ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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覚悟(3)

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「よし、みんな集中! 狭い室内での戦闘だから気を抜かないでね!!」

 マシューが玄関扉を開けて、滑り込むように中へ入った。そして手で私達を招いた。ホールには誰も居ないようだ。しかし何処からか話し声が聞こえてくる。
 全員が屋敷の中へ足を踏み入れた。マシューとソルを先頭に広い廊下を足音を消して歩く。
 右手側にドアが開いたままの部屋が在り、中にはテーブルを囲んで座る三人の男達が居た。声の元はここだ。談話室のようで、男達はトランプゲームに興じていた。

「! どちら様ですか?」

 男達は侵入者である私達を見てイスから立ち上がった。

「お客様、勝手に入ってこられては困ります。玄関で兄弟の一人が対応したはずですが、彼は何処に行きました?」

 口調こそ丁寧だが、談話室に居た三人は門番デイスに比べると身だしなみが雑だった。粗暴な戦士が無理してお金持ちの振りをしているのが見て取れた。そして抜き身状態の武器を持つ私達を見て、自分達も腰の剣に手を伸ばした。
 うん、彼らもアンダー・ドラゴンの構成員だな。自宅でくつろいでいる一般市民は剣を装備していないもの。

「アイツらも幹部だ! 全員腕が立つから気をつけろ!!」

 ユーリが発言した直後にマシューとソルが駆けた。真っ直ぐ男達の元へ。

 ガキイィィン!
 互いの剣が交差した。ソルと剣を合わせた男の手が白くなっていく。

「ちっ、魔法剣か!」

 ソルの剣には水魔法が付加されている。このままでは自分の指が凍傷させられると判断した男は飛び退すさった。ソルは追い打ちをかけようとしたが、横から別の男が斬りかかってきたので今度はソルが後退した。
 流石は国内最大規模の犯罪組織で幹部にまでなった男達だ。戦い慣れている。マシューと対峙している三人目も手練れのようで、いつものように早く勝負がつかない。

「階段上にも敵影有り!」

 最後方のキースが声を張り、戦闘に参加できないでいた私とユーリが階段方向へ視線を走らせた。

「あ……!」

 騒ぎを聞きつけて二階から降りてきたのだろう、階段途中にこれまた三人の男が居てこちらを見ていた。
 その内の一人、忘れたくても忘れられない男が混ざっていた。

「レスター・アーク!!」

 私は叫んでいた。最大賞金首。アンダー・ドラゴンの首領はやはりフィースノーの街に潜伏していたのだ。
 ソルとマシューもチラリとそちらを見たが二対三で交戦中だ。すぐに自分の相手へ意識を戻した。

「おまえは……あの時の女か」

 レスターはダイレグ地方の本拠地で私に遭ったことを覚えていた。彼は階段を降りて私へ近寄ろうとしたが────、隣に居たユーリに気づいて足を止めた。

「ユー……リ…………?」

 そして次の瞬間、猛ダッシュで廊下を横切り左側の部屋へ入った。残る二人の男も首領に続く。

「待て!!」

 ユーリがすぐに後を追った。彼を独りにできないと、私とキースもユーリの後ろを駆けた。どうせ談話室に残ってもソルとマシューのペースを乱すだけだ。
 追いかけて入った部屋はガランとしていた。ダンスホールだろうか?
 庭に面した壁に縦長の大きな窓が何個も在り、その一つをレスターと彼の部下が開けようとしていた。

「逃がさない!」

 ユーリが両手に持っていたクナイを二本とも投擲とうてきした。かわされたが、庭へ逃げようとしていた男達は窓から離れた。

「やれやれ……。まさか亡霊に追われる羽目になるとは」

 ふうっと息を吐いた後にレスター・アークは、ユーリに向き直り懐かしそうに目を細めた。

「……ユーリ。本当にユーリなんだな。生きていたなら連絡くらいしろや」

 まるで友に対するような柔らかい口調だった。ユーリは無言で新たなクナイをホルダーから取り出した。

「ユーリ、何故に居るんだ? 冒険者ギルドは俺達の敵だぞ?」
「………………」

 黙るユーリへ首領の左右に立つ男達が怒鳴りつけた。

「おまえは組織とボスを裏切ったのか!?」
「あれだけボスに取り立ててもらっておきながら、この恩知らずが!!」

 彼らもおそらく幹部だ。立ち姿だけで強いと感じる。

「待て」

 ののしる男達をレスターが止めた。

「ユーリ」

 レスターが一歩前へ出た。ユーリは拒絶するように身体の前へクナイを構えた。しかしそれを見たレスターが微笑んだ。

「俺はおまえのすることなら何でも許してやれる。今までだってそうだっただろう?」
「………………」
「もう一度、俺の元へ戻ってこい」
「………………」

 更に一歩レスターは進んだ。

「おまえの居場所を俺が造ってやる」
「!…………」

 クナイを持つユーリの手が震えた。「居場所を造ってやる」。もしかしてこれってばユーリにとっての殺し文句?
 東国からラグゼリア王国へ来たばかりの独りぼっちだったユーリを、傭兵の先輩だったレスターは同じ言葉で励ましたのではないだろうか。
 だとしたらマズイ。ユーリの気持ちが揺れてしまう。

「……俺はもう組織へは戻らない」

 しかしユーリはハッキリ言ってくれたのだ。

「今の俺は、コイツらと共に在る」

 うっほあぁぁぁ、嬉しい!!
 これから殺し合いをするこの場面、緊張と恐怖で心臓がバクバク不協和音をかなでているけど、仲間と認めてくれたユーリの言葉で勇気付けられた。ユーリとキースと私、何が何でも戦い抜いてやる。
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