ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
219 / 257

ヤンデレ集団Bチーム(5)

しおりを挟む
「マシューも百人の部下を従える中隊長だもんね。おうちの評価も変わったんじゃない?」

 マシューの実力を認めて家族仲が改善されていたら良いのに。私はそう思ったのだが、それは楽観的観測だったようだ。

「変わった変わった。両親は俺を将来の騎士団長にする夢に取り憑かれて手のひら返し。嫡男ちゃくなんみたいに大切に扱われるようになったよ。兄達は面白くないだろうけど、今の俺を害したら一族中から非難されるからね、表向きは友好的に接してくるようになった」
「そうなんだ……」
「エディオン家の誇りがどうとか耳にタコができるほど聞かされてきたけど、あの人達の誇りは薄っぺらいものだったんだ」

 虚しさといきどおり。それがマシューの心をむしばんだ。

「エディオン家でまともな感性を持った人間は、叔父さんとサティーだけだよ。他は屑ばっかり。俺も含めてね」

 マシュー自身も己の精神状態が危ういと感じているのだろう、だから彼は無理に明るく振る舞っているんだ。
 そして共感して欲しくて、自分と同じく傷付いた心の持ち主を求めてしまう。ルパートだったり、キースだったり。

「ねぇマシュー、あなたが今日イライラしていたのは、サティーさんに会ったからなの?」
「!………………」

 マシューはフッと息を吐いた。

「俺がイライラしていたの、バレてた?」
「バレバレ」

 手の届かない存在となった憧れの女性。甥に徹しようとマシューは決めたようだが、そう簡単に恋心は消えるもんじゃない。
 マシューがこれまで付き合ってきた女のコは、たぶんサティーを忘れる為に彼女とは真逆なタイプ。そこを駄目出しされたら気が滅入って当然だろう。

「……もしかして、俺がサティーに惚れてるってのも、バレてる?」

 自分で言っちゃった。

「うん。これだけ長く熱く語られたら鈍い私でも気づくよ」
「うわ」
「会話に参加していない他のみんなはまだ知らないんじゃないかな?」
「まいったな」

 言葉とは裏腹にマシューは晴れやかな表情だった。心の秘め事を暴露して少しスッキリしたのかもしれない。

「今日俺が言ったこと、サティーにも他のみんなにも内緒ね?」
「もちろん」
「信用するからな。約束破ったらコレだぞ」

 マシューは右手中指で私の額を弾いた。

「痛っ! 地味に痛かった! 今やったら意味無いでしょーが!!」
「ハハハッ」

 マシューの右手は次に私の頭をクシャクシャと撫ぜた。

「やめれ~馬鹿、髪が乱れる」
「ハハハハ。こんなやり取り、サティーとも先輩達ともできなかったな」

 そりゃ目上の人にデコピンはかませられないだろう。頭を撫ぜ撫ぜも。

「……ごめんね」
「ん?」
「イライラして、俺は乱暴に物事を片付けようとした。ロックウィーナに怖い思いをさせちゃったね。あの女性達にも」

 今度のは取り敢えずではなく、本気の謝罪に思えた。

「解ってくれたならそれでいいよ」
「お詫びにランチおごらせて。あ、ディナーの方が落ち着いて話せるかな」
「デートみたいなことをすると、後々面倒なことになるからいい」

 絶対にルパートとキースにしつこく追及されて、自分を棚に上げるアルクナイトからはしかられて、エリアスが芝居がかった演技で嘆いて、エンは闇討ちの準備をする。

「でもそれじゃ俺の気が収まらないよ。悪いことをしてしまったと今は思っているんだ」
「だったら今日の午後、時間が空いていたら訓練に付き合ってよ」
「喜んで! 決まりだ!」

 私達は軽く笑い合ってから、軽くなった足取りで前を行く仲間達を追った。


☆☆☆


 13時20分。冒険者ギルド訓練場。
 街の外へ出た他のチームがまだ帰ってこないので、私達Bチームは自由時間となった。約束通りマシューと訓練場へ向かったところ、手持ち無沙汰な他のメンバーも付いてきた。

「ロックウィーナ、キミ、接近戦は鬼強おにつよだね……」

 武器を使用せずに徒手での模擬戦。マシューは私の動きについてこられず膝を折った。

「食堂であんなに食べるからだよ。お腹が重いんでしょう?」
「それを差し引いてもさ……。こんなに反応速度がいい戦士は男の中にもそうそう居ないよ? ……うっ、横っ腹がいてぇ」

 完全に息が上がってしまったマシューの横からユーリが進み出た。

「ロックウィーナ、次は俺とやろう」
「いや、そいつは接近戦はもう充分に強い。リーチの長い武器の熟練度を上げるべきだ」

 キースと一緒に並んでスクワットをするソルがアドバイスしてきた。騎士であるソルはともかくとして、魔術師のキースが意外な数のスクワットをこなしていて驚いた。

「キース先輩って……服の下、実はマッチョさんですか?」
「ふふ、ロックウィーナ、二人きりの時なら脱いで見せてあげるよ」
「ぎゃあっ、先輩たら魔王の悪い影響を受けてますよ!」
「おいコラ、我が王の悪口はよせ」
「そうだソル! 側近ならアルクナイトのあの破廉恥な服装を止めてよ。あなただって、大切な王のお乳が出るか出ないか気が気でないでしょう!?」
「そ、それは……グフッ」

 動揺したソルは呼吸を乱して激しくむせた。魔王とエロネタには純情な彼であった。姿を現した次男猫がソルの背中をさすっている。真面目なだけではなく優しい猫にゃんだ。

「え~、いいじゃないか、俺は好きだぞあの服装。ラッキースケベ要素が満載で」
「き、貴様ユーリ、ケホッ、忍者ならもっと忍ばんか! ゲホカハッ」
「アンダー・ドラゴンの件が片付くまではユアンと呼んでな。それにしてもキースさん、ロックウィーナの言う通りなかなかの筋力だな。それとは関係無いけど、スクワットでキツそうに歪める顔がけっこうな」
「カフッ」

 キースもむせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。気長に待っててください。月2くらいで更新したいとは思ってます。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

領主にならないとダメかなぁ。冒険者が良いんです本当は。

さっちさん
ファンタジー
アズベリー領のミーナはとある事情により両親と旅をしてきた。 しかし、事故で両親を亡くし、実は領主だった両親の意志を幼いながらに受け継ぐため、一人旅を続ける事に。 7歳になると同時に叔父様を通して王都を拠点に領地の事ととある事情の為に学園に通い、知識と情報を得る様に言われた。 ミーナも仕方なく、王都に向かい、コレからの事を叔父と話をしようと動き出したところから始まります。 ★作品を読んでくださった方ありがとうございます。不定期投稿とはなりますが一生懸命進めていく予定です。 皆様応援よろしくお願いします

女王ララの再建録 〜前世は主婦、今は王国の希望〜

香樹 詩
ファンタジー
13歳で“前世の記憶”を思い出したララ。 ――前世の彼女は、家庭を守る“お母さん”だった。 そして今、王女として目の前にあるのは、 火の車の国家予算、癖者ぞろいの王宮、そして資源不足の魔鉱石《ビス》。 「これ……完全に、家計の立て直し案件よね」 頼れない兄王太子に代わって、 家計感覚と前世の知恵を武器に、ララは“王国の再建”に乗り出す! まだ魔法が当たり前ではないこの国で、 新たな時代を切り拓く、小さな勇気と現実的な戦略の物語。 怒れば母、語れば姉、決断すれば君主。 異色の“王女ララの再建録”、いま幕を開けます! *カクヨムにも投稿しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。

あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。

処理中です...