ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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ヤンデレ集団Bチーム(4)

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「話すのは構わないけど……何故に私?」
「おまえが適任だ。おまえには緊張感の無いホワホワした雰囲気が有る。私達では頭越しに批判して死闘になりかねん」

 まさかのソルにまで後押しされた。ホワホワって何だ。でも男同士で話し合うと喧嘩を飛び越えて死闘にまで発展するのか。そりゃ~私が一肌脱がないとなぁ。

「頼んだぞ」

 ソル、ユーリ、キースは私に丸投げしてスタスタ歩き出した。こら。
 残ったのは私と、気まずそうに笑うマシューだけだった。

「ごめんね」

 マシューが取り敢えず謝ってきた。私はきっと微妙な表情で彼を見ていた。
 彼に対して別に怒りは無い。生死問わず、アンダー・ドラゴンの構成員を無力化するのが私達の目的だ。マシューはミッションを遂行しただけ。
 ……でも雑な方法で人をあやめた彼には深い闇を感じてしまう。
 どう接したらいいのか判らない。踏み込むべきなのか、距離を置くべきなのか。上官であるルービックもマシューの扱いには困っていたからなぁ。

「……悪いと思ってないでしょう?」

 謝罪の言葉に感情が込められていなかったので確認した。
 私とマシューは、先に行った仲間達から十メートルくらい遅れて歩いている。

「まーね。重犯罪者に対する適切な処置だと俺は思っているよ。でもキミの目の前でやるべきではなかったってことだろうね」

 キースが「ロックウィーナを気遣え」って怒鳴ったから、マシューはその点だけが悪いと考えていた。
 実際問題としてスプラッターな光景を強制視聴させられて気分が悪い。食欲が減退して今日の昼食はパスしたい気分。だけど問題はそれだけじゃない。

「私よりも、部屋の中に居た女性達を思いるべきだったね。彼女達の肌を見たでしょう? 男達に散々いたぶられたんだと思う」
「だから仇を取ってやったんじゃないか」
「それで彼女達は喜んだ?」
「………………」

 娼婦が上げた悲痛な叫び声を思い出したのか、マシューは神妙な面持ちになった。

「あの女性達はねマシュー、男の暴力によって既に傷付いている状態だったんだよ。そこへ別の男による、更に凄まじい暴力シーンが展開されたらどうなるかな?」

 解りやすく説明しようとしてつい、幼子をさとすようなゆっくり口調になってしまった。しかしマシューは馬鹿にされたと怒らず、静かに笑ったのだった。

「……今の言い方、昔のサティーにそっくりだな」

 サティーさんか。

「あなたの剣の先生だったんだよね?」
「と言うより人生の先生だな」
「人生……。そんなに深い部分に関わる先生だったの?」
「うん。子供の頃の俺はさ、エディオン家にらない男だったんだよ」
「え…………」

 マシューは目を細めてが真上に移動した空を見上げた。

「武門の家系の三男坊。俺とエリアスさんは出自こそ似ているけれど、幼少期での周囲の扱いがまるで違うんだ。エリアスさんは兄弟の中でも一番強くて、幼い頃から一族期待の存在だったそうだね。以前魔王様から聞いたよ。対して俺は背ばっかり高いヒョロガリの虚弱体質だった」

 そうだったんだ……。もしかしてなかなか肉が付かない体質? だからいっぱい食べているのかな?

「弱い奴はエディオンにらないって、俺は親兄弟から言われて育ったんだ。家庭教師だけ付けて放っておかれたから友達も作れなかった。俺の闇魔法の黒い手はさ、誰かに構って欲しいという願望から生まれたんだろうね。もっとも家族に魔法を発現させて見せたら、気味が悪いって余計に避けられる羽目になったけど」

 昔のマシューは殻に閉じ籠る青年だったとルービックが言っていた。そんな過去が有ったとしたら心を閉ざしても不思議はない。

「でもってエディオン一族の男はね、十六歳から最低五年間は王国兵団に所属しないと、一人前の大人として認めてもらえないんだよ。入団するのは正直言って嫌だったし怖かった。父に反発する気概も家出する根性も無かったけれど……」

 マシューが自嘲した。

「悩んでいた十四の終わりにさ、近親者の中で唯一俺に良くしてくれる叔父に相談したんだよ。そうしたら叔父は当時の厳しいだけの剣術指南の先生を解雇して、代わりに知り合いの騎士を俺に付けてくれたんだ」
「それがサティーさん?」
「そ。女性騎士だってことで兄から笑われたけど、男の先生が付いていた頃の俺は萎縮しっ放しだったから、温かい雰囲気のサティーで良かったんだよ」

 柔らかく顔をほころばせるマシュー。彼はもしかして……。

「人付き合いしてこなかった俺はいろんな面で非常識でさ、よくサティーにしかられたよ。さっきのロックウィーナみたいにね」

 笑顔を向けてきたマシューを見て私の胸が痛んだ。
 マシューはつらい恋をしているんじゃないかと、以前馬車の中で話した時に感じていた。私の勘は当たっていたようだ。
 そしてマシューが恋する相手とはあのサティーなのだろう。
 孤独だったマシューに親身に接してくれて、……そして後に叔父さんの伴侶となった女性。

「サティーに鍛えられて俺は弱い少年ではなくなった。陰気な性格はそのままだったから、兵団に入った後は貴族の先輩にすぐ目を付けられちゃって、可愛がりと言う名のイジメに遭ったけれどさ、やり返せるくらいには強くなったんだよ?」
「軍隊は上下関係が厳しい所なんでしょう? やり返して問題にならなかったの?」
「なった。余計にチクチクやられた。でも俺は騎士の試験に受かったし、魔法を使えたので聖騎士に選出されたんだ。そうしたら聖騎士の先輩達がさりげなく俺を護ってくれるようになった。聖騎士は数が少ないから結束力が強いんだよ。みんな早期出世で高官だしね」
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