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覚悟(2)
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ガンガンガンッ。
獅子の顔をモチーフにしたノッカーでマシューが大きな玄関扉を叩いた。
待つこと一分。再度マシューがノッカーに手をかけようした時、内側から扉が開かれた。
三十代後半くらいの細身の男性で、高そうなシャツを着て髭も綺麗に剃ってある。見た限りでは犯罪者に見えない紳士風の装いだ。
「……どちら様でしょうか?」
「王国兵団から参りましたマシュー中隊長です」
マシューが胸元の輝ける黄金バッチを男に見せつけた。男は眉を顰めた。
「聖騎士様が当家に何の御用でしょう?」
「六軒先に住むトロイヤ氏、ご存知ですかね? 彼の屋敷へ三日前に泥棒が入ったそうで、周辺に聞き取り調査をしているんですよ」
「聖騎士様自らが聞き取りを? それに後ろの方々は冒険者ギルドの職員さん達では?」
男がこう反応するのは当然のことだった。隊長クラスは命令だけするのが基本で、実際に足を使う仕事は下級兵士に回される。聖騎士が冒険者登録までしていると知ったら驚くだろうな。
そして後列の私達は赤く目立つ防御ベストを着用していた。
「トロイヤ氏は準貴族で、男爵であるエディオン様と懇意にしているんです」
「エディオン……。このフィースノーを統治する領主様ですね」
「ええ。そのエディオン様のご依頼で、兵団と冒険者ギルドが合同捜査で盗っ人を追っているという訳です」
何とまぁスラスラと嘘を吐けるものだ。エディオンはマシューの実家やん。と言うことはトロイヤ氏とはマシューパパのお友達か。勝手に名前を借りていいんかな?
しかし貴族絡みという説明を受けて、男は聖騎士が動いていることに納得した様子だった。
「それで三日前ですが、妙な物音を聞いたり怪しい人物を見かけたりしていませんか?」
「私は特に何も……」
「ご家族にも話を伺いたいのですがご在宅ですか? 届けによるとご兄弟がいらっしゃるんですよね?」
「はい。ですが最近この地区に越してきたばかりでして、お恥ずかしい話、まだ荷解きが済んでおらず家の中がグチャグチャなんですよ。兄弟をここに呼んでまいりますので少しお待ち下さい」
家の中には通さないか。中に指名手配犯が居た場合、隠すか逃がすかされそうだな。
男が中へ引っ込もうとした次の瞬間、ユーリが前に出て素早い動きで男の腕を取り、玄関の外へ引き摺り出した。マシューが即座に扉を静かに閉めた。
「な、何を……もがっ」
非難しようとした男の口が影から生じた黒い手で塞がれた。マシューの闇魔法だ。ユーリによって右腕を後ろに捻られているので、男は身体の動きも封じられてしまった。
男を壁に押し付けてユーリは言った。
「……コイツはデイス。アンダー・ドラゴンの中では珍しいインテリの幹部だ」
幹部!?
名前を言い当てられたデイスは、首だけ半分振り返り目を見開いた。漸く自分を押さえる相手が、かつて仲間だった首領の護衛ユーリだと認識したのだ。
ユーリは毒殺されて死んだという情報が、裏切り者のグラハム連隊長を通してアンダー・ドラゴンへ伝わっている。そのユーリが生きて、宿敵である王国兵団や冒険者ギルドと行動を共にしているなんて、デイスは夢にも思っていなかっただろうね。
「商談と変装が上手いので、ボスが遠征する際には必ず連れていくお気に入りのメンバーだ」
「そっか……。じゃあこの家にレスター・アークが居る可能性が高いね」
マシューが笑みを消した。
「我が闇よ。彼の者へ永久の眠りを」
影から更に二本の黒い腕が出現してデイスの首へ巻き付いた。そしてゴキッと鈍い音がしてデイスが白目を剥いた。首の骨が折れたのだ。
ユーリが自立できなくなったデイスを何とも言えない表情で見つめた後、座った姿勢にして壁に寄りかからせた。下っ端の構成員とは違い幹部同士、組織に居た頃のユーリとデイスの間にはそれなりの交流が合ったはずだ。
幹部の一人、デイスの命は終わった。だが私達にとってはこれが始まりだった。
赤いレンガが積まれた屋敷を見上げて、ユーリが両の拳を強く握っていた。
「……ユアン、おまえは馬車の所まで戻っていろ」
「それがいいかもね。本当に首領が居たらキミはつらい戦いになるよ?」
ソルとマシュー両名から勧められたが、ユーリは腰のホルダーからクナイを抜いて臨戦態勢となった。
「いや俺も行く。そしてもしボスが居るなら、逮捕ではなく殺してここで終わらせたい。あの人を公開処刑なんて見世物にしたくない」
「………………」
あああああ。ユーリは重い覚悟を持っていた。
そうだよね、大切な先輩だったんだもんね。生かすことができないのなら少しでも楽に死なせてあげたいよね。
ソルはユーリの気持ちが解ったようだ。魔王軍に属する彼は人類の敵として見られているから。
「マシュー、その点の調整はつくか?」
「うーん、国からは可能な限り生け捕りにしろって命令が来ているけど、あくまでも可能な限りですもんね。激しい抵抗に遭って生け捕りは不可能でしたって報告しちゃえばいいですよ。それに……」
マシューが邪悪に顔を歪めた。病んだ笑みだ。
「命令出した文官ども、俺アイツら嫌いなんですよ。現場で動いている武官の苦労を知らずに好き勝手言いやがる。レスター・アークを公開処刑したいのは、国民の不満を中央議会から逸らしたいが為のパフォーマンスだし」
「だそうだ。ユアン、いやここからはユーリに戻って、アンダー・ドラゴン時代のおまえと決別するんだ」
「ああ! ソルさんに中隊長、感謝するよ!!」
ユーリは両手に持ったクナイを打ち鳴らした。
獅子の顔をモチーフにしたノッカーでマシューが大きな玄関扉を叩いた。
待つこと一分。再度マシューがノッカーに手をかけようした時、内側から扉が開かれた。
三十代後半くらいの細身の男性で、高そうなシャツを着て髭も綺麗に剃ってある。見た限りでは犯罪者に見えない紳士風の装いだ。
「……どちら様でしょうか?」
「王国兵団から参りましたマシュー中隊長です」
マシューが胸元の輝ける黄金バッチを男に見せつけた。男は眉を顰めた。
「聖騎士様が当家に何の御用でしょう?」
「六軒先に住むトロイヤ氏、ご存知ですかね? 彼の屋敷へ三日前に泥棒が入ったそうで、周辺に聞き取り調査をしているんですよ」
「聖騎士様自らが聞き取りを? それに後ろの方々は冒険者ギルドの職員さん達では?」
男がこう反応するのは当然のことだった。隊長クラスは命令だけするのが基本で、実際に足を使う仕事は下級兵士に回される。聖騎士が冒険者登録までしていると知ったら驚くだろうな。
そして後列の私達は赤く目立つ防御ベストを着用していた。
「トロイヤ氏は準貴族で、男爵であるエディオン様と懇意にしているんです」
「エディオン……。このフィースノーを統治する領主様ですね」
「ええ。そのエディオン様のご依頼で、兵団と冒険者ギルドが合同捜査で盗っ人を追っているという訳です」
何とまぁスラスラと嘘を吐けるものだ。エディオンはマシューの実家やん。と言うことはトロイヤ氏とはマシューパパのお友達か。勝手に名前を借りていいんかな?
しかし貴族絡みという説明を受けて、男は聖騎士が動いていることに納得した様子だった。
「それで三日前ですが、妙な物音を聞いたり怪しい人物を見かけたりしていませんか?」
「私は特に何も……」
「ご家族にも話を伺いたいのですがご在宅ですか? 届けによるとご兄弟がいらっしゃるんですよね?」
「はい。ですが最近この地区に越してきたばかりでして、お恥ずかしい話、まだ荷解きが済んでおらず家の中がグチャグチャなんですよ。兄弟をここに呼んでまいりますので少しお待ち下さい」
家の中には通さないか。中に指名手配犯が居た場合、隠すか逃がすかされそうだな。
男が中へ引っ込もうとした次の瞬間、ユーリが前に出て素早い動きで男の腕を取り、玄関の外へ引き摺り出した。マシューが即座に扉を静かに閉めた。
「な、何を……もがっ」
非難しようとした男の口が影から生じた黒い手で塞がれた。マシューの闇魔法だ。ユーリによって右腕を後ろに捻られているので、男は身体の動きも封じられてしまった。
男を壁に押し付けてユーリは言った。
「……コイツはデイス。アンダー・ドラゴンの中では珍しいインテリの幹部だ」
幹部!?
名前を言い当てられたデイスは、首だけ半分振り返り目を見開いた。漸く自分を押さえる相手が、かつて仲間だった首領の護衛ユーリだと認識したのだ。
ユーリは毒殺されて死んだという情報が、裏切り者のグラハム連隊長を通してアンダー・ドラゴンへ伝わっている。そのユーリが生きて、宿敵である王国兵団や冒険者ギルドと行動を共にしているなんて、デイスは夢にも思っていなかっただろうね。
「商談と変装が上手いので、ボスが遠征する際には必ず連れていくお気に入りのメンバーだ」
「そっか……。じゃあこの家にレスター・アークが居る可能性が高いね」
マシューが笑みを消した。
「我が闇よ。彼の者へ永久の眠りを」
影から更に二本の黒い腕が出現してデイスの首へ巻き付いた。そしてゴキッと鈍い音がしてデイスが白目を剥いた。首の骨が折れたのだ。
ユーリが自立できなくなったデイスを何とも言えない表情で見つめた後、座った姿勢にして壁に寄りかからせた。下っ端の構成員とは違い幹部同士、組織に居た頃のユーリとデイスの間にはそれなりの交流が合ったはずだ。
幹部の一人、デイスの命は終わった。だが私達にとってはこれが始まりだった。
赤いレンガが積まれた屋敷を見上げて、ユーリが両の拳を強く握っていた。
「……ユアン、おまえは馬車の所まで戻っていろ」
「それがいいかもね。本当に首領が居たらキミはつらい戦いになるよ?」
ソルとマシュー両名から勧められたが、ユーリは腰のホルダーからクナイを抜いて臨戦態勢となった。
「いや俺も行く。そしてもしボスが居るなら、逮捕ではなく殺してここで終わらせたい。あの人を公開処刑なんて見世物にしたくない」
「………………」
あああああ。ユーリは重い覚悟を持っていた。
そうだよね、大切な先輩だったんだもんね。生かすことができないのなら少しでも楽に死なせてあげたいよね。
ソルはユーリの気持ちが解ったようだ。魔王軍に属する彼は人類の敵として見られているから。
「マシュー、その点の調整はつくか?」
「うーん、国からは可能な限り生け捕りにしろって命令が来ているけど、あくまでも可能な限りですもんね。激しい抵抗に遭って生け捕りは不可能でしたって報告しちゃえばいいですよ。それに……」
マシューが邪悪に顔を歪めた。病んだ笑みだ。
「命令出した文官ども、俺アイツら嫌いなんですよ。現場で動いている武官の苦労を知らずに好き勝手言いやがる。レスター・アークを公開処刑したいのは、国民の不満を中央議会から逸らしたいが為のパフォーマンスだし」
「だそうだ。ユアン、いやここからはユーリに戻って、アンダー・ドラゴン時代のおまえと決別するんだ」
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