ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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それぞれの想い(5)

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☆☆☆

 ゴシゴシゴシ。
 20時、女性兵士テント。支給されたお湯を湿らせたタオルで、念入りに私は身体の汚れを払拭した。この後エンと会う約束が有るからね~。
 いやもう、一週間近くお風呂に入れてない状態だから男連中だって臭い。汚れているのはお互い様だ。それでもやっぱり女としては、人と会う時は少しでも綺麗に身繕いしたいと思ってしまう。
 それとエリアスの時に学んだ。好意を持った異性の体臭はフェロモンになると。私に恋をしているかもしれない(?)エン。きっと彼と私は至近距離で話すことになる。できるだけ体臭を消してから臨まないと。

「ロックウィーナさーん、男のコが呼んでるわよ~」

 来た! 三十路らしき女性兵士がテント入口で私を手招きしていた。もう私の顔は兵士達に覚えられている。成人しているのに男のコ呼ばわりされて、エンは気まずいだろうなと私は苦笑した。

「ロックウィーナってば逢引き!?」
「丁寧に身体をぬぐっていたけど、これから一戦交える感じ? きゃっ♡」
「違──う!」

 ニヤニヤとはやし立てるミラとマリナに強く否定してから、私は服を着てテントの外へ出た。遠くへは行かない約束なので防護ベストまでは身に着けなかった。万が一の敵襲に備えて鞭ホルダーだけは腰に付けたけどね。

「お待たせ」
「!」

 私を迎えに来てくれたエンもラフな服装だった。覆面もベストも無い。私同様にクナイを収納したホルダーを腰に付けていたが。
 何故か驚いた様子のエンであったが、すぐに引き締まった表情になった。

「あちらへ行こう」

 彼に先導されて少し歩き、草の上に並んで腰を降ろした。女性兵士テントからさほど離れていないが、側に隆起した小さな丘のようなものが在り、座ると私達の身体は人目から隠れた。視界が狭くなる夜であるし、すぐ近くまで来ない限り二人の密会は他者に気づかれないだろう。
 落ち着いて話しはできそうだが……。

(う~ん、年下とはいえ男の人と二人きりになるのは緊張するなぁ)

 エンは私をどう思っているのか……それを確かめに来たんだよね? もしも本当に私を好きだという結論が出てしまったら、彼はいったいどうなるのだろう。私はどう受け止めたらいいんだろう?
 私が頭を悩ませているというのに、エンったら隣で呑気な感想を漏らした。

「アンタ、髪を下ろすとだいぶ雰囲気が変わるんだな」

 身体を清めたばかりの私は髪を結っていなかった。さっき彼が驚いた顔をしたのはこのせいか。

「そうなのかな? 今までにも何度か下ろした姿を見せてなかったっけ?」
「見たことはある。でもまだその時は意識して見ていなかった」

 ということは今は意識しちゃってるのか。ヤッベェ。

「はは、エンもターバンが無いと印象違うよね」

 他愛の無い雑談だ。彼の瞳が熱を帯びてさえいなければ。

「……俺はどんな風にいつもと違う?」

 自分がどう見られているか無頓着っぽかった彼が、らしくない質問をしてきた。

「ええと、ターバンしている時はモロ戦士って見た目だけど、外すと普通の……いや普通じゃないね、カッコイイ街のお兄さんって感じ!」

 私としては明るい軽口で緊迫した空気をなごませようとしたのだが、

「俺の容姿はアンタの目に、多少なりとも色男に映っているのか?」

 更に気まずい質問をエンは重ねた。

「あの……充分に整った顔立ちだと思うよ」
「そうか」
「他意は無く客観的に見た上での感想ね!」

 予防線を張った私へ彼は微笑んだ。

「ありがとう。アンタもいい女だ」
「ど、どうも……」
「今の姿はとても女戦士に見えない。何処に出しても恥ずかしくない綺麗なねえさんだ」

 それは褒め過ぎだ。すっぴんだし、身内の欲目が多分に入っていると思われる。解っているのに私は照れてしまう。
 少し下げた私の顔へエンの腕が伸びてきて、指先で髪の毛をなぞられた。

「………………!」

 失敗した。濡れていても髪はキッチリ結って、色気の無い防護ベストを着てくるべきだった。
 恋人同士のいい雰囲気が生まれつつあるよ。マズイかも。

「ひゃっ!?」

 髪の毛から頬の曲線へ、エンの指がスムーズにお引っ越しを果たした。青年の若い指が私の頬の弾力を確かめる。

「……柔らかいな」
「コラ、それは駄目でしょーよ!!」

 払いけようとした私の手をエンの手が握った。

「どうして?」

 えええ? そう返されるとは思わなかった。駄目だったら駄目なんじゃい。

「どうしてって……私達は恋人同士じゃないし」
「恋人になればいい」

 ほ、ほえぇぇ!? 何言ってんのこのコ!! するっと凄い発言をしたよ!

「待ってよ、あなたは心が混乱していて、それが何なのかを確かめたかったんでしょう? 結論を出す前に手を出すなんていけないよ!」
「答えは出ている」
「えっ」

 エンの瞳が真正面から私を捉えた。

「俺はアンタに恋をしている。それをもう自覚している」
「!………………」
「最近の俺は一日中アンタのことばかり考えてしまう。アンタに他の男が近付くことが面白くない。他の誰でもなく、俺を見て頼って欲しいと思う。……魅了の技や術は使ってないんだよな?」
「それは……うん。そもそもそんな技知らないし」
「ならばこの想いは、恋としてしか説明がつかない」
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