが大きな溜め息を吐いた。

「……残念だがこういう結果となった。冒険者ギルドの諸君は馬車を降りてくれ」

 師団長は結論を出してしまった。そんな。ここで降りたら聖騎士によるユーリの尋問が始まる。マシューのあのおっかない影の手で、ユーリは身体中を締め上げられるのだろう。窒息死する寸前まで、何度も何度も。

「ユーリ頼む、俺達に協力してくれ!」

 義兄弟を苦しませたくないエンが懇願した。素直に聞くユーリではなかったが。

「さっさと消えろ。目障りだ」

 最後まで憎まれ口でエンと話し合おうとしない彼に、私の我慢は限界点を突破してしまった。

「アンタって馬鹿じゃないの!?」
「!?」

 私は興奮のあまり身を乗り出した。止めようとする対面の席のマシューを逆に押し戻して、私は覆面を外されているユーリの素顔を睨みつけた。

「解ってんの? アンタこれからマシューさんの黒いナニかに縛り上げられるのよ? 嫌がっても強引に! あっちこっちをね!」
「何かその言い方だと俺、変態みたい……」

 マシューが視界の隅で落ち込んでいた。ユーリも想像してしまったのか一瞬戸惑ったが、すぐに平静を保った。

「苦痛に耐える訓練も受けてきた。拷問など俺には無意味だ」
「耐えてんじゃん! カッコつけてるけどホントは痛いんじゃん!」
「!…………」

 感情が高まってどんどん言葉使いが乱暴になっていく。所々巻き舌になっている気もする。でももう止められない。この分からず屋には丁寧な対応なんてしていられない。

「なんでそこまで首領を庇うのよ!」
「雇い主だからだ」
「戦うあなたを盾にして首領はさっさと逃げたじゃない! 毒を仕込んだどっかの阿保を止めることもできてないじゃない!」
「どっかの阿保……」
「どうせ契約を結ぶなら知性・体力・技能・美しさ・漢気おとこぎの揃った至高の存在とにしなさいよ! 仲間を見捨てて我先に逃げるような奴にね、命を張るのは馬鹿のやることだよ!!」
「……………………」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。

木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。 本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。 しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。 特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。 せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。 そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。 幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。 こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。 ※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)

処理中です...