252 / 291
墜ちた者 這い上がる者(5)
しおりを挟む
「ロックウィーナに殺人を決意させたことが問題なんだよ。彼女は人が死ぬ場面ではいつも後ろで震えていた」
「そうだな」
「なのに今回は僕がレスター・アークを討ち仕損じたから……、頼りない僕に代わって、ロックウィーナがその役目を遂行しようとしたんだ」
「阿保」
吐き捨てたアルクナイトは舌打ちのオマケも付けた。
「ユーリの話では、首領はもう戦える状態ではなかったそうじゃないか。ロウィーが急いでとどめを刺す必要なんてなかったんだよ。後から来たソル達に頼むなりすれば良かった。それに内臓をやられた首領は、おそらく放っておいても死んでいた」
「え、じゃあ何で彼女は……。ああ、緊迫した場面で混乱していたのか」
「白、貴様は滅多にお目にかかれない阿呆ベスト・オブ・ザ・イヤーだ」
何かお洒落な言い回しで酷いことを言われた。
「ロウィーは正常思考だった」
「キミはあの場に居なかったじゃないか」
「見ていなくても行動で解る」
「?…………」
腑に落ちない僕へアルクナイトはゆっくり告げた。
「ロウィーはな、貴様が行く所なら何処までも、何が遭っても付いていこうと覚悟を決めたんだよ。……例えそこが闇の底だろうとな」
「!」
「禁呪を使ったおまえを独りにしない為に、一緒にレスターを殺そうとしたんだ」
僕の呼吸が激しくなった。身体を治してもらったはずなのに胸が強く痛む。
「何で、何でロックウィーナは……」
混乱しているのは僕の方だった。理解が追い付かない。
「どうして僕なんかを選んだんだよ! どうしてわざわざ不幸な道を進もうとするんだ!? 僕が女だったら絶対にキミやエリアスさんを選んでいる!!」
「ああ、それにはまるっと同意だ。俺やエリーのようなイイ男を袖にするなどロウィーはどうかしている。俺とエリーには顔、身体、強さ、決断力、包容力に経済力、セクシーさにキュートさ、全てが備わっているのに」
僕はそこまで褒めていないぞ、図々しいヤツ。
アルクナイトは苦々しく笑った。
「それでもな、ロウィーが選んだのは貴様なんだよ」
「………………」
「人の心は理屈では語れないんだ。ロウィーにとって貴様と歩むことは不幸な道じゃないんだろう」
「………………」
「彼女は決めた。後は貴様次第だ。このままでいるか、這い上がるのか」
「どうして……」
「ん?」
「どうしてキミは、そんな風に親身になってくれるんだ。僕はキミの憎い恋敵だろう?」
「ロウィーを愛しているからだ」
アルクナイトがキッパリと言い切った。
「彼女が幸せになること、それが俺にとっての幸せだ」
「……自分の恋が実らないとしても?」
「そうだ。貴様だってロウィーに告られた時、身を引いて俺に託そうとしたじゃないか」
「ああ……そうか、そういうことなんだ…………」
ロックウィーナに笑顔でいて欲しい。充実した生活を送って欲しい。幸せになって欲しい。
それが僕の望みだ。でも僕には彼女を幸せにできる自信が無い。だから他の男との恋を応援してしまった。
ロックウィーナは僕を好きなのに。
彼女の幸せを願いながら、最も大切にしなくちゃならない彼女の気持ちをないがしろにしている。
僕はなんて馬鹿なんだ。
「!?」
不意にアルクナイトの手の平が僕の頭の上に乗った。そして左右に滑らかに動く。……これはもしや頭を撫《な》でられているのか?
「何してんの? 魔王」
「貴様が泣きそうだったのでヨシヨシしている」
「あのさぁ、僕はもう少しで30歳なんだけど?」
「それがどうした。俺から見たら赤子も同然だ」
「そりゃ、キミの基準ならね……」
年齢は岩見鈴音が作った設定で、本当は僕達みんな生まれてから数ヶ月なんだっけ。でも魔王の言動には悔しいけれど、設定とは思えない成熟した大人の深みを感じる。温かさも。
「白、貴様はガキの頃からあまり大人に甘えてこなかっただろう?」
「!」
言い当てられてドキリとした。
僕は人との……特に肌の接触が怖くて、つい距離を取ってしまう癖が有った。両親やケイシーともスキンシップはほとんど無かったな。
「いくつだろうが関係無い。余裕が無い時は周囲に頼って甘えろ」
不思議とアルクナイトに触れられても嫌悪感が無い。むしろ心地良い。
「もしもこの先、這い上がれずに行き場が無くなったら魔王軍に入ればいい。みんな訳あり連中だ」
おいおい。至れり尽くせりじゃないか。
「ふふっ、転職先を用意してくれるなんて親切にも程がある。世界を恐怖に陥れた魔王が何やってんのさ?」
「最近はリクルートにも力を入れている」
「まったく……。何処まで本気で何処から悪ふざけなんだか」
憎まれ口をきいていないと涙が出そうになる。彼の前では泣きたくない。負けた気分になる。
だというのにアルクナイトは発したのだ。とどめの一言を。
「貴様は独りじゃない。それだけ覚えておけ」
あーあ、ついに僕の目から涙が零れ落ちた。いい歳した男を泣かせんなって。
そんなだからキミのことが嫌いなんだよ。馬鹿魔王が。
「……ちょっと気になるんだけど、何で今は彼女をロウィーと呼んでいるんだ? みんなの前ではロックウィーナ呼びだろう?」
「普段からロウィーと愛称で呼びたいんだが、エリーが何かと突っかかってくるんだ。嫉妬しているんだろうな。アイツのこともちゃんとエリーと可愛く呼んでやっているのに」
エリアスの嫉妬の意味合いが違う気がする。やっぱりズレてるなこの魔王は。どれだけ自分に自信が有るんだか。
僕は笑って、もう一粒涙を落とした。
「そうだな」
「なのに今回は僕がレスター・アークを討ち仕損じたから……、頼りない僕に代わって、ロックウィーナがその役目を遂行しようとしたんだ」
「阿保」
吐き捨てたアルクナイトは舌打ちのオマケも付けた。
「ユーリの話では、首領はもう戦える状態ではなかったそうじゃないか。ロウィーが急いでとどめを刺す必要なんてなかったんだよ。後から来たソル達に頼むなりすれば良かった。それに内臓をやられた首領は、おそらく放っておいても死んでいた」
「え、じゃあ何で彼女は……。ああ、緊迫した場面で混乱していたのか」
「白、貴様は滅多にお目にかかれない阿呆ベスト・オブ・ザ・イヤーだ」
何かお洒落な言い回しで酷いことを言われた。
「ロウィーは正常思考だった」
「キミはあの場に居なかったじゃないか」
「見ていなくても行動で解る」
「?…………」
腑に落ちない僕へアルクナイトはゆっくり告げた。
「ロウィーはな、貴様が行く所なら何処までも、何が遭っても付いていこうと覚悟を決めたんだよ。……例えそこが闇の底だろうとな」
「!」
「禁呪を使ったおまえを独りにしない為に、一緒にレスターを殺そうとしたんだ」
僕の呼吸が激しくなった。身体を治してもらったはずなのに胸が強く痛む。
「何で、何でロックウィーナは……」
混乱しているのは僕の方だった。理解が追い付かない。
「どうして僕なんかを選んだんだよ! どうしてわざわざ不幸な道を進もうとするんだ!? 僕が女だったら絶対にキミやエリアスさんを選んでいる!!」
「ああ、それにはまるっと同意だ。俺やエリーのようなイイ男を袖にするなどロウィーはどうかしている。俺とエリーには顔、身体、強さ、決断力、包容力に経済力、セクシーさにキュートさ、全てが備わっているのに」
僕はそこまで褒めていないぞ、図々しいヤツ。
アルクナイトは苦々しく笑った。
「それでもな、ロウィーが選んだのは貴様なんだよ」
「………………」
「人の心は理屈では語れないんだ。ロウィーにとって貴様と歩むことは不幸な道じゃないんだろう」
「………………」
「彼女は決めた。後は貴様次第だ。このままでいるか、這い上がるのか」
「どうして……」
「ん?」
「どうしてキミは、そんな風に親身になってくれるんだ。僕はキミの憎い恋敵だろう?」
「ロウィーを愛しているからだ」
アルクナイトがキッパリと言い切った。
「彼女が幸せになること、それが俺にとっての幸せだ」
「……自分の恋が実らないとしても?」
「そうだ。貴様だってロウィーに告られた時、身を引いて俺に託そうとしたじゃないか」
「ああ……そうか、そういうことなんだ…………」
ロックウィーナに笑顔でいて欲しい。充実した生活を送って欲しい。幸せになって欲しい。
それが僕の望みだ。でも僕には彼女を幸せにできる自信が無い。だから他の男との恋を応援してしまった。
ロックウィーナは僕を好きなのに。
彼女の幸せを願いながら、最も大切にしなくちゃならない彼女の気持ちをないがしろにしている。
僕はなんて馬鹿なんだ。
「!?」
不意にアルクナイトの手の平が僕の頭の上に乗った。そして左右に滑らかに動く。……これはもしや頭を撫《な》でられているのか?
「何してんの? 魔王」
「貴様が泣きそうだったのでヨシヨシしている」
「あのさぁ、僕はもう少しで30歳なんだけど?」
「それがどうした。俺から見たら赤子も同然だ」
「そりゃ、キミの基準ならね……」
年齢は岩見鈴音が作った設定で、本当は僕達みんな生まれてから数ヶ月なんだっけ。でも魔王の言動には悔しいけれど、設定とは思えない成熟した大人の深みを感じる。温かさも。
「白、貴様はガキの頃からあまり大人に甘えてこなかっただろう?」
「!」
言い当てられてドキリとした。
僕は人との……特に肌の接触が怖くて、つい距離を取ってしまう癖が有った。両親やケイシーともスキンシップはほとんど無かったな。
「いくつだろうが関係無い。余裕が無い時は周囲に頼って甘えろ」
不思議とアルクナイトに触れられても嫌悪感が無い。むしろ心地良い。
「もしもこの先、這い上がれずに行き場が無くなったら魔王軍に入ればいい。みんな訳あり連中だ」
おいおい。至れり尽くせりじゃないか。
「ふふっ、転職先を用意してくれるなんて親切にも程がある。世界を恐怖に陥れた魔王が何やってんのさ?」
「最近はリクルートにも力を入れている」
「まったく……。何処まで本気で何処から悪ふざけなんだか」
憎まれ口をきいていないと涙が出そうになる。彼の前では泣きたくない。負けた気分になる。
だというのにアルクナイトは発したのだ。とどめの一言を。
「貴様は独りじゃない。それだけ覚えておけ」
あーあ、ついに僕の目から涙が零れ落ちた。いい歳した男を泣かせんなって。
そんなだからキミのことが嫌いなんだよ。馬鹿魔王が。
「……ちょっと気になるんだけど、何で今は彼女をロウィーと呼んでいるんだ? みんなの前ではロックウィーナ呼びだろう?」
「普段からロウィーと愛称で呼びたいんだが、エリーが何かと突っかかってくるんだ。嫉妬しているんだろうな。アイツのこともちゃんとエリーと可愛く呼んでやっているのに」
エリアスの嫉妬の意味合いが違う気がする。やっぱりズレてるなこの魔王は。どれだけ自分に自信が有るんだか。
僕は笑って、もう一粒涙を落とした。
1
あなたにおすすめの小説
時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜
いろは
恋愛
20歳ラノベ好きの喪女の春香。いつもの週末の様にラノベを深夜まで読み寝落ちし目覚めたら森の中に。よく読むラノベの様な異世界に転移した。
突然狼に襲われ助けてくれたのは赤髪の超男前。
この男性は公爵家嫡男で公爵家に保護してもらい帰り方を探す事に。
転移した先は女神の嫉妬により男しか生まれない国。どうやら異世界から来た春香は”迷い人”と呼ばれこの国の王子が探しているらしい。”迷い人”である事を隠し困惑しながらも順応しようと奮闘する物語。
※”小説家になろう”で書いた話を改編・追記しました。あちらでは完結しています。よければ覗いてみて下さい
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる