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ヤンデレ集団Bチーム(5)
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「マシューも百人の部下を従える中隊長だもんね。お家の評価も変わったんじゃない?」
マシューの実力を認めて家族仲が改善されていたら良いのに。私はそう思ったのだが、それは楽観的観測だったようだ。
「変わった変わった。両親は俺を将来の騎士団長にする夢に取り憑かれて手のひら返し。嫡男みたいに大切に扱われるようになったよ。兄達は面白くないだろうけど、今の俺を害したら一族中から非難されるからね、表向きは友好的に接してくるようになった」
「そうなんだ……」
「エディオン家の誇りがどうとか耳にタコができるほど聞かされてきたけど、あの人達の誇りは薄っぺらいものだったんだ」
虚しさと憤り。それがマシューの心を蝕んだ。
「エディオン家でまともな感性を持った人間は、叔父さんとサティーだけだよ。他は屑ばっかり。俺も含めてね」
マシュー自身も己の精神状態が危ういと感じているのだろう、だから彼は無理に明るく振る舞っているんだ。
そして共感して欲しくて、自分と同じく傷付いた心の持ち主を求めてしまう。ルパートだったり、キースだったり。
「ねぇマシュー、あなたが今日イライラしていたのは、サティーさんに会ったからなの?」
「!………………」
マシューはフッと息を吐いた。
「俺がイライラしていたの、バレてた?」
「バレバレ」
手の届かない存在となった憧れの女性。甥に徹しようとマシューは決めたようだが、そう簡単に恋心は消えるもんじゃない。
マシューがこれまで付き合ってきた女のコは、たぶんサティーを忘れる為に彼女とは真逆なタイプ。そこを駄目出しされたら気が滅入って当然だろう。
「……もしかして、俺がサティーに惚れてるってのも、バレてる?」
自分で言っちゃった。
「うん。これだけ長く熱く語られたら鈍い私でも気づくよ」
「うわ」
「会話に参加していない他のみんなはまだ知らないんじゃないかな?」
「まいったな」
言葉とは裏腹にマシューは晴れやかな表情だった。心の秘め事を暴露して少しスッキリしたのかもしれない。
「今日俺が言ったこと、サティーにも他のみんなにも内緒ね?」
「もちろん」
「信用するからな。約束破ったらコレだぞ」
マシューは右手中指で私の額を弾いた。
「痛っ! 地味に痛かった! 今やったら意味無いでしょーが!!」
「ハハハッ」
マシューの右手は次に私の頭をクシャクシャと撫ぜた。
「やめれ~馬鹿、髪が乱れる」
「ハハハハ。こんなやり取り、サティーとも先輩達ともできなかったな」
そりゃ目上の人にデコピンはかませられないだろう。頭を撫ぜ撫ぜも。
「……ごめんね」
「ん?」
「イライラして、俺は乱暴に物事を片付けようとした。ロックウィーナに怖い思いをさせちゃったね。あの女性達にも」
今度のは取り敢えずではなく、本気の謝罪に思えた。
「解ってくれたならそれでいいよ」
「お詫びにランチ奢らせて。あ、ディナーの方が落ち着いて話せるかな」
「デートみたいなことをすると、後々面倒なことになるからいい」
絶対にルパートとキースにしつこく追及されて、自分を棚に上げるアルクナイトからはしかられて、エリアスが芝居がかった演技で嘆いて、エンは闇討ちの準備をする。
「でもそれじゃ俺の気が収まらないよ。悪いことをしてしまったと今は思っているんだ」
「だったら今日の午後、時間が空いていたら訓練に付き合ってよ」
「喜んで! 決まりだ!」
私達は軽く笑い合ってから、軽くなった足取りで前を行く仲間達を追った。
☆☆☆
13時20分。冒険者ギルド訓練場。
街の外へ出た他のチームがまだ帰ってこないので、私達Bチームは自由時間となった。約束通りマシューと訓練場へ向かったところ、手持ち無沙汰な他のメンバーも付いてきた。
「ロックウィーナ、キミ、接近戦は鬼強だね……」
武器を使用せずに徒手での模擬戦。マシューは私の動きについてこられず膝を折った。
「食堂であんなに食べるからだよ。お腹が重いんでしょう?」
「それを差し引いてもさ……。こんなに反応速度がいい戦士は男の中にもそうそう居ないよ? ……うっ、横っ腹がいてぇ」
完全に息が上がってしまったマシューの横からユーリが進み出た。
「ロックウィーナ、次は俺とやろう」
「いや、そいつは接近戦はもう充分に強い。リーチの長い武器の熟練度を上げるべきだ」
キースと一緒に並んでスクワットをするソルがアドバイスしてきた。騎士であるソルはともかくとして、魔術師のキースが意外な数のスクワットをこなしていて驚いた。
「キース先輩って……服の下、実はマッチョさんですか?」
「ふふ、ロックウィーナ、二人きりの時なら脱いで見せてあげるよ」
「ぎゃあっ、先輩たら魔王の悪い影響を受けてますよ!」
「おいコラ、我が王の悪口はよせ」
「そうだソル! 側近ならアルクナイトのあの破廉恥な服装を止めてよ。あなただって、大切な王のお乳が出るか出ないか気が気でないでしょう!?」
「そ、それは……グフッ」
動揺したソルは呼吸を乱して激しくむせた。魔王とエロネタには純情な彼であった。姿を現した次男猫がソルの背中を擦っている。真面目なだけではなく優しい猫にゃんだ。
「え~、いいじゃないか、俺は好きだぞあの服装。ラッキースケベ要素が満載で」
「き、貴様ユーリ、ケホッ、忍者ならもっと忍ばんか! ゲホカハッ」
「アンダー・ドラゴンの件が片付くまではユアンと呼んでな。それにしてもキースさん、ロックウィーナの言う通りなかなかの筋力だな。それとは関係無いけど、スクワットでキツそうに歪める顔がけっこうそそるな」
「カフッ」
キースもむせた。
マシューの実力を認めて家族仲が改善されていたら良いのに。私はそう思ったのだが、それは楽観的観測だったようだ。
「変わった変わった。両親は俺を将来の騎士団長にする夢に取り憑かれて手のひら返し。嫡男みたいに大切に扱われるようになったよ。兄達は面白くないだろうけど、今の俺を害したら一族中から非難されるからね、表向きは友好的に接してくるようになった」
「そうなんだ……」
「エディオン家の誇りがどうとか耳にタコができるほど聞かされてきたけど、あの人達の誇りは薄っぺらいものだったんだ」
虚しさと憤り。それがマシューの心を蝕んだ。
「エディオン家でまともな感性を持った人間は、叔父さんとサティーだけだよ。他は屑ばっかり。俺も含めてね」
マシュー自身も己の精神状態が危ういと感じているのだろう、だから彼は無理に明るく振る舞っているんだ。
そして共感して欲しくて、自分と同じく傷付いた心の持ち主を求めてしまう。ルパートだったり、キースだったり。
「ねぇマシュー、あなたが今日イライラしていたのは、サティーさんに会ったからなの?」
「!………………」
マシューはフッと息を吐いた。
「俺がイライラしていたの、バレてた?」
「バレバレ」
手の届かない存在となった憧れの女性。甥に徹しようとマシューは決めたようだが、そう簡単に恋心は消えるもんじゃない。
マシューがこれまで付き合ってきた女のコは、たぶんサティーを忘れる為に彼女とは真逆なタイプ。そこを駄目出しされたら気が滅入って当然だろう。
「……もしかして、俺がサティーに惚れてるってのも、バレてる?」
自分で言っちゃった。
「うん。これだけ長く熱く語られたら鈍い私でも気づくよ」
「うわ」
「会話に参加していない他のみんなはまだ知らないんじゃないかな?」
「まいったな」
言葉とは裏腹にマシューは晴れやかな表情だった。心の秘め事を暴露して少しスッキリしたのかもしれない。
「今日俺が言ったこと、サティーにも他のみんなにも内緒ね?」
「もちろん」
「信用するからな。約束破ったらコレだぞ」
マシューは右手中指で私の額を弾いた。
「痛っ! 地味に痛かった! 今やったら意味無いでしょーが!!」
「ハハハッ」
マシューの右手は次に私の頭をクシャクシャと撫ぜた。
「やめれ~馬鹿、髪が乱れる」
「ハハハハ。こんなやり取り、サティーとも先輩達ともできなかったな」
そりゃ目上の人にデコピンはかませられないだろう。頭を撫ぜ撫ぜも。
「……ごめんね」
「ん?」
「イライラして、俺は乱暴に物事を片付けようとした。ロックウィーナに怖い思いをさせちゃったね。あの女性達にも」
今度のは取り敢えずではなく、本気の謝罪に思えた。
「解ってくれたならそれでいいよ」
「お詫びにランチ奢らせて。あ、ディナーの方が落ち着いて話せるかな」
「デートみたいなことをすると、後々面倒なことになるからいい」
絶対にルパートとキースにしつこく追及されて、自分を棚に上げるアルクナイトからはしかられて、エリアスが芝居がかった演技で嘆いて、エンは闇討ちの準備をする。
「でもそれじゃ俺の気が収まらないよ。悪いことをしてしまったと今は思っているんだ」
「だったら今日の午後、時間が空いていたら訓練に付き合ってよ」
「喜んで! 決まりだ!」
私達は軽く笑い合ってから、軽くなった足取りで前を行く仲間達を追った。
☆☆☆
13時20分。冒険者ギルド訓練場。
街の外へ出た他のチームがまだ帰ってこないので、私達Bチームは自由時間となった。約束通りマシューと訓練場へ向かったところ、手持ち無沙汰な他のメンバーも付いてきた。
「ロックウィーナ、キミ、接近戦は鬼強だね……」
武器を使用せずに徒手での模擬戦。マシューは私の動きについてこられず膝を折った。
「食堂であんなに食べるからだよ。お腹が重いんでしょう?」
「それを差し引いてもさ……。こんなに反応速度がいい戦士は男の中にもそうそう居ないよ? ……うっ、横っ腹がいてぇ」
完全に息が上がってしまったマシューの横からユーリが進み出た。
「ロックウィーナ、次は俺とやろう」
「いや、そいつは接近戦はもう充分に強い。リーチの長い武器の熟練度を上げるべきだ」
キースと一緒に並んでスクワットをするソルがアドバイスしてきた。騎士であるソルはともかくとして、魔術師のキースが意外な数のスクワットをこなしていて驚いた。
「キース先輩って……服の下、実はマッチョさんですか?」
「ふふ、ロックウィーナ、二人きりの時なら脱いで見せてあげるよ」
「ぎゃあっ、先輩たら魔王の悪い影響を受けてますよ!」
「おいコラ、我が王の悪口はよせ」
「そうだソル! 側近ならアルクナイトのあの破廉恥な服装を止めてよ。あなただって、大切な王のお乳が出るか出ないか気が気でないでしょう!?」
「そ、それは……グフッ」
動揺したソルは呼吸を乱して激しくむせた。魔王とエロネタには純情な彼であった。姿を現した次男猫がソルの背中を擦っている。真面目なだけではなく優しい猫にゃんだ。
「え~、いいじゃないか、俺は好きだぞあの服装。ラッキースケベ要素が満載で」
「き、貴様ユーリ、ケホッ、忍者ならもっと忍ばんか! ゲホカハッ」
「アンダー・ドラゴンの件が片付くまではユアンと呼んでな。それにしてもキースさん、ロックウィーナの言う通りなかなかの筋力だな。それとは関係無いけど、スクワットでキツそうに歪める顔がけっこうそそるな」
「カフッ」
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