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ヤンデレ集団Bチーム(3)
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「ああん、にゃんだぁテメェらぁ」
「おお? 何でそこに居るんだぁ? 鍵かけてなかったっけかぁ?」
男達が呂律の回っていない口調で、勝手に部屋へ入り込んだ私達を咎めた。鍵を開けた闇の手を見ていなかったようだ。
マシューは男達を睨みつけながら背後の私に言った。
「碌に戦闘力の無い三下みたいだ。俺一人でやれるからさ、ロックウィーナとキースさんは先に宿屋を出ていなよ」
「……いえ。女性を保護しないと」
「そっか。じゃあ頼む」
床に散らばる女物の衣服を拾って私は彼女達に近付いた。
「おい、にゃに勝手なことしてんだよぉ、おまえはっ!」
「ヘハハ、ねーちゃん、おみゃーも俺らとヤリてぇのかぁ? 地味な顔して好きモンだなぁ」
ラリッている屑の一人がベッドから降りて私へ手を伸ばした。私は自らキースの防御障壁の範囲から出て、男の脛へ下段蹴りを叩き込んだ。
「ぎっ!?」
たぶん脛骨にヒビが入った。通常ならのたうち回るレベルの激痛なのだが、麻薬で感覚が鈍っている男は片膝を床に付けただけだった。
「にゃにしやがる、クソ女がぁっ!」
「あーうるさい」
「ぐごっ」
いつの間にか腰の剣を抜いていたマシューが、男の口の中へ切っ先を突き刺していた。
眼前で展開された突然の殺人行為。固まった私をキースが腕を引っ張って下がらせた。
「マシュー! もう少しロックウィーナを気遣え!!」
キースが怒鳴りつけると同時に、マシューは無表情で男の口から剣を引き抜いた。ぶしゅっと噴き出した大量の血がベッドと床を瞬時に赤くペイントした。
「キャアァァァァッ!!!!」
「イヤアァァ────!!」
女達が空気を震わせる甲高い悲鳴を上げた。我に返った私は、持っていた衣服を咄嗟に彼女達の頭から被せて視界を塞いだ。
「ま、マシュー……、まだアンドラの構成員だと判別する前に処分を下すのはマズイよ」
私の抗議をマシューは軽くいなした。
「禁止薬物の使用、婦女子への暴行で罪は確定でしょ? 犯罪者を取り締まる王国兵団は人手不足。犯罪者を牢に入れてしばらく世話するよりも、死体処理の方が兵士も楽なはずだよ」
「それは……でも」
「もう……。だから先に宿屋を出ていろって言ったのにさ」
面倒臭そうにマシューは剣を振った。その先には仲間が殺されて茫然としていたもう一人の男が居た。
切っ先が今度は首へ。
「見るな」
キースが抱きしめたので私は最後まで見なかったが、きっとあの男は頭と胴体が分断された。
キースの腕の中で私の身体も娼婦達同様に震えた。
生臭い血の匂い。すすり泣く娼婦の声。
「出よう、ロックウィーナ」
キースが私を部屋から押し出そうとしたが、私は踏み留まった。
「女性達を……せめて廊下に出してあげないと」
「…………そうだね」
私は娼婦の元へ行き、できるだけ優しく彼女達の肩を擦った。
「立てますか? 一緒に部屋を出ましょう」
「う……ああ……」
一人はふらつきながらも立ち上がったが、もう一人は完全に腰が抜けてしまっていた。私は彼女を背負って部屋を出た。
廊下の壁に寄りかからせるように娼婦二人を座らせて、着るのは無理そうだったので衣服をブランケットみたいに肌の上に掛けた。
そこへ302号室から出てきたユーリとソルが合流した。
「……そっちも似たような感じだったか。ロックウィーナ、すまないがあっちの部屋に居る女も避難させてやってくれないか? 酷い目に遭わされたようでさ、男の俺達に怯えてるんだよ」
「了解」
「ロックウィーナ、無理はするなよ」
「大丈夫ですキース先輩」
私はすぐに302号室へ向かった。似たような感じ……ということは、こちらの部屋に泊まっていた奴らも犯罪者で、娼婦を呼んでいたのか。
マシューのようにユーリとソルも……?
恐る恐る中を覗くと、やはり部屋の隅には泣いている二人の女性。そして二つのベッドの上にはそれぞれ一体ずつ男らしき死体が在った。
「………………」
仕方が無い処置なんだよね、きっと。アンダー・ドラゴンは死刑が順当な重犯罪者の集団。生かしておいても更生できる者は少ないだろう。組織に属していながら、首領の護衛だけに徹していたユーリが異質なんだ。
ただ私達が居た305号室と違って302号室は血で汚れていなかった。死体の上には布団まで掛けられていた。布団からはみ出てベッドの横へダランと垂れたタトゥーの入った腕、それがここに男の死体が在るのだと語っていた。
「あなた達を保護しに来ました。部屋を出ましょう」
この部屋の娼婦達の肌にも痣が浮き出ていた。彼女達は女である私には心を許してくれて縋り付いてきた。やるせない気持ちになった。
☆☆☆
数十分もすると、怯えていた娼婦達も魅了にかかった店主もだいぶ落ち着きを取り戻した。
身繕いを私が手伝って、娼婦達は近所に在る彼女達が所属している店へ帰した。死んだ男達が所持していた財布の中身を全て、ユーリが娼婦達へ渡していた。
宿屋の店主にはマシューが状況の説明をした。部屋を汚されたと店主は怒ったが、迷惑料としてマシューが幾ばくかのお金を支払ったら上機嫌になった。治安の悪い地区で店を構えているだけあって、トラブル自体には慣れっこなんだな。
私達も宿屋を出た。二、三度深呼吸をして肺に外の空気を送り込む。路上喫煙している馬鹿が居るから綺麗な空気とまではいかないが、あの血塗れの部屋より余程マシだ。
王国兵団詰所へ報告、そして死体の引き取りを依頼しに行こうとなった時にキースが私へ言った。
「ロックウィーナ、僕達から少し離れて歩いて、マシューと話してみてくれないかな?」
ユーリも同調した。
「それがいいな。305号室の惨状は中隊長の仕業らしいからな」
うん。マシューの精神状態はヤバイと思う。カウンセリングが必要だとも。
「おお? 何でそこに居るんだぁ? 鍵かけてなかったっけかぁ?」
男達が呂律の回っていない口調で、勝手に部屋へ入り込んだ私達を咎めた。鍵を開けた闇の手を見ていなかったようだ。
マシューは男達を睨みつけながら背後の私に言った。
「碌に戦闘力の無い三下みたいだ。俺一人でやれるからさ、ロックウィーナとキースさんは先に宿屋を出ていなよ」
「……いえ。女性を保護しないと」
「そっか。じゃあ頼む」
床に散らばる女物の衣服を拾って私は彼女達に近付いた。
「おい、にゃに勝手なことしてんだよぉ、おまえはっ!」
「ヘハハ、ねーちゃん、おみゃーも俺らとヤリてぇのかぁ? 地味な顔して好きモンだなぁ」
ラリッている屑の一人がベッドから降りて私へ手を伸ばした。私は自らキースの防御障壁の範囲から出て、男の脛へ下段蹴りを叩き込んだ。
「ぎっ!?」
たぶん脛骨にヒビが入った。通常ならのたうち回るレベルの激痛なのだが、麻薬で感覚が鈍っている男は片膝を床に付けただけだった。
「にゃにしやがる、クソ女がぁっ!」
「あーうるさい」
「ぐごっ」
いつの間にか腰の剣を抜いていたマシューが、男の口の中へ切っ先を突き刺していた。
眼前で展開された突然の殺人行為。固まった私をキースが腕を引っ張って下がらせた。
「マシュー! もう少しロックウィーナを気遣え!!」
キースが怒鳴りつけると同時に、マシューは無表情で男の口から剣を引き抜いた。ぶしゅっと噴き出した大量の血がベッドと床を瞬時に赤くペイントした。
「キャアァァァァッ!!!!」
「イヤアァァ────!!」
女達が空気を震わせる甲高い悲鳴を上げた。我に返った私は、持っていた衣服を咄嗟に彼女達の頭から被せて視界を塞いだ。
「ま、マシュー……、まだアンドラの構成員だと判別する前に処分を下すのはマズイよ」
私の抗議をマシューは軽くいなした。
「禁止薬物の使用、婦女子への暴行で罪は確定でしょ? 犯罪者を取り締まる王国兵団は人手不足。犯罪者を牢に入れてしばらく世話するよりも、死体処理の方が兵士も楽なはずだよ」
「それは……でも」
「もう……。だから先に宿屋を出ていろって言ったのにさ」
面倒臭そうにマシューは剣を振った。その先には仲間が殺されて茫然としていたもう一人の男が居た。
切っ先が今度は首へ。
「見るな」
キースが抱きしめたので私は最後まで見なかったが、きっとあの男は頭と胴体が分断された。
キースの腕の中で私の身体も娼婦達同様に震えた。
生臭い血の匂い。すすり泣く娼婦の声。
「出よう、ロックウィーナ」
キースが私を部屋から押し出そうとしたが、私は踏み留まった。
「女性達を……せめて廊下に出してあげないと」
「…………そうだね」
私は娼婦の元へ行き、できるだけ優しく彼女達の肩を擦った。
「立てますか? 一緒に部屋を出ましょう」
「う……ああ……」
一人はふらつきながらも立ち上がったが、もう一人は完全に腰が抜けてしまっていた。私は彼女を背負って部屋を出た。
廊下の壁に寄りかからせるように娼婦二人を座らせて、着るのは無理そうだったので衣服をブランケットみたいに肌の上に掛けた。
そこへ302号室から出てきたユーリとソルが合流した。
「……そっちも似たような感じだったか。ロックウィーナ、すまないがあっちの部屋に居る女も避難させてやってくれないか? 酷い目に遭わされたようでさ、男の俺達に怯えてるんだよ」
「了解」
「ロックウィーナ、無理はするなよ」
「大丈夫ですキース先輩」
私はすぐに302号室へ向かった。似たような感じ……ということは、こちらの部屋に泊まっていた奴らも犯罪者で、娼婦を呼んでいたのか。
マシューのようにユーリとソルも……?
恐る恐る中を覗くと、やはり部屋の隅には泣いている二人の女性。そして二つのベッドの上にはそれぞれ一体ずつ男らしき死体が在った。
「………………」
仕方が無い処置なんだよね、きっと。アンダー・ドラゴンは死刑が順当な重犯罪者の集団。生かしておいても更生できる者は少ないだろう。組織に属していながら、首領の護衛だけに徹していたユーリが異質なんだ。
ただ私達が居た305号室と違って302号室は血で汚れていなかった。死体の上には布団まで掛けられていた。布団からはみ出てベッドの横へダランと垂れたタトゥーの入った腕、それがここに男の死体が在るのだと語っていた。
「あなた達を保護しに来ました。部屋を出ましょう」
この部屋の娼婦達の肌にも痣が浮き出ていた。彼女達は女である私には心を許してくれて縋り付いてきた。やるせない気持ちになった。
☆☆☆
数十分もすると、怯えていた娼婦達も魅了にかかった店主もだいぶ落ち着きを取り戻した。
身繕いを私が手伝って、娼婦達は近所に在る彼女達が所属している店へ帰した。死んだ男達が所持していた財布の中身を全て、ユーリが娼婦達へ渡していた。
宿屋の店主にはマシューが状況の説明をした。部屋を汚されたと店主は怒ったが、迷惑料としてマシューが幾ばくかのお金を支払ったら上機嫌になった。治安の悪い地区で店を構えているだけあって、トラブル自体には慣れっこなんだな。
私達も宿屋を出た。二、三度深呼吸をして肺に外の空気を送り込む。路上喫煙している馬鹿が居るから綺麗な空気とまではいかないが、あの血塗れの部屋より余程マシだ。
王国兵団詰所へ報告、そして死体の引き取りを依頼しに行こうとなった時にキースが私へ言った。
「ロックウィーナ、僕達から少し離れて歩いて、マシューと話してみてくれないかな?」
ユーリも同調した。
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