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女神の懺悔(2)
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アルクナイトが主張していたそうだ。女神に造られたキャラクターであるみんなが自我に目覚めたのだ、と。
そうなのだと私も思う。
決められた十日間の中で、最初に魔王が勝手な行動を取り出した時は本当に驚いた。続いてエンやロックウィーナ、他のキャラにも変化が起き始めた。
……変わろうと、生きようと、命が進化していくのは自然なことなのだ。それを押さえ付けて止めようとしてしまった私。その行動こそが世界に歪みを生む要因になったのかもしれない。
そしてあの人喰い霧……。みんなは世界の治安が乱れたせいだと思っていて、あの場では私も同調したけれど……。本当はあの霧はきっと……。
『むにゃん』
腕の中の三男猫が寝返りをうって私の服にヨダレを擦り付けた。だらしない寝顔が真面目な思考を妨げる。伸びた爪も肌に食い込んで痛い。私が猫好きじゃなかったら放り投げていた。
「あ、あいつらは!!」
十数戸の家の前には、廃村とは思えない数の男達がうろついていた。その内の一人が私達の方……、フィースノー支部の赤い防護ベストを着た前列三名を見て大声を上げた。
「追っ手だ! 武器を取れ!」
「冒険者ギルドのクソッタレどもだ!!」
アンダー・ドラゴンにとって冒険者ギルドの職員は、王国兵団並みの天敵となっているようだ。
呼びかけに応じて武器を手にした男達が集まってきた。家の中からもワラワラと出てくる。これって五十人くらい居るんじゃないかな?
人相の悪いモヒカンヘッドの群れに私が怯えていると、マキアが静かだが通る声で呪文を詠唱し始めた。
「我が盟友となりし風よ、猛き炎の助けとなり眼前の敵を薙ぎ払え!!!!」
え、風? 火の魔術師であるマキアが風に働きかけている?
私が疑問を抱くと同時にバグォン!と耳をつんざく爆音が轟き、出現したドラゴンの尻尾のような横に長い赤い炎が、建物と一緒にアンダー・ドラゴンの構成員を文字通り薙ぎ払ったのであった。
「やった! ルパート先輩やりました! 教えて頂いた通りに風を制御できました!!」
マキアって二重属性持ちだったの!? 私の設定では火魔法にしか適性が無いはずなのに、風と火の複合魔法を成功させている。
マキアもまた進化していた。
「すげぇ……すげぇんだけどさ、コレ威力強過ぎねぇ?」
「マキア魔王みたい……」
はしゃぐマキアの横でルパートとエンが蒼ざめていた。
マキアが放ったたった一発の魔法で、ボロ屋といえど六軒の建物と数十人の構成員が爆風で吹っ飛ばされた。生き残った者も高温の空気で焼かれて地面をのたうち回り、そして強い海風が炎の範囲を広げていた。
「あっつ!」
ルパートが風を操作してこちらに炎が届かないようにしてくれたが、広範囲での遮断は難しいようだった。熱を持った空気に肌が刺激されて痛い。
「炎の勢いが強過ぎる。一時退却だルパート!」
「私が消します!!」
私は宣言して両手を空へ掲げた。抱いていた猫は下に落ちた。
「雨よ降れぇぇ!!!!」
途端に晴天だった空に黒い雲が発生した。水分を含んだ雨雲だ。しかし小さい。これでは大火事を消せる水分量に到底足りない。
以前の私なら大洪水を起こすほどの雨を降らせることも可能だったのに。まるで新世界に拒否されているようで、自分が情けなくて悲しくなった。
『なご~~~~!』
その時、目覚めた三男猫が私の頭頂部に張り付いた。落とされたことへの抗議行動かと思いきや、違った。
(雨雲が大きくなっていく……!?)
雲がムクムクと巨大化していき、一帯が夜のように暗くなった。
なんと黒猫には対象者のステータスを底上げする能力が有るらしい。凄い。S級魔族の称号は伊達じゃない。
「えええぇいっ!」
ザバ──────。
三男猫にサポートしてもらい、私は漁村に滝のような雨を降らせて消火に成功したのであった。
『ぶふぇっくしゅ!』
雨が止んだ後、頭上から黒猫の唾と鼻水が盛大に噴出された。横を向いて欲しかったな。しかしこの猫のおかげで鎮火できたのだ、怒るまい。
全員が局地的な大雨で濡れネズミ状態だ。
「ごめんな、俺が考え無しで魔法を使ったせいで大変なことになった。スズネ、フォローしてくれてありがとう」
髪から雨水を滴らせて妙に色っぽくなったマキアに謝罪された。
「ううん、私だけの力では無理だった。この猫ちゃんが私の力を数倍に引き上げてくれたんだよ」
「ええ!? そんなことができる猫だったん?」
『にゃは』
私の頭頂部で胸を張った三男猫だったが、再び『びゃくしょぉん!!』と盛大にくしゃみをして、今度はマキアの顔面に猫汁を噴射した。
功労者の猫に怒る訳にはいかず、マキアは無言で手の甲で顔を拭った。そんな私達を暖かい風がくるんだ。
「風邪ひくなよ?」
ルパートが風魔法でみんなの身体を乾燥させてくれたのだった。超便利なお人。
「すげ……。風はこんな使い方もできるんだ。俺は駄目駄目だな……」
器用な先輩を前に落ち込むマキアの肩を、ルパートが優しく叩いた。
「おまえはこれからだよ。じっくりやっていこう、魔法の修練にはこれまで通り俺も付き合うから」
「はい……ありがとうございます! 先輩のご指導、決して無駄にしません!!」
私は複雑な感情で彼らを眺めた。ループが破壊されなかったらマキアは死亡、フィースノー支部に移籍することも無ければ、先輩であるルパートと交流を深めることも無かった。
そうなのだと私も思う。
決められた十日間の中で、最初に魔王が勝手な行動を取り出した時は本当に驚いた。続いてエンやロックウィーナ、他のキャラにも変化が起き始めた。
……変わろうと、生きようと、命が進化していくのは自然なことなのだ。それを押さえ付けて止めようとしてしまった私。その行動こそが世界に歪みを生む要因になったのかもしれない。
そしてあの人喰い霧……。みんなは世界の治安が乱れたせいだと思っていて、あの場では私も同調したけれど……。本当はあの霧はきっと……。
『むにゃん』
腕の中の三男猫が寝返りをうって私の服にヨダレを擦り付けた。だらしない寝顔が真面目な思考を妨げる。伸びた爪も肌に食い込んで痛い。私が猫好きじゃなかったら放り投げていた。
「あ、あいつらは!!」
十数戸の家の前には、廃村とは思えない数の男達がうろついていた。その内の一人が私達の方……、フィースノー支部の赤い防護ベストを着た前列三名を見て大声を上げた。
「追っ手だ! 武器を取れ!」
「冒険者ギルドのクソッタレどもだ!!」
アンダー・ドラゴンにとって冒険者ギルドの職員は、王国兵団並みの天敵となっているようだ。
呼びかけに応じて武器を手にした男達が集まってきた。家の中からもワラワラと出てくる。これって五十人くらい居るんじゃないかな?
人相の悪いモヒカンヘッドの群れに私が怯えていると、マキアが静かだが通る声で呪文を詠唱し始めた。
「我が盟友となりし風よ、猛き炎の助けとなり眼前の敵を薙ぎ払え!!!!」
え、風? 火の魔術師であるマキアが風に働きかけている?
私が疑問を抱くと同時にバグォン!と耳をつんざく爆音が轟き、出現したドラゴンの尻尾のような横に長い赤い炎が、建物と一緒にアンダー・ドラゴンの構成員を文字通り薙ぎ払ったのであった。
「やった! ルパート先輩やりました! 教えて頂いた通りに風を制御できました!!」
マキアって二重属性持ちだったの!? 私の設定では火魔法にしか適性が無いはずなのに、風と火の複合魔法を成功させている。
マキアもまた進化していた。
「すげぇ……すげぇんだけどさ、コレ威力強過ぎねぇ?」
「マキア魔王みたい……」
はしゃぐマキアの横でルパートとエンが蒼ざめていた。
マキアが放ったたった一発の魔法で、ボロ屋といえど六軒の建物と数十人の構成員が爆風で吹っ飛ばされた。生き残った者も高温の空気で焼かれて地面をのたうち回り、そして強い海風が炎の範囲を広げていた。
「あっつ!」
ルパートが風を操作してこちらに炎が届かないようにしてくれたが、広範囲での遮断は難しいようだった。熱を持った空気に肌が刺激されて痛い。
「炎の勢いが強過ぎる。一時退却だルパート!」
「私が消します!!」
私は宣言して両手を空へ掲げた。抱いていた猫は下に落ちた。
「雨よ降れぇぇ!!!!」
途端に晴天だった空に黒い雲が発生した。水分を含んだ雨雲だ。しかし小さい。これでは大火事を消せる水分量に到底足りない。
以前の私なら大洪水を起こすほどの雨を降らせることも可能だったのに。まるで新世界に拒否されているようで、自分が情けなくて悲しくなった。
『なご~~~~!』
その時、目覚めた三男猫が私の頭頂部に張り付いた。落とされたことへの抗議行動かと思いきや、違った。
(雨雲が大きくなっていく……!?)
雲がムクムクと巨大化していき、一帯が夜のように暗くなった。
なんと黒猫には対象者のステータスを底上げする能力が有るらしい。凄い。S級魔族の称号は伊達じゃない。
「えええぇいっ!」
ザバ──────。
三男猫にサポートしてもらい、私は漁村に滝のような雨を降らせて消火に成功したのであった。
『ぶふぇっくしゅ!』
雨が止んだ後、頭上から黒猫の唾と鼻水が盛大に噴出された。横を向いて欲しかったな。しかしこの猫のおかげで鎮火できたのだ、怒るまい。
全員が局地的な大雨で濡れネズミ状態だ。
「ごめんな、俺が考え無しで魔法を使ったせいで大変なことになった。スズネ、フォローしてくれてありがとう」
髪から雨水を滴らせて妙に色っぽくなったマキアに謝罪された。
「ううん、私だけの力では無理だった。この猫ちゃんが私の力を数倍に引き上げてくれたんだよ」
「ええ!? そんなことができる猫だったん?」
『にゃは』
私の頭頂部で胸を張った三男猫だったが、再び『びゃくしょぉん!!』と盛大にくしゃみをして、今度はマキアの顔面に猫汁を噴射した。
功労者の猫に怒る訳にはいかず、マキアは無言で手の甲で顔を拭った。そんな私達を暖かい風がくるんだ。
「風邪ひくなよ?」
ルパートが風魔法でみんなの身体を乾燥させてくれたのだった。超便利なお人。
「すげ……。風はこんな使い方もできるんだ。俺は駄目駄目だな……」
器用な先輩を前に落ち込むマキアの肩を、ルパートが優しく叩いた。
「おまえはこれからだよ。じっくりやっていこう、魔法の修練にはこれまで通り俺も付き合うから」
「はい……ありがとうございます! 先輩のご指導、決して無駄にしません!!」
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