ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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女神の懺悔(4)

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 毒気を抜かれて多少の冷静さを取り戻したルパートが尚も尋ねた。

「……ギル、アメリはどうした? 一緒じゃないのか?」
「アメリ? クッ、ククッ……。あの尻軽女かぁ、久し振りに名を聞いたな」

 私は察した。ギルとアメリとは、ルパートが騎士をやめる切っ掛けになったあの二人なのだと。
 アメリは結婚の約束をしていたルパートの恋人で、ギルは出世していくルパートに嫉妬して裏でアメリと関係を持った幼馴染み。私が作った設定だが、二人には名前を付けていなかった。それに騎士団を追放されたギルがアンダー・ドラゴンに入っていたなんて。そんな筋書きもしていない。
 世界がどんどん私の知らない方向へ動いていっている……!

「クク……。アメリとはすぐに別れたよ。アイツにとって俺はただの遊び相手に過ぎなかったからな。感謝しろよルパート。俺のおかげであの性悪女と結婚せずに済んだんだから」
「………………。ギル、俺はおまえが故郷に帰ったと思っていたんだ。アメリと結婚して」
「はあぁぁぁ!?」

 ギルが鼻の穴を膨らませて憤慨した。

「必ず成功してみせるって宣言して村を出たんだぞ!? 不祥事を起こして帰るなんざ赤っ恥を晒せるか!!」
「………………」
「それとアメリなんかと結婚するかよ!」

 取り囲まれているのはギル。それなのにルパートの方が苦しそうだった。

「……おまえにとっても遊び相手だったのか? 遊びで……俺の婚約者を寝取ったのか?」
「何だぁルパート、テメェまだアメリに未練が有るのか?」

 ギルは鼻で笑った。動作の一つ一つがかんさわる男だ。

「ま、アメリもおまえと別れたのは不本意だったらしいよ? アイツは聖騎士の妻の座に執着していたからな。それがオジャンになったって、俺のことを散々罵倒しやがった。誘いにホイホイ乗ってきたのは自分なのにな」
「………………」
「それで頭にきたから、アイツはアンダー・ドラゴンに売ってやった」
「!」

 ルパートは信じられないものを見る目つきを幼馴染みに向けた。

「今何て言った…………?」
「アメリは見た目は文句無しに良い女だったからな、高い値がついたよ」
「ギル……?」
「だが俺は金ではなく、アンダー・ドラゴンへ入れてもらうことを選んだんだ」
「待てよ……ギル」

 かすれ声でルパートは確認した。

「おまえに売られた……アメリはどうなったんだ……?」
「そりゃ死ねまでヤラれまくったよ。性奴隷として売った……いや、上納したんだから当然だろ?」
「おまえぇぇぇぇ!!!!!!」

 ルパートが叫んだ。

 今のルパートはロックウィーナを愛している。自分を裏切ったアメリへの恋心は既に消えている。
 それでもだ。一度は結婚まで考えていた女性が酷い目に遭ったと告げられて、情に厚い彼は大いに嘆いて激昂した。
 
 シュグッ。

 怒りに任せて振ったルパートの剣がギルの左腹を斬り裂いた。
 構成員の最期を見届けると宣言しておきながら、私は一瞬だけ目をつぶってしまった。怖かったのだ。

「くっ……」

 ギルは自身が持っていた湾曲刀を手放し、脇腹を手で押さえてその場にうずくまった。
 ルパートは追撃をせず、茫然とギルを見下ろしていた。

「……ギル……?」

 幼馴染みを斬ってしまったことに罪悪感を覚えたのではなかった。

「何で……抵抗しなかった?」

 煙を吸って身体の動きが鈍くなっていたとはいえ、ギルはかつて厳しい訓練を受けていた騎士だ。その彼が何もせず剣を受けたことにルパートは驚いていたのだ。

「おいギル……おまえ、わざと俺を挑発して斬らせたな?」

 戸惑うルパートへギルはニッと笑顔を返した。幼さが残るヤンチャ坊主の笑みで。

「下手くそが……。この近距離で急所を外してんぞ? ルパートおまえも……騎士を辞めてから腕が鈍ったな?」
「ギル……何で」
「何でって……もう終わらせたくなったんだよ。疲れちまった……」

 完全に臀部でんぶを地面に付けてギルは両脚を前へ投げ出した。くつろぐ姿勢の幼馴染みへルパートは苦々しく愚痴た。

「……それなら、アメリを連れて何処か遠くへ行ってくれたら良かったのに」
「俺はそれでも良かったんだけどな……。アメリが王都から離れたくないって駄々こねてさ……。それで別れたんだけど……」
「なぁギル、彼女を憎んでいたのか? 犯罪組織に渡すほどに」
「ああ、ハハハ。安心しろ……アメリは無事だよ。俺が自棄やけになってアンダー・ドラゴンへ入ったのは……、アメリと別れただいぶ後だよ」
「!」

 ルパートが目を丸くした。私達も。

「さっき話したのは嘘だったのか!?」
「それくらい言わなきゃ……、おまえは俺を斬れないだろ? 超が付く甘ちゃんだもんな」
「………………」

 ルパートの右手から握っていた剣が落ちて、大地へ斜めに突き刺さった。

「じゃあアメリは……生きているんだな?」
「ま……幸せな結婚はできてねぇだろうがな。アメリはさ……エリート聖騎士の妻になりかけた女だから……、そこら辺の男じゃ満足できなくなっちまったんだよ。結婚相手は絶対に騎士がいいってよく言ってた……」

 アメリに限らず、騎士との結婚に憧れる女性は多い。貴族と婚姻を結ぶことが非常に難しい庶民にとっては、騎士や大商人の妻になることが最大の玉の輿だったりするのだ。

「騎士団界隈にはアイツの悪評が流れてしまったから……、騎士にこだわっても無駄なのにな。妥協できずに……婚期を逃す……そのパターンだろうさ。ハハッ……」
「………………」
「うぐっ!」
「ギル!」

 ルパートは膝を折り、痛みで顔をしかめたギルの顔を覗き込んだ。
 急所は外れたらしいが、見た感じではギルの腹部は深く斬れていて出血量も多かった。つらそうな呼吸がそれを裏付けた。
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