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覚悟(4)
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「………………」
レスターは笑みを消して、長めの髪を傷痕だらけの腕で掻き上げた。
「おいユーリ、本拠地を王国兵団に落とされて、組織に居ては分が悪いと計算したのか?」
……は?
「おおかた司法取引で命を助けるとか言われたんだろうがな、そちらに居る限りおまえはいいように扱われるぞ?」
ちょっと何言ってんの? それは違うよ首領。
「アンダー・ドラゴンは決して潰れない。確かに兵団は組織の財産を回収して貴族の内通者を告発した。だがな、奴らが把握しているのはほんの一部に過ぎねぇ」
そうじゃない、ユーリが重要視しているのはそこじゃないんだよ。
「組織にはまだまだ隠し財産も、隠された人脈もたくさん存在するんだ。ほとぼりが冷めたら必ず巻き返す。だからユーリ、俺の元へ……」
「彼はそんな損得勘定で動いてないから!」
レスターに言い返したのは私だった。
「ユーリはね、グラハムの阿保に毒を盛られて殺されそうになったのに、あなたを庇って情報を渡そうとしなかった」
「………………」
「兵団との司法取引も蹴って、一犯罪者としてあなたの為に処刑台に昇ろうとした。そんな人が自己保身を図ると思うの?」
レスターは鋭い目つきで私を睨んだ。背筋が冷たくなる、そんな視線だ。
「では何故ユーリは俺ではなくおまえの側に居る? 俺の為に死のうとしてくれた男が」
「それ以上の覚悟が彼の中にできたからだよ!」
「それは何だ」
ここでついにユーリが答えた。
「アンタを殺す覚悟だよ、ボス」
静かで、だけれど決意を込めた強い言霊《ことだま》だった。
「アンタの復讐心も、世を変えたいと願う気持ちも解るつもりだ。だから一度は何処までも付いていくつもりだった」
「……今はそうじゃねぇんだな?」
「ああ。アンタのやり方は急ぎ過ぎている。……そして多くの血が流れる。アンタが生きている限りずっと、これからも」
「仕方が無い。変革には犠牲がつきものだ」
「以前の俺もそう思っていた。でもコイツらと一緒に行動してみたら考えが変わったんだ」
ユーリは微かに笑った。
「人を襲うモンスターを退治したり、行方不明者を捜索したり、落し物を拾いに行ったり、そんなことに全力を懸けている。冒険者ギルドの活動で政治を変えることはできないだろう……。でも依頼は住人みんなの望みなんだ。それを叶える為にコツコツ頑張っている。俺はゆっくり、そうやって国と関わっていきたい」
「………………」
レスターはガシガシと乱暴に頭を掻いた。くすんだ金髪が乱れた。
「ユーリおまえ、ずいぶんと変わっちまったな」
「………………」
「忍びとしての牙も抜けてしまったじゃねぇか」
「そうかもな。だが俺は今の自分の方がいい」
「……クッ、ハハハハハ!」
レスターは大きな声で笑い、腰に下げていた自身の剣を引き抜いた。
「なら残念だがユーリ、俺はおまえを殺さなきゃならん。まだ死ぬ訳にはいかないんでな!!」
その言葉が合図だった。談話室に続きダンスホールも戦場と化した。
「……無理はするなよ。危なくなったら俺のことは気にせず、ソルさんや中隊長の元まで走れ」
私とキースに小さい声でそう助言したユーリは、迷うことなく首領レスター・アークへ向かっていった。馬鹿。あなたを残して逃げられる訳がないでしょう。
「ボスは殺らせねぇ!!」
ユーリの突進を防ごうと、レスターの左右に居た男達が数歩前へ出た。しかし彼らが包囲する前にすり抜けるようにダッシュしたユーリは、あっという間にレスターの懐まで近接した。
「覚悟!」
ユーリが舞うようにレスターへ斬り付ける。彼が装備するクナイは小型剣だが、リーチの短さを両手の素早い連撃で補った。レスターはそれらを避けつつタイミングを見計らって己の剣を振るう。どちらも達人の域だ。
「ユーリ、この野郎!」
幹部であろう男二人が尚もユーリへちょっかいをかけようとしたので、私が鞭を伸ばして牽制した。ユーリの戦いの邪魔はさせない。
「女!」
幹部達は私とキースに殺害目標を切り替えて近付いてきた。どちらかに当たればいいと横へ鞭を振った。
ヒット! 左の男にはかわされたが、先端の鋼石が右の男の太股を掠めた。その途端に男の脚がパキパキパキと凍り始めた。
「うおっ!?」
鞭のダメージ自体は大したことない。だが馬車から降りる直前にソルが水魔法を付加してくれていたのだ。男は手を使って薄く張った氷を剥がした。その隙にもう一撃、と思ったのだが……
「ギルド職員ごときが調子に乗るな!!」
無傷な方の男が私へ襲いかかった。最初の一撃は怒りに任せての大振りだったので私は悠々と避けて、一歩踏み込んで半回し蹴りを男の腹へ叩き込んだ。痛みに顔を歪めて男は数歩後退した。ギルド職員を舐めるな。
私の意外な強さを知った幹部二人組は表情を引き締めた。
そして先程までとは違う本気の攻めを見せたのだった。
「くうっ……!」
腕の立つ剣士二人の猛攻、とても反撃ができる余裕が無く防戦一方だ。一分も経つとそれすら難しくなってきた。
一人の斬撃を避けたタイミングで、もう一人が横から剣を突き刺してきた。これはかわせない! 私が独りならそうだ。
バンッ!
でもね、私の傍にはキースが居てくれるんだ。私の危機に合わせて張られた防御障壁が男を弾いた。
「いてっ! ……何だソイツは結界師か!?」
男達が驚いた瞬間、私は駆けて別方向から鞭で打った。不意を突かれた男達はそれぞれ、顔と腕に裂傷と凍傷をこさえていた。
「ううっ!」
「いてぇな、畜生!!」
激昂した男達だがキースの防御障壁を越えることはできない。私はキースが造ってくれた安全地帯から鞭をビュンビュン唸らせた。気分はすっかり女王様だ。一撃一撃は軽いものだが、幹部二人の身体に少しずつダメージが蓄積していった。
これはいい感じだ。倒し切れなくても、ソルとマシューが来るまでの時間稼ぎは充分にできそうだ。
レスターは笑みを消して、長めの髪を傷痕だらけの腕で掻き上げた。
「おいユーリ、本拠地を王国兵団に落とされて、組織に居ては分が悪いと計算したのか?」
……は?
「おおかた司法取引で命を助けるとか言われたんだろうがな、そちらに居る限りおまえはいいように扱われるぞ?」
ちょっと何言ってんの? それは違うよ首領。
「アンダー・ドラゴンは決して潰れない。確かに兵団は組織の財産を回収して貴族の内通者を告発した。だがな、奴らが把握しているのはほんの一部に過ぎねぇ」
そうじゃない、ユーリが重要視しているのはそこじゃないんだよ。
「組織にはまだまだ隠し財産も、隠された人脈もたくさん存在するんだ。ほとぼりが冷めたら必ず巻き返す。だからユーリ、俺の元へ……」
「彼はそんな損得勘定で動いてないから!」
レスターに言い返したのは私だった。
「ユーリはね、グラハムの阿保に毒を盛られて殺されそうになったのに、あなたを庇って情報を渡そうとしなかった」
「………………」
「兵団との司法取引も蹴って、一犯罪者としてあなたの為に処刑台に昇ろうとした。そんな人が自己保身を図ると思うの?」
レスターは鋭い目つきで私を睨んだ。背筋が冷たくなる、そんな視線だ。
「では何故ユーリは俺ではなくおまえの側に居る? 俺の為に死のうとしてくれた男が」
「それ以上の覚悟が彼の中にできたからだよ!」
「それは何だ」
ここでついにユーリが答えた。
「アンタを殺す覚悟だよ、ボス」
静かで、だけれど決意を込めた強い言霊《ことだま》だった。
「アンタの復讐心も、世を変えたいと願う気持ちも解るつもりだ。だから一度は何処までも付いていくつもりだった」
「……今はそうじゃねぇんだな?」
「ああ。アンタのやり方は急ぎ過ぎている。……そして多くの血が流れる。アンタが生きている限りずっと、これからも」
「仕方が無い。変革には犠牲がつきものだ」
「以前の俺もそう思っていた。でもコイツらと一緒に行動してみたら考えが変わったんだ」
ユーリは微かに笑った。
「人を襲うモンスターを退治したり、行方不明者を捜索したり、落し物を拾いに行ったり、そんなことに全力を懸けている。冒険者ギルドの活動で政治を変えることはできないだろう……。でも依頼は住人みんなの望みなんだ。それを叶える為にコツコツ頑張っている。俺はゆっくり、そうやって国と関わっていきたい」
「………………」
レスターはガシガシと乱暴に頭を掻いた。くすんだ金髪が乱れた。
「ユーリおまえ、ずいぶんと変わっちまったな」
「………………」
「忍びとしての牙も抜けてしまったじゃねぇか」
「そうかもな。だが俺は今の自分の方がいい」
「……クッ、ハハハハハ!」
レスターは大きな声で笑い、腰に下げていた自身の剣を引き抜いた。
「なら残念だがユーリ、俺はおまえを殺さなきゃならん。まだ死ぬ訳にはいかないんでな!!」
その言葉が合図だった。談話室に続きダンスホールも戦場と化した。
「……無理はするなよ。危なくなったら俺のことは気にせず、ソルさんや中隊長の元まで走れ」
私とキースに小さい声でそう助言したユーリは、迷うことなく首領レスター・アークへ向かっていった。馬鹿。あなたを残して逃げられる訳がないでしょう。
「ボスは殺らせねぇ!!」
ユーリの突進を防ごうと、レスターの左右に居た男達が数歩前へ出た。しかし彼らが包囲する前にすり抜けるようにダッシュしたユーリは、あっという間にレスターの懐まで近接した。
「覚悟!」
ユーリが舞うようにレスターへ斬り付ける。彼が装備するクナイは小型剣だが、リーチの短さを両手の素早い連撃で補った。レスターはそれらを避けつつタイミングを見計らって己の剣を振るう。どちらも達人の域だ。
「ユーリ、この野郎!」
幹部であろう男二人が尚もユーリへちょっかいをかけようとしたので、私が鞭を伸ばして牽制した。ユーリの戦いの邪魔はさせない。
「女!」
幹部達は私とキースに殺害目標を切り替えて近付いてきた。どちらかに当たればいいと横へ鞭を振った。
ヒット! 左の男にはかわされたが、先端の鋼石が右の男の太股を掠めた。その途端に男の脚がパキパキパキと凍り始めた。
「うおっ!?」
鞭のダメージ自体は大したことない。だが馬車から降りる直前にソルが水魔法を付加してくれていたのだ。男は手を使って薄く張った氷を剥がした。その隙にもう一撃、と思ったのだが……
「ギルド職員ごときが調子に乗るな!!」
無傷な方の男が私へ襲いかかった。最初の一撃は怒りに任せての大振りだったので私は悠々と避けて、一歩踏み込んで半回し蹴りを男の腹へ叩き込んだ。痛みに顔を歪めて男は数歩後退した。ギルド職員を舐めるな。
私の意外な強さを知った幹部二人組は表情を引き締めた。
そして先程までとは違う本気の攻めを見せたのだった。
「くうっ……!」
腕の立つ剣士二人の猛攻、とても反撃ができる余裕が無く防戦一方だ。一分も経つとそれすら難しくなってきた。
一人の斬撃を避けたタイミングで、もう一人が横から剣を突き刺してきた。これはかわせない! 私が独りならそうだ。
バンッ!
でもね、私の傍にはキースが居てくれるんだ。私の危機に合わせて張られた防御障壁が男を弾いた。
「いてっ! ……何だソイツは結界師か!?」
男達が驚いた瞬間、私は駆けて別方向から鞭で打った。不意を突かれた男達はそれぞれ、顔と腕に裂傷と凍傷をこさえていた。
「ううっ!」
「いてぇな、畜生!!」
激昂した男達だがキースの防御障壁を越えることはできない。私はキースが造ってくれた安全地帯から鞭をビュンビュン唸らせた。気分はすっかり女王様だ。一撃一撃は軽いものだが、幹部二人の身体に少しずつダメージが蓄積していった。
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