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大きなうねり(3)
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ユーリは自分の境遇を冷静に受け止めているように見えた。
それはつまり公民館で戦った時、ユーリは死を覚悟していたということだ。そして毒殺されかけた件に関しても彼は動揺していない。
組織とボスに尽くしたというのにあんまりな仕打ち。怒りや悔しさが湧き上がらないのか?
「それでいいの?」
思わず口をついて出てしまった言葉。ユーリは発した私を一瞥したが答えなかった。
「でもあなたは毒を吐き出したよね? 生きようとしたんだよね?」
「……………………」
まただんまりを決め込んだ兄の代わりに、エンが複雑な表情で私に説明した。
「俺達忍びはどんな状況でも生き延びるよう訓練されている。そして生きている限りは雇い主の為に動くようにと」
「その雇い主にユーリさんは毒を盛られたんじゃない! もう彼は要らないって態度で示されたんだよ!?」
本人の前で酷いことを言っている自覚は有る。私はユーリに気づいて欲しかった。くだらない相手の為に命を張る必要は無いと。
ここでユーリが漸く私へ口をきいた。
「俺の雇い主は首領レスター・アークだ。水に毒を仕込んだのはボスの指示ではなく、内通者の独断だろう」
「だから!?」
私は反射的に言い返した。
「首領は毒殺を命じていないからまだ彼に従うの? 生きている限り? 理不尽な任務に就かされても!?」
「そうだ。契約が有効である限り。それが忍びのあるべき姿だ」
「そんなの、人間の生き方じゃないよ……」
優しいマキアが端の席で嘆いた。私も同感だ。
ユーリの目が据わった。
「その通りだ。忍びとは人間ではない。兵器だ」
言い切ったユーリ。マキアは数秒間圧倒されていたが、キッと瞳に強い意志を宿した。
「違う! エンは忍びだけど人間だ! 俺の大切な相棒なんだ!!」
マキア~。よく言ってくれた! 私は心の中で彼に拍手を贈りながら追随した。
「そうだよ。エンは言葉が少なくて誤解されることも有るけど、仲間想いの優しい人だ。優秀な戦士であっても兵器なんかじゃない!」
しかしユーリは冷たく言い放ったのだ。
「だからソイツは忍びの落ちこぼれだったんだ。戦闘技術だけ上がっても心を殺すことができなかった。肝心な所で情に左右されて何度も任務遂行に支障をきたした。いつも俺が尻拭いをしてやったんだよな?」
「……………………」
エンは唇を噛んで目線を下に落としてしまった。
「もうおまえのお守り役は御免なんだよ。俺の前から消えてくれ、エン」
それは残酷な拒絶だった。国を捨ててはるばるこのラグゼリア王国まで、ユーリに会いたい一心で長い旅をしてきたエン。だのにユーリはエンの想いを一刀両断に斬り捨てた。エンが膝の上で握りしめている拳が微かに震えていた。
マシューが自分の隣のユーリを蔑む眼で見た。
「あ~もう、胸糞悪いな。キミがそんな態度を取るなら、こちらとしても優しくしてやれないよ?」
「好きにしたらいい」
「尋問……ハッキリ言って拷問だけどさ、毒を飲んでおけば良かったと思えるほどにキツイよ?」
「死ぬまで責めればいい。俺は何も話さない」
マシューはヤレヤレと肩を揺らし、ルービックが大きな溜め息を吐いた。
「……残念だがこういう結果となった。冒険者ギルドの諸君は馬車を降りてくれ」
師団長は結論を出してしまった。そんな。ここで降りたら聖騎士によるユーリの尋問が始まる。マシューのあのおっかない影の手で、ユーリは身体中を締め上げられるのだろう。窒息死する寸前まで、何度も何度も。
「ユーリ頼む、俺達に協力してくれ!」
義兄弟を苦しませたくないエンが懇願した。素直に聞くユーリではなかったが。
「さっさと消えろ。目障りだ」
最後まで憎まれ口でエンと話し合おうとしない彼に、私の我慢は限界点を突破してしまった。
「アンタって馬鹿じゃないの!?」
「!?」
私は興奮のあまり身を乗り出した。止めようとする対面の席のマシューを逆に押し戻して、私は覆面を外されているユーリの素顔を睨みつけた。
「解ってんの? アンタこれからマシューさんの黒いナニかに縛り上げられるのよ? 嫌がっても強引に! あっちこっちをね!」
「何かその言い方だと俺、変態みたい……」
マシューが視界の隅で落ち込んでいた。ユーリも想像してしまったのか一瞬戸惑ったが、すぐに平静を保った。
「苦痛に耐える訓練も受けてきた。拷問など俺には無意味だ」
「耐えてんじゃん! カッコつけてるけどホントは痛いんじゃん!」
「!…………」
感情が高まってどんどん言葉使いが乱暴になっていく。所々巻き舌になっている気もする。でももう止められない。この分からず屋には丁寧な対応なんてしていられない。
「なんでそこまで首領を庇うのよ!」
「雇い主だからだ」
「戦うあなたを盾にして首領はさっさと逃げたじゃない! 毒を仕込んだどっかの阿保を止めることもできてないじゃない!」
「どっかの阿保……」
「どうせ契約を結ぶなら知性・体力・技能・美しさ・漢気の揃った至高の存在とにしなさいよ! 仲間を見捨てて我先に逃げるような奴にね、命を張るのは馬鹿のやることだよ!!」
「……………………」
それはつまり公民館で戦った時、ユーリは死を覚悟していたということだ。そして毒殺されかけた件に関しても彼は動揺していない。
組織とボスに尽くしたというのにあんまりな仕打ち。怒りや悔しさが湧き上がらないのか?
「それでいいの?」
思わず口をついて出てしまった言葉。ユーリは発した私を一瞥したが答えなかった。
「でもあなたは毒を吐き出したよね? 生きようとしたんだよね?」
「……………………」
まただんまりを決め込んだ兄の代わりに、エンが複雑な表情で私に説明した。
「俺達忍びはどんな状況でも生き延びるよう訓練されている。そして生きている限りは雇い主の為に動くようにと」
「その雇い主にユーリさんは毒を盛られたんじゃない! もう彼は要らないって態度で示されたんだよ!?」
本人の前で酷いことを言っている自覚は有る。私はユーリに気づいて欲しかった。くだらない相手の為に命を張る必要は無いと。
ここでユーリが漸く私へ口をきいた。
「俺の雇い主は首領レスター・アークだ。水に毒を仕込んだのはボスの指示ではなく、内通者の独断だろう」
「だから!?」
私は反射的に言い返した。
「首領は毒殺を命じていないからまだ彼に従うの? 生きている限り? 理不尽な任務に就かされても!?」
「そうだ。契約が有効である限り。それが忍びのあるべき姿だ」
「そんなの、人間の生き方じゃないよ……」
優しいマキアが端の席で嘆いた。私も同感だ。
ユーリの目が据わった。
「その通りだ。忍びとは人間ではない。兵器だ」
言い切ったユーリ。マキアは数秒間圧倒されていたが、キッと瞳に強い意志を宿した。
「違う! エンは忍びだけど人間だ! 俺の大切な相棒なんだ!!」
マキア~。よく言ってくれた! 私は心の中で彼に拍手を贈りながら追随した。
「そうだよ。エンは言葉が少なくて誤解されることも有るけど、仲間想いの優しい人だ。優秀な戦士であっても兵器なんかじゃない!」
しかしユーリは冷たく言い放ったのだ。
「だからソイツは忍びの落ちこぼれだったんだ。戦闘技術だけ上がっても心を殺すことができなかった。肝心な所で情に左右されて何度も任務遂行に支障をきたした。いつも俺が尻拭いをしてやったんだよな?」
「……………………」
エンは唇を噛んで目線を下に落としてしまった。
「もうおまえのお守り役は御免なんだよ。俺の前から消えてくれ、エン」
それは残酷な拒絶だった。国を捨ててはるばるこのラグゼリア王国まで、ユーリに会いたい一心で長い旅をしてきたエン。だのにユーリはエンの想いを一刀両断に斬り捨てた。エンが膝の上で握りしめている拳が微かに震えていた。
マシューが自分の隣のユーリを蔑む眼で見た。
「あ~もう、胸糞悪いな。キミがそんな態度を取るなら、こちらとしても優しくしてやれないよ?」
「好きにしたらいい」
「尋問……ハッキリ言って拷問だけどさ、毒を飲んでおけば良かったと思えるほどにキツイよ?」
「死ぬまで責めればいい。俺は何も話さない」
マシューはヤレヤレと肩を揺らし、ルービックが大きな溜め息を吐いた。
「……残念だがこういう結果となった。冒険者ギルドの諸君は馬車を降りてくれ」
師団長は結論を出してしまった。そんな。ここで降りたら聖騎士によるユーリの尋問が始まる。マシューのあのおっかない影の手で、ユーリは身体中を締め上げられるのだろう。窒息死する寸前まで、何度も何度も。
「ユーリ頼む、俺達に協力してくれ!」
義兄弟を苦しませたくないエンが懇願した。素直に聞くユーリではなかったが。
「さっさと消えろ。目障りだ」
最後まで憎まれ口でエンと話し合おうとしない彼に、私の我慢は限界点を突破してしまった。
「アンタって馬鹿じゃないの!?」
「!?」
私は興奮のあまり身を乗り出した。止めようとする対面の席のマシューを逆に押し戻して、私は覆面を外されているユーリの素顔を睨みつけた。
「解ってんの? アンタこれからマシューさんの黒いナニかに縛り上げられるのよ? 嫌がっても強引に! あっちこっちをね!」
「何かその言い方だと俺、変態みたい……」
マシューが視界の隅で落ち込んでいた。ユーリも想像してしまったのか一瞬戸惑ったが、すぐに平静を保った。
「苦痛に耐える訓練も受けてきた。拷問など俺には無意味だ」
「耐えてんじゃん! カッコつけてるけどホントは痛いんじゃん!」
「!…………」
感情が高まってどんどん言葉使いが乱暴になっていく。所々巻き舌になっている気もする。でももう止められない。この分からず屋には丁寧な対応なんてしていられない。
「なんでそこまで首領を庇うのよ!」
「雇い主だからだ」
「戦うあなたを盾にして首領はさっさと逃げたじゃない! 毒を仕込んだどっかの阿保を止めることもできてないじゃない!」
「どっかの阿保……」
「どうせ契約を結ぶなら知性・体力・技能・美しさ・漢気の揃った至高の存在とにしなさいよ! 仲間を見捨てて我先に逃げるような奴にね、命を張るのは馬鹿のやることだよ!!」
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