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女神の懺悔(5)
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「ルービックさん、コイツに治癒魔法をかけてくれ!」
ルパートに頼まれたルービックは渋い表情を作った。
「それはできないルパート。彼は重犯罪者だ」
「ユアン……ユーリは赦されたじゃないか! だったらコイツだって……!」
「……ユーリと彼とでは立場が違う。首領の側近であったユーリの証言は信憑性が高いと中央議会で判断されるだろう。そして今のユーリは首領を断罪する為に自ら動いている」
「ユーリが使えるから? だから助けたのか? ギルにはその価値が無いと!?」
「ルパート……」
「馬鹿、師団長を困らせんなよ……」
ギルが口を挟んだ。
「側近のユーリって、あのユーリさんか……。死んだと聞いたが生きていたんだな……」
「ギル、今止血する」
「放っておけよルパート……、俺はユーリさんとは違う。あの人はボスの為に身体を張る仕事しかしてなかったけど……、俺は……俺はさ……」
「腹に力が入るからもう喋るな!」
「流石に……ガキや老人を殺して金を奪う仕事はできなかったけど……」
ルパートの制止を無視してギルは喋り続けた。まるで自ら命の灯を消そうとしているかのように。
「麻薬を扱ったんだよ……。俺が流した薬できっと……何人もの人間が人生を狂わせてる」
「………………」
「ホント……馬鹿にされても意地張らずにさ、田舎へ帰っときゃ良かった……。犯罪者になるより……よっぽどマシだったよな」
ギルの顔に玉の汗が浮き出ている。相当な苦痛と戦っているのだろう。
「ルパート先輩、彼にとどめを」
エンが進言したがルパートは拒絶した。
「駄目だ、コイツは完全な悪じゃない! まだ更生できる!」
「彼にはもう生きる気力が無いんです。このまま長く苦しませるのは気の毒です。無理なようなら俺がやります」
「!……」
ルパートはルービックを振り返って懇願した。
「頼む、頼むよルービックさん、ギルを助けてやってくれ!!」
ルービックは口を真一文字に結び、治療の代わりに土に刺さっていたルパートの剣を抜いて差し出した。
「ルービック……さん?」
「楽にしてやれ。それが今、おまえが幼馴染みにしてやれる唯一のことだ」
絶望したルパートの全身が震えた。私の脚もガクガクしている。
ルパートは呼吸が不規則になっているギルをもう一度見て、ルービックから剣を受け取った。
「ギル……」
やめて。
「へ……へへ……、わりぃなルパート……」
お願いやめて。
「ギル……!」
ルパートはギルの左首に剣の刃を当てた。ギルは微笑んでいた。
「ありがとうルパート……、最期におまえに会えて……良かった」
「………………!」
ルパートは目を閉じて剣を引いた。頸動脈を切断されたギルは首から大量の血を噴き出した。
「あああ……」
下半身から力が抜け、私はその場にへたり込んだ。
「スズネ」
隣に居たマキアが身体を屈めて私を支えてくれた。
「ごめんなさい……」
「……こんな現場を見たら腰が抜けても仕方が無いよ。気にしなくていい」
「違うの! ルパート、ごめんなさい!!」
私は前方のルパートへ向かって声を張り上げた。
「ごめんなさい! 私が彼にあなたを裏切る設定を付けてしまったから……、だからこんな事になったの! ごめんなさい!!」
ルパートはゆっくり顔を上げて私を見た。ギルを殺した彼の瞳は精彩さを失っていた。
「……ギルがアンドラに入ったことも、おまえが作った設定だったのか……?」
「それは……違う。騎士団を出た後のあの人については何も設定していない……」
「ならこの結末はギルの自業自得だ。アイツが選んだ人生だったんだ……」
言葉ではそう言ったものの、ルパート自身が納得していないのは一目瞭然だった。彼は立ち上がったが、その佇まいは幽霊のようであった。
「もう生き残りは居ないみたいだ。馬車でフィースノーの街へ戻ろう」
フラフラと歩き出したルパートにルービックが寄り添った。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
痛々しいルパートを目にして私は泣いていた。
「スズネ、ルパートさんの言う通りだ。ギルと言う人は私欲で罪を犯した。その代償をここで支払ったんだ」
「そうだよ。キミのせいじゃない。ギルさんも俺達みたいに自我に目覚めて……、そして残念だけど悪い方向へ行ってしまったんだ」
『にゃあ……』
エンとマキアが私を慰めてくれた。私に「死にキャラ」として扱われたのに。私が誕生に関与していない黒猫も頭を撫でていてくれる。
みんなが優しい。それなのにこの世界は滅ぼうとしている。
「俺達も行くぞ。スズネ、俺の背に乗れ」
返事をするよりも早くエンが私を背負った。
「ごめんなさい……」
「もう謝るな」
ギルのことだけじゃないの。私は霧の正体を知りながら黙っている。優しいみんなを道連れにして、世界ごと心中しようとしている。
あの人喰い霧は……私の身体を蝕む病魔だ。
自己免疫疾患……。免疫系が正常に機能せず、自分自身の組織を攻撃してしまう病気。完治はできず、ステロイド剤を投与して状態を緩和しているが副作用が酷い。
私は頑張ることを放棄して、現実世界では眠り続ける道を選んだ。
「あ……ぐ、ぐぅっ、あああああ!!!!」
ついに耐えきれなくなったルパートが悲痛な声で喚き出した。
「ギル……ギル!! あぐあぁぁぁ、あああああああ!」
ルービックが無言でルパートの肩を抱いた。ルパートの悲しみが辺りに充満して私の胸も痛くなった。
でも大丈夫だよ、ルパート。もうすぐ全ての苦しみから解放される。
こちらの世界は私が創造した私の肉体。病気が悪化して霧が発生してしまい、そこら中を喰い荒している状態だ。
私が現実世界へ戻れば……、もう一度病気と向き合えば霧は消えるかもしれない。
でも、嫌。
ここでなら私は思いっきり走ることができるし、好きなだけ食べられる。意地悪なクラスメイトも存在しない。
現実世界では生きているのに死んでいるような生活だった。
ならこの世界で優しいみんなに囲まれて、一緒に霧に呑まれて死んでしまいたい。
私の手から離れて自我に目覚めて、生命に輝いているみんな。
ごめんなさい。
私はあなた達と死にたいんです。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ルパートに頼まれたルービックは渋い表情を作った。
「それはできないルパート。彼は重犯罪者だ」
「ユアン……ユーリは赦されたじゃないか! だったらコイツだって……!」
「……ユーリと彼とでは立場が違う。首領の側近であったユーリの証言は信憑性が高いと中央議会で判断されるだろう。そして今のユーリは首領を断罪する為に自ら動いている」
「ユーリが使えるから? だから助けたのか? ギルにはその価値が無いと!?」
「ルパート……」
「馬鹿、師団長を困らせんなよ……」
ギルが口を挟んだ。
「側近のユーリって、あのユーリさんか……。死んだと聞いたが生きていたんだな……」
「ギル、今止血する」
「放っておけよルパート……、俺はユーリさんとは違う。あの人はボスの為に身体を張る仕事しかしてなかったけど……、俺は……俺はさ……」
「腹に力が入るからもう喋るな!」
「流石に……ガキや老人を殺して金を奪う仕事はできなかったけど……」
ルパートの制止を無視してギルは喋り続けた。まるで自ら命の灯を消そうとしているかのように。
「麻薬を扱ったんだよ……。俺が流した薬できっと……何人もの人間が人生を狂わせてる」
「………………」
「ホント……馬鹿にされても意地張らずにさ、田舎へ帰っときゃ良かった……。犯罪者になるより……よっぽどマシだったよな」
ギルの顔に玉の汗が浮き出ている。相当な苦痛と戦っているのだろう。
「ルパート先輩、彼にとどめを」
エンが進言したがルパートは拒絶した。
「駄目だ、コイツは完全な悪じゃない! まだ更生できる!」
「彼にはもう生きる気力が無いんです。このまま長く苦しませるのは気の毒です。無理なようなら俺がやります」
「!……」
ルパートはルービックを振り返って懇願した。
「頼む、頼むよルービックさん、ギルを助けてやってくれ!!」
ルービックは口を真一文字に結び、治療の代わりに土に刺さっていたルパートの剣を抜いて差し出した。
「ルービック……さん?」
「楽にしてやれ。それが今、おまえが幼馴染みにしてやれる唯一のことだ」
絶望したルパートの全身が震えた。私の脚もガクガクしている。
ルパートは呼吸が不規則になっているギルをもう一度見て、ルービックから剣を受け取った。
「ギル……」
やめて。
「へ……へへ……、わりぃなルパート……」
お願いやめて。
「ギル……!」
ルパートはギルの左首に剣の刃を当てた。ギルは微笑んでいた。
「ありがとうルパート……、最期におまえに会えて……良かった」
「………………!」
ルパートは目を閉じて剣を引いた。頸動脈を切断されたギルは首から大量の血を噴き出した。
「あああ……」
下半身から力が抜け、私はその場にへたり込んだ。
「スズネ」
隣に居たマキアが身体を屈めて私を支えてくれた。
「ごめんなさい……」
「……こんな現場を見たら腰が抜けても仕方が無いよ。気にしなくていい」
「違うの! ルパート、ごめんなさい!!」
私は前方のルパートへ向かって声を張り上げた。
「ごめんなさい! 私が彼にあなたを裏切る設定を付けてしまったから……、だからこんな事になったの! ごめんなさい!!」
ルパートはゆっくり顔を上げて私を見た。ギルを殺した彼の瞳は精彩さを失っていた。
「……ギルがアンドラに入ったことも、おまえが作った設定だったのか……?」
「それは……違う。騎士団を出た後のあの人については何も設定していない……」
「ならこの結末はギルの自業自得だ。アイツが選んだ人生だったんだ……」
言葉ではそう言ったものの、ルパート自身が納得していないのは一目瞭然だった。彼は立ち上がったが、その佇まいは幽霊のようであった。
「もう生き残りは居ないみたいだ。馬車でフィースノーの街へ戻ろう」
フラフラと歩き出したルパートにルービックが寄り添った。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
痛々しいルパートを目にして私は泣いていた。
「スズネ、ルパートさんの言う通りだ。ギルと言う人は私欲で罪を犯した。その代償をここで支払ったんだ」
「そうだよ。キミのせいじゃない。ギルさんも俺達みたいに自我に目覚めて……、そして残念だけど悪い方向へ行ってしまったんだ」
『にゃあ……』
エンとマキアが私を慰めてくれた。私に「死にキャラ」として扱われたのに。私が誕生に関与していない黒猫も頭を撫でていてくれる。
みんなが優しい。それなのにこの世界は滅ぼうとしている。
「俺達も行くぞ。スズネ、俺の背に乗れ」
返事をするよりも早くエンが私を背負った。
「ごめんなさい……」
「もう謝るな」
ギルのことだけじゃないの。私は霧の正体を知りながら黙っている。優しいみんなを道連れにして、世界ごと心中しようとしている。
あの人喰い霧は……私の身体を蝕む病魔だ。
自己免疫疾患……。免疫系が正常に機能せず、自分自身の組織を攻撃してしまう病気。完治はできず、ステロイド剤を投与して状態を緩和しているが副作用が酷い。
私は頑張ることを放棄して、現実世界では眠り続ける道を選んだ。
「あ……ぐ、ぐぅっ、あああああ!!!!」
ついに耐えきれなくなったルパートが悲痛な声で喚き出した。
「ギル……ギル!! あぐあぁぁぁ、あああああああ!」
ルービックが無言でルパートの肩を抱いた。ルパートの悲しみが辺りに充満して私の胸も痛くなった。
でも大丈夫だよ、ルパート。もうすぐ全ての苦しみから解放される。
こちらの世界は私が創造した私の肉体。病気が悪化して霧が発生してしまい、そこら中を喰い荒している状態だ。
私が現実世界へ戻れば……、もう一度病気と向き合えば霧は消えるかもしれない。
でも、嫌。
ここでなら私は思いっきり走ることができるし、好きなだけ食べられる。意地悪なクラスメイトも存在しない。
現実世界では生きているのに死んでいるような生活だった。
ならこの世界で優しいみんなに囲まれて、一緒に霧に呑まれて死んでしまいたい。
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ごめんなさい。
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ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
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