ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
216 / 291

ヤンデレ集団Bチーム(2)

しおりを挟む
「……いい女だな」

 サティーの背中を名残惜しそうに眺めるユーリ。アンタの好みの顔だと思ったよ。

「ええっ、ちょっとユアン、サティーは人妻だからね! 変な気を起こさないでよ!?」

 過剰に反応したマシューを見て私は「おや?」と思った。

「安心しろ、そのくらいはわきまえている」
「ならいいけどさ……、あ、そうだロックウィーナ、俺達タメなんだから付けも敬語も要《い》らないからね!」

 明らかにマシューはイライラしていた。魔王のこと以外では滅多に感情を動かさないソルが苦言を呈した。

「くだらんことを言い合ってないでさっさとミッションを開始するぞ。まずはあそこの宿屋からだ」

 言うと同時にソルは、傾いた看板を雑に直した木賃宿へ足を向けた。パタパタとかすかに羽音らしきものがした。保護色になった次男猫がソルの近くを飛んでいるんだな。私達も後を追った。


「知らねぇ」

 最近泊まった客の中で怪しい動きをしている者は居ないか? その問いに対する店主の答えは四文字だった。

「もう少し考えてみてくれないかな? 些細なことでもいいから思い出したことは無い?」

 キースが営業スマイルを顔に貼り付けて再度尋ねたが、店主の返答は同じだった。

「知らねぇ」

 ただし今度は右手の平を上にして突き出してきた。ああ、これは情報料を払えというジェスチャーだ。
 下手な真似はやめておきなさい、今アンタが話している元僧侶さんは仲間の中で一番優しそうに見えるけど、実は一番おっかない人だから。

「くっそ面倒くさいな。痛めつけて吐かせるか」

 お金持ちの貴族マシューが物騒なことを言った。払える小銭ジャラジャラなくせに。まだイライラしている模様。

「そうだね。手っ取り早く済ませよう」

 キースがおもむろに自身の前髪を掻き上げた。ソルとユーリが「あ」と漏らした。
 店主はというと、この後の悪夢も知らずにキースの顔を好色そうに眺めた。

「へ、兄ちゃんキレーな顔してるじゃねぇか。これなら女じゃなくても値段がつ………………大好きィィィィ!!!!!!」

 絶叫してカウンターを飛び越えてきた店主をキースはヒラリとかわした。そして前髪を下ろした後、床に転がった店主を靴を履いた足で踏み付けた。

「はきゅんっ♡」

 心底気色悪い声を上げて店主はよろこんだ。うへぇ。

「この宿に怪しい滞在人は居るのか?」

 店主を踏み踏みしながらキースが改めて聞いた。

「は、はひぃっ。三日前から四人の新顔が宿泊中ですうっ」
「どんな所を怪しいと思った?」
「服装っ、アイツらモヒカンヘッドで……鼻ピ舌ピで……おまけにボンデージルックなんです!!」

 あー、アンダー・ドラゴンの下っ端構成員に間違いないわ。

「ねぇユアン、どうしてアンドラの人は棘の付いた肩当てや胸の前で交差するベルトが好きなの?」
「それについては俺も組織加入した時から謎なんだ。しっかしキースさんは相変わらずえげつないな」
「ちょっと、何でみんな落ち着いてるんだよ? 店主のアレはどうなってんだ、キースさん何したん!?」

 魅了初見のマシューが独りで慌てていた。キース自らが説明した。

「僕にはね、瞳の魔力で見つめた相手を魅了する力が有るんだよ。悪用されないように冒険者ギルドの外には秘密にしていたんだけど、世界の危機なんだからもうそんなこと言っていられないよね。……店主、怪しい客の泊まっている部屋は?」
「三階の302号室と305号室ですぅ!」

 目的地が定まったので私達は宿屋の階段へ向かった。視界の隅で店主が「もっとぉ」と言って床で身体をくねらせていた。
 マキアも魅了された時はキースに踏まれて服従を誓いたくなったと話していたなぁ。彼の健全なる将来の為に絶対止めようと思った。


 きしむ階段を登って三階へ着いた。壁のそこかしこが色褪いろあせて模様みたいになっている。この安宿にはそろそろ修繕が必要と見た。

「302と305だったな。どちらかに踏み込んでいる間にもう一方に逃げられたら面倒だ。二手に別れるぞ」
「だな。俺はソルさんと行くよ」

 ユーリがさっさとソルと組んで302号室へ向かったので、残った私達がもう一組となった。

「さぁて、悪党は在室かな~」

 マシューが305号室のドアノブに手をかけてそっと回した。鍵がかかっている。私の蹴り一発で簡単にぶち破れそうなボロ扉だが、宿屋の設備を破壊するのは気が引けた。
 廊下の先の302号室にも鍵がかかっていたようだが、ユーリが細いピンを取り出して鍵穴に差し込んでいるのが見えた。ピッキングだ。

「こっちもユアンに開けてもらう?」
「いや大丈夫。我がしもべよ、開錠せよ」

 マシューが静かに呟くと例の黒い手がにゅっと出現し、扉をすり抜けて向こう側へ行った。それからカチャンという音。闇のお手々が鍵を開けてくれたようだ。

「んじゃ行くよ。キースさん、いつでもロックウィーナを護れるようにバリアの準備しといてね」
「もちろん」

 キースが頷いたのを確認してからマシューは扉を開けた。

「……うわぁ」

 部屋の中には甘ったるい香りが充満していた。おそらくは麻薬だ。
 ツインの部屋、二つの乱れたベッド。麻薬を混ぜたパイプタバコをふかして恍惚の表情を浮かべている二人の男。部屋の隅にはうずくまる全裸の女が二人。
 女達は派手な髪型や化粧から推測して呼ばれた娼婦なのだろう。しかし彼女達の今回の仕事はキツイものになってしまった。男達から乱暴に扱われたようで、顔にも身体にもいくつも痣ができていた。
 まだ契約時間内なのか、それとも何らかの事情で仕事の後に解放してもらえなかったのか、娼婦二人が寄り添って震えているその姿は痛々しかった。
 今の世界は本当に、鈴音が書いた物語から飛び出した新世界なんだな。エリアスやエンと目が合うだけで赤面する純朴な少女が、こんな生々しい性欲と暴力場面を小説に挿し込むとは思えない。
 私の結婚と出産が、エピローグでのみサラッと語られたことにも合点がてんがいった。鈴音には書けなかったのだ。そのものズバリのシーンが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜

いろは
恋愛
20歳ラノベ好きの喪女の春香。いつもの週末の様にラノベを深夜まで読み寝落ちし目覚めたら森の中に。よく読むラノベの様な異世界に転移した。 突然狼に襲われ助けてくれたのは赤髪の超男前。 この男性は公爵家嫡男で公爵家に保護してもらい帰り方を探す事に。 転移した先は女神の嫉妬により男しか生まれない国。どうやら異世界から来た春香は”迷い人”と呼ばれこの国の王子が探しているらしい。”迷い人”である事を隠し困惑しながらも順応しようと奮闘する物語。 ※”小説家になろう”で書いた話を改編・追記しました。あちらでは完結しています。よければ覗いてみて下さい

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...