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ヤンデレ集団Bチーム(6)
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「ケホッ、ケホッ。……本当に関係無いことだなエロ忍者」
キースはスクワットをやめて呼吸を整えた。
「戦士は魔術師を貧弱イメージで見ているけど、僕らにも筋肉トレーニングは必要なんだよ。大きな魔法を放つ時はけっこうな反動が来るからね、耐えられる身体を作っておかないといけないんだ」
「そうだな。我が王も鍛錬には余念が無い」
へー、知らなかったな。戦士レベルではないにしろ、魔術師もある程度は筋肉を付けないと駄目なのね。だから私をおんぶしてくれた時、キースは余裕そうに歩いていたんだ。
「さてと、ロックウィーナは剣と槍、どっちが得意?」
マシューが仕切り直した。脇腹の痛みが治まったようだ。訓練場には練習用の木刀と槍が数本ずつ置かれている。
「ごめん、私どっちも使えないの」
「えっ、嘘、少しも?」
「うん。私には鞭が有るから」
私は外して壁際の床に置いていた鞭ホルダーを指差した。
「鞭は……牽制にはいいけどさ、刃物に比べて殺傷能力が低いだろう? 今までギルドの出動で困らなかった?」
「それが……バディのルパート先輩が風魔法で感知して、敵と遭遇しないようにしてくれていたから私には実戦経験がほとんど無いの。仕方無く戦闘になった時はいつも後ろに下げられていたし」
「実戦経験が無い……?」
シン、と訓練場が静まり返った。
「な、何?」
身構えた私に最初に意見したのはユーリだった。
「おまえは馬鹿か! 戦場の空気を知らないヤツが暗殺者の俺に挑んだのか!?」
怒鳴られて私は後退った。
これはユーリがアンダー・ドラゴンの仲間と一緒に、師団長ルービックを暗殺しに来た晩のことを言っているんだな。
「あの時はとにかくエンの加勢に入らなきゃと思って……」
「馬鹿! 馬鹿! ば──か!! それは自殺行為だ、いっぺん死んでこい!」
どっちだよ。
マシューも追随した。
「ロックウィーナ、道場の剣は実戦ではナマクラって兵団ではよく言われているんだ。訓練ではどれだけ優秀でも、実戦経験が少ないと場の空気に呑まれてまともに戦えないものなんだよ……。ああ、だから暗殺団が来たあの晩、冒険者ギルドのメンバーはキミを心配してテントに駆け付けたんだね」
「くそっ……、おまえは人が斬られる光景にも慣れていなかったもんな……。今日の現場もつらかっただろうに。もっと気ぃつけてやれば良かった」
ユーリが自身の頭をガシガシ掻いて、奥のソルは発言しなかったが険しい表情で私を見ていた。
何事? 私はマズイことを言ってしまったの?
キースが哀しそうに微笑んだ。
「ルパートが……、ロックウィーナの手を汚させないよう計らったんだろうね」
その意見にマシューが異を唱えた。
「惚れた相手だからですか? ルパート先輩は汚れ仕事を一手に引き受けて、如何なる場面でもロックウィーナを護り切るつもりなんですか? それこそ自殺行為ですよ。冒険者ギルドの仕事は危険を伴うのだから、ロックウィーナにも殺人技を仕込むべきです。バディの生存確率を上げる為に」
そうだよね……。私ってば護られてばかりだもん。
キースは尚も笑った。泣きそうな顔で。
「正論だよ中隊長。でもルパートの馬鹿はそうしなかったんだ。そして七年間やり遂げた。アイツは今日までロックウィーナを護り切ったんだ」
「七年間も……?」
マシューが驚愕の表情を浮かべた。
……ルパートはいつも私を危険から遠ざけようとする。だからガロン荒野で私がダークストーカーに襲われて危なかった時、彼は激しく自分を責めてしまった。
「それが……愛と言うものなんでしょうか?」
マシューの問いに答えたのは次男猫を抱っこするソルであった。
「ルパートにとってはそうなのだろう。愛し方は人それぞれだ。己の心に尋ねるといい」
ソルは良いことを言いながら胸元で次男猫をモフっていた。ジーンとする場面なのだがモフりに混ぜて欲しいと思ってしまった。
「ソルさんの愛し方は?」
「私は……大切な人と共に生き、共に滅べれば本望だ」
アルクナイトのことを指しているんだろうな。ユーリが反応した。
「……俺にもそう思える人が二人できたんだ。でも俺は二回とも相手の傍から離れてしまった」
「二人?」
「それは、一人目はエンのことだよね?」
私の確認にユーリは「ああ」と答えた。ユーリは幸せを祈って一度エンを突き放していた。兄弟愛だが彼らは強い絆で結ばれている。
「もう一人は……レスター・アーク?」
無遠慮に私は切り込んだ。ユーリは私をじっと見た後、キースと同じ哀しい瞳で笑った。
「前におまえみたいな甘ちゃんは、知らない方がいいと言っただろう?」
「それでも知りたい。私達はもうチームになったんだからね、一人で抱え込むのはナシだよ?」
「そうだね、キミは首領について話すべきだ」
「それによって首領の行動パターンが掴めるかもしれないしね」
キースとマシューにも詰められてユーリは観念した。
「……お人好しどもが」
私達は訓練場の床に輪になって座った。
キースはスクワットをやめて呼吸を整えた。
「戦士は魔術師を貧弱イメージで見ているけど、僕らにも筋肉トレーニングは必要なんだよ。大きな魔法を放つ時はけっこうな反動が来るからね、耐えられる身体を作っておかないといけないんだ」
「そうだな。我が王も鍛錬には余念が無い」
へー、知らなかったな。戦士レベルではないにしろ、魔術師もある程度は筋肉を付けないと駄目なのね。だから私をおんぶしてくれた時、キースは余裕そうに歩いていたんだ。
「さてと、ロックウィーナは剣と槍、どっちが得意?」
マシューが仕切り直した。脇腹の痛みが治まったようだ。訓練場には練習用の木刀と槍が数本ずつ置かれている。
「ごめん、私どっちも使えないの」
「えっ、嘘、少しも?」
「うん。私には鞭が有るから」
私は外して壁際の床に置いていた鞭ホルダーを指差した。
「鞭は……牽制にはいいけどさ、刃物に比べて殺傷能力が低いだろう? 今までギルドの出動で困らなかった?」
「それが……バディのルパート先輩が風魔法で感知して、敵と遭遇しないようにしてくれていたから私には実戦経験がほとんど無いの。仕方無く戦闘になった時はいつも後ろに下げられていたし」
「実戦経験が無い……?」
シン、と訓練場が静まり返った。
「な、何?」
身構えた私に最初に意見したのはユーリだった。
「おまえは馬鹿か! 戦場の空気を知らないヤツが暗殺者の俺に挑んだのか!?」
怒鳴られて私は後退った。
これはユーリがアンダー・ドラゴンの仲間と一緒に、師団長ルービックを暗殺しに来た晩のことを言っているんだな。
「あの時はとにかくエンの加勢に入らなきゃと思って……」
「馬鹿! 馬鹿! ば──か!! それは自殺行為だ、いっぺん死んでこい!」
どっちだよ。
マシューも追随した。
「ロックウィーナ、道場の剣は実戦ではナマクラって兵団ではよく言われているんだ。訓練ではどれだけ優秀でも、実戦経験が少ないと場の空気に呑まれてまともに戦えないものなんだよ……。ああ、だから暗殺団が来たあの晩、冒険者ギルドのメンバーはキミを心配してテントに駆け付けたんだね」
「くそっ……、おまえは人が斬られる光景にも慣れていなかったもんな……。今日の現場もつらかっただろうに。もっと気ぃつけてやれば良かった」
ユーリが自身の頭をガシガシ掻いて、奥のソルは発言しなかったが険しい表情で私を見ていた。
何事? 私はマズイことを言ってしまったの?
キースが哀しそうに微笑んだ。
「ルパートが……、ロックウィーナの手を汚させないよう計らったんだろうね」
その意見にマシューが異を唱えた。
「惚れた相手だからですか? ルパート先輩は汚れ仕事を一手に引き受けて、如何なる場面でもロックウィーナを護り切るつもりなんですか? それこそ自殺行為ですよ。冒険者ギルドの仕事は危険を伴うのだから、ロックウィーナにも殺人技を仕込むべきです。バディの生存確率を上げる為に」
そうだよね……。私ってば護られてばかりだもん。
キースは尚も笑った。泣きそうな顔で。
「正論だよ中隊長。でもルパートの馬鹿はそうしなかったんだ。そして七年間やり遂げた。アイツは今日までロックウィーナを護り切ったんだ」
「七年間も……?」
マシューが驚愕の表情を浮かべた。
……ルパートはいつも私を危険から遠ざけようとする。だからガロン荒野で私がダークストーカーに襲われて危なかった時、彼は激しく自分を責めてしまった。
「それが……愛と言うものなんでしょうか?」
マシューの問いに答えたのは次男猫を抱っこするソルであった。
「ルパートにとってはそうなのだろう。愛し方は人それぞれだ。己の心に尋ねるといい」
ソルは良いことを言いながら胸元で次男猫をモフっていた。ジーンとする場面なのだがモフりに混ぜて欲しいと思ってしまった。
「ソルさんの愛し方は?」
「私は……大切な人と共に生き、共に滅べれば本望だ」
アルクナイトのことを指しているんだろうな。ユーリが反応した。
「……俺にもそう思える人が二人できたんだ。でも俺は二回とも相手の傍から離れてしまった」
「二人?」
「それは、一人目はエンのことだよね?」
私の確認にユーリは「ああ」と答えた。ユーリは幸せを祈って一度エンを突き放していた。兄弟愛だが彼らは強い絆で結ばれている。
「もう一人は……レスター・アーク?」
無遠慮に私は切り込んだ。ユーリは私をじっと見た後、キースと同じ哀しい瞳で笑った。
「前におまえみたいな甘ちゃんは、知らない方がいいと言っただろう?」
「それでも知りたい。私達はもうチームになったんだからね、一人で抱え込むのはナシだよ?」
「そうだね、キミは首領について話すべきだ」
「それによって首領の行動パターンが掴めるかもしれないしね」
キースとマシューにも詰められてユーリは観念した。
「……お人好しどもが」
私達は訓練場の床に輪になって座った。
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